第17話
1544年6月「ホワイトホール」の正餐会場。
ヘンリー8世がワイングラス片手に大声を上げた。「今宵は無礼講!」
立食パーティーだ。
ヘンリー王の名と神の祝福を口々に唱える参加者達。会場は大いに盛り上がった。
しばらくしてヘンリー8世の声が響く。
「皆の者、しばし注目されよ!」
会場の中央に、メアリーとエリザベスが進む。
「我が王位継承者だ!」
瞬間大喝采が鳴り響く!
この春の議会でメアリーとエリザベス両名同時に内親王復帰が承認されたのは事実だった。
このパーティーに列席するスパイは驚く。
「庶子2人が内親王に復活したのは本当だったか!」
早速本国に報告する。こうして欧州に知れ渡った。
それにしても何故メアリーとエリザベスが突然?一体何が起こったのか?
・・
1542年12月
スコットランド戦の勝利の喜びに沸いていたところに1通のレターが届く。
送り主はあの神聖ローマ皇帝カール5世からではないか?!
「ヘンリー王よ、仏フランソワ1世を攻撃せよ」
命令口調だが、同盟の申し入れだ。
大国ハプスブルク家カール5世は
最初の妻キャサリンの甥っ子
なので1533年に離婚するとカールは怒り、一色触発の危険な状況であったが、
オスマンと同盟し攻撃してくる仏を叩く為、英国を頼った。
「スコットランドを倒した実力があるのか。では、ヘンリーも役に立つか」
カール5世はヘンリー王の仏外征を後押ししたのだ。
頼りになる後ろ盾を得たヘンリー王
仏外征は英国の悲願だ。
「こんな機会は又と無い」
ヘンリー王は早速準備する。
外征は死を伴うリスク。
後継者は幼いエドワード王子ただ一人。
なので、万が一に備えメアリーとエリザベスを王位継承者に格上げしたのだ。
重要な発表はそれだけではない
「皆の者、ちょっと良いか。」
ヘンリーはこれ以上立ってられない。
食べ過ぎだけではない、ホルモン異常もあるのだろう。
兎に角、異様な肥満で、足も腫れあがって痛みがある。
どかっとソファーに座り
「もう一人、紹介しよう、王妃キャサリンだ。」
ヘンリー王は6回目にして初めての‘思慮ある’結婚。お相手はキャサリン・パー。
スコットランドと国境を接するケンダルの有力貴族の娘だ。
英国北部には
スコットランドのカトリックの影響を受けている勢力がある。
ヘンリーが仏遠征中の機会を狙って反乱するかも知れない。
パー一族はプロテスタントであり、北部反乱勢力への抑止力が期待出来る。
しかしキャサリン・パーは残念ながら
ヘンリー好みの処女でもないし若くもない。
2回の結婚経験があり子供も居る未亡人で、
30歳と年齢も重ねている。
「あくまで英国安泰の為だ、仕方ない」
と若い侍女を諦めヘンリー王が目をつむって
1543年7月に王妃として迎え・・
・・え?ヘンリーが目をつむったって?
冗談じゃない
ヘンリーの王妃達は過去
2人は断頭台で
1人は病死、
1人は産褥死だよ!
しかもキャサリン・パーは、別の男性と婚約していたのに諦めたんだよ!
婚約相手は元ヘンリー王妃ジェン・シーモア の兄のトマス•シーモア
エドワード王子を産んで産褥死したあのジェンの兄だ。
キャサリン・パーが、もしヘンリー王を断ってトマスと結婚したら?••
••絶対君主の申し出を断るって?
そんな選択肢は彼女にある訳無いヨ。
スコットランドとの相次ぐ戦争で荒廃している故郷カンブリア再興の為、
愛するトマスを守る為、
彼女こそ泣く泣く目をつぶったんだ。
・・
(落ち着こう)
再び「ホワイトホール」に戻ろう。
ヘンリーの言葉が続く
「キャサリン王妃は朕が留守の間、摂政女王とする。枢密院の者達よ全員前にでよ!」
枢密院はクロムウェル宰相を処刑後にヘンリーが開設した行政機関且つ王の諮問機関。
クロムウェルの様に行政を個人が独占せぬよう、公式記録係も備え、
王の目が届くよう、王と同じ部屋に常設された。
「朕不在の間は、キャサリン王妃の指示に従うよう!」
・・
パーティー終了3週間後の7月11日
ヘンリー王率いる英国軍はロンドンを出発、
7月15日仏カレーに到着した
この時、エリザベスはメアリー、エドワードと共に「グリニッジ宮」から東に30㎞ほどの「ハンプトンコート宮殿」に引っ越す
キャサリン王妃と共に過ごす為だ。
今までエリザベスは王妃と過ごした事は無い。今回初めてだ
そしてこの「ハンプトンコート宮殿」で、エリザベスはキャサリン王妃の仕事ぶりを目の当たりにする
「格好良い!」
枢密院には選りすぐりの優秀な人材が集められて居り、権謀術数に長けた一筋縄では行かないタフな男達だ
そんな彼らを、30歳そこそこの背の低い女性が
彼らを呼び付け、
報告させ、
指示を出す
「本当、キャサリン・パー王妃、格好良い!」
11歳に成長したエリザベス内親王は
彼女に魅せられていた。
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