第12話
「フランスからの執行官は腕が良いと聞いて居ります。」
アン・プーリンは上機嫌に続けた
「きっと、うまくいきますわ。
だって私の首は細いんですもの」
そう、アンの言葉通りうまくいった。彼女の細い首は、一閃で静かに床に転げ落ちたのだ。
場所は1536年5月19日 暗い「ロンドン塔」
‥
その4ヶ月ほど前に遡る。
王妃アンは、全王妃キャサリンの葬儀当日に流産した。
生れていれば王子であった
流産が葬儀と同日であったのは偶然ではない。
窮地に追い込まれたカトリック一派がアンに仕込んだのだ
「グリニッジ宮殿」では
アン王妃に従った侍女達も事情は理解している。なので、
誰も悲しまず、
誰も喜ばず、
そして、誰も驚かず、
淡々と、何事もなかったかのようにいつも通り仕事をする。
流産当日の夜、アン王妃の寝室に、ヘンリー8世が勢いよく入り言い放つ
「伝えたい事がある。準備が整えれば迎えの者が来る。それまで待つように」
これが、夫王の最後の言葉となった
アン王妃の罪のでっち上げ作業が
法務、宗教、行政の3方面で抜かりなく進められる
青写真を描いたのは、プーリン家の御蔭で権力の座を射止めたトマス・クロムウェル。
デブで頬も瞼も垂れ下がる醜い人相の男だ
彼は、王に申し上げた「私が知るところ、アン王妃、いや、アンは、複数の男性と性的関係を持ち、あろうことか、兄ジョージとも、、、、すみません。ヘンリー王、あまりの事にこれ以上、ご報告申し上げるのも、、」
と芝居がかった涙を見せる
ヘンリー8世は笑顔を隠しもせず、クロムウェルの言葉を遮り、
「おお、クロムウェル宰相殿、それは嘆かわしい。アンにも神の御慈悲があるよう、取り計らってくれぬか?急げよ、宰相殿」
横で聞いていたトマス・ハワード ノーフォーク公もトマス・クランマー大主教も顔色変えず王の言葉を聞いた
早速、ノーフォーク公は、アンの兄ジョージとアンに仕えた若者5名を捕え拷問。白状した内容から宰相が青写真に修正を加える。そして大主教が宗教的罪状を練り上げる
こうして、アンの叔父ノーフォーク公の主導による裁判が5月15日に開かれ、
アンは魔女だと認定された。
イギリスの罪人は、斧で首が刎ねられる。
斧は重いので、一撃で首に当たらない事もあり、肩や頭に当たると、
すぐには死ねず悶え苦しみ暴れ、なので何度も斧を振り落とす事になる
もっといえば、兄ジョージとの近親相姦の罪に問われたアンは魔女だ
大衆面前で内臓を引き裂かれ火炙りにされてもおかしくない
アンの最後の願いはかなった。わざわざフランスから腕のよい処刑執行官を呼び寄せたのは、ノーフォーク公が可愛い姪っ子にできた唯一の?慈悲であった
慈悲?本当に?
アンの処刑の翌日、ヘンリー8世はジェン•シーモアとの婚約を発表
さあ、母を失い、まだ3歳に満たない赤子エリザベスの戦いが始まる
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