第14話

間もなく日が暮れる「ハットフィールド宮」


弟エドワードを真ん中に

エリザベスと姉メアリーが豪華な料理の前で着席している


重い沈黙••


(ヘンリー王がもうすぐ来る!)


姉弟3名揃ってヘンリー王と対峙するのは初めての事。実父なのに直接会話を交わす機会が殆ど無い絶対権力者だ。


3名の鼓動が高鳴る。

足音が近づく。

ドアが開く、凄いオーラだ。


圧倒されそうになりながらも一声を発したのは幼いエリザベスだ

「おお、父上殿におかれましては・・」


しかしエリザベスの言葉は遮られた。


「おお、エドワード元気そうでなによりではないか?ラテン語とギリシャ語の習得は・・?」


傍らに座るエリザベスなどヘンリーには眼中にない。

「ハットフィールド宮」を訪れたのは真正面に座るエドワード王子の成長の確認だ


エリザベスはメアリーから教わった「席順」を失念してしまった。

庶子であるレディー・エリザベスが第一声を発する。これは礼に失する。

しかしエリザベスは顔色変えず何事も無かったかのように姿勢を正す


・・

3歳で母アンが処刑されてからこの4年間、エリザベスが心を休める事はない


表情を出さず

周囲を観察し

訪問客から内外の情報を積極的に入手し

整理し考えぬいた上で、

王の娘として振る舞いきった。


語学は7歳にして

ラテン語、ギリシャ語はもちろん

イタリア語、フランス語、ウェールズ語も相当なレベルまで上達、

且つ努力した風を見せないよう腐心する。

自分は選ばれし王の娘であることを皆に知らしめる為だ


そして特に注意を払ったのは

17歳上のレディー・メアリーと

3歳下のエドワード王子。

言動を誤ればいつ処罰、いや処刑されるか分からない


メアリーには何も知らない妹として可愛がられるよう

エドワードには学問ができる賢い姉であるべく努力をやりぬいた。


そして最も重要な事、それは

「母アンの名前を出さない」


表敬訪問者には常に父との関係を強調する。

「ヘンリー王の調子は如何か?相変わらず健康であらせられるか?」と。


さて宮廷では宗教を巡る駆け引きが激化する。

プロテスタントのクロムウェル宰相の権力が増したが、

カトリック勢力が「6ヶ条法」を制定したのだ。


意味するところは

①神父は神の言葉を預かる崇高な存在であり、

②庶民は神父の言葉(聖書ではなく)に従う事を強要し、

③英訳の聖書は禁止され、読むと異端として処罰される。


つまり

「聖書は読むな‼️神父の言葉に従え」

カトリック勢力の強いメッセージを法定化したのだ。


言動がしくじれば、自身も家族も粛正される。両陣営とも必死に相手の隙を見つけ出そうとする。

••

「ハットフィールド宮」に戻ろう


エリザベスは、ただ、黙って勉強していたわけではない


ある日、フランス語の「時禱書」を4歳の弟エドワードに見せた。


母がかつて「グリニッジ宮殿」で毎朝侍女達に朗誦させた例の時禱書だ。


「ほおら、綺麗な画と思いませんか?。ここ、そして、ここに書いてあるのは、ね、

エドワード王子が頑張って取り組んでるフランス語です。」


エリザベスは時禱書をさっと背中に隠し


「神はね。“聖書”に見出せます。

エドワード王子。神の恩寵に触れたくありまありませんか?

フランス語を習得して、そして“父上”が期待するラテン語、ギリシャ語を理解出来れば、エドワード王子、••もっと神を感じれます!」

「レディ- エリザベス。ありがとうございます。エリザベスの様に語学習得に努めます」


母の名を出さずとも母の事は忘れてはいない。

カトリックである義姉メアリーに密かに密かにエリザベスは戦っていた





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