第15話
クロムウェル宰相の執務室。
「何?宮廷画家ホルバインから手紙?注文した画がまだ出来ぬというのに何事だ?」
クロムウェル宰相は焦っていた。
カトリック勢力に「6ヶ条法」を許してしまい、プロテスタント勢力が追い込まれたからだ
(このままでは、異端として処刑される・・)
世話になったプーリン家を裏切った事で、後ろ盾が薄くなった。
ただでさえ卑しい羊毛梳きから成り上がった身。地盤は脆い。
(法改正は無理だ。外交で巻き返そう。それにヘンリー王は幸い独身だ。)
・・
スペインとフランスは、オスマン帝国の脅威に備え休戦中で対外戦争を一旦休止した。ましてや英国に攻撃を仕掛ける余裕は無い。
そこで、クロムウェル宰相は
「ヘンリー王、フランスを叩くチャンスです。」
「さあ、準備を致しましょう。まずフランドルに近いクレーヴ候と手を組むのです。」
クレーヴ侯はプロテスタントだからというのが見え透いたクロムウェルの本音をヘンリー王は理解し、無視をする。
「話は変わりますが、ヘンリー王。侍女ではなく、王家の娘には興味はございませぬか?」
「ジェン王妃が亡くなられてから3年経過して居ります」
そして白々しく独り言のように
「・・おお、そうだ、そうです、そうですとも。確かクレーヴ候には25歳の娘が居ります。名はアンと申しましたでしょうか?」
「それに当侯国はプロテスタントです。カトリックと違って、
“お堅くは無い”かと。」
“お堅くは無い”、つまり
結婚はローマ教皇の許可は不要で、
離婚もヘンリー王の意のまま
とクロムウェルは言いたいのだ
ヘンリー王は乗り気になった。
そこで、クロムウェル宰相は宮廷画家のホルバインを派遣し、クレーヴ候の娘アンの肖像画の作成を命じたのだが
その肝心の肖像画がまだ完成しないのだ
・・
再びクロムウェルの執務室に戻ろう
「ホルバインは何をしておるのだ、うむ?
『恐れながら残念なお知らせがございます。』
ん?何だ?
『アン王女の御容姿は、老婆のようです。
とても25歳には見えませぬ。
肖像画は如何致しましょうか?
(盛りましょうか?)』
・・・・」
この時代、25歳まで結婚ができないのは理由がある。
クロムウェル宰相はペンを取った
「ホルバイン画伯よ、盛れ!」
••
そして1539年の夏、ホルバインが“清楚な”アン・オブ・クレーブの肖像画を持参した。
ヘンリーは大変気に入り興奮する。
「美形ではないか!すぐにでも妃を娶ろうではないか!」
さあ、どうなったか?
1540年1月6日ヘンリー8世はドーバー海峡を渡り、式を挙げた
新婚初夜は何も起こらない
ヘンリーは次の日離婚を申請
半年後、離婚成立。
トマス・クロムウェルは処刑死
宮廷画家ホルバインは追放
エリザベスの母アンプーリンを裏切ったクロムウェルは、アン・オブ・クレーヴの醜い容姿を偽ったが故に命運尽きた。
優秀で抜け目ない行政官クロムウェル。
卑しい身分から宰相に昇り詰める途上、何度手を汚したことか、、
「何だこの糞みたいな人生?」
錠に繋がれ首吊り台に向かう梯子の途上、クロムウェルは吐き捨てた
しかしこのクロムウェルの無念は、100年後、彼の子孫が晴らした。
国王を斬首処刑死させるのだ
・・
さて、ヘンリー王はまたも侍女に手を出した。
離婚後2週間で、アン・オブ・クレーヴの侍女、
キャサリン・ハワードと電撃結婚
ヘンリーより30も若い19歳。
裏を言うと、この侍女は、エリザベスの母アン・プーリンの従妹
叔父であるトマス•ハワード ノーフォーク公が、可愛い姪を仕込んだのだ
では、離婚されたアン・オブ・クレーヴは?
何とヘンリー王の妹となった。
離婚はするがクレーヴ侯国は必要。悩んだ末に「妻はダメだけど妹で」と安易な判断。
彼女には、かつてアン・プーリン所有のケント州ヒーヴァー城を与えるなど破格の待遇で迎える。
この奇妙なヘンリー王の新たな妹が将来、エリザベスの味方となる
彼女は何処の王宮にも出入りが許される特権を持つ、つまり「ハットフィールド宮」にも出入りが可能なプロテスタントだからだ。
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