実は入り口に転送装置

余分に出した耳栓を懐に戻し、キスアは全員に行きわたり、装着するのを確認した。


「それじゃ洞窟にいきましょ〜!」

にっこにこの朗笑で喜び勇み、目前に口を見せる洞窟へ赴こうとするキスア。

すかさず後ろから抱っこをしようと構えるクゥちゃん。デハルタは中腰になってその肩に手を置き微苦笑を見せていた。

「今は止しておこうね」


クゥちゃんは「なぜ止めるのだ」と言わんばかりの表情でデハルタをみるものの、それにはかぶりを振って応えるだけだった。

その様子を見て不服なクゥちゃんをおいて、トレイル、マキーリュイはキスアの後に続いていく。デハルタもゆっくりと背筋を伸ばして、歩いて行った。


クゥちゃんはとても不服そうな表情をしたまま、最後尾を着いていった。


轟音ごうおん響く配達所を横目に、その側を通り抜けていくと、山岳斜面さんがくしゃめんの岩壁に大きく口を開けた洞窟が視界に収まった。


「あぁ…これが今回行く洞窟なんですね…!」

感嘆の声を漏らし、ここでしか採れない素材に思いを馳せ、うっとりとしているキスアの横に、デハルタは立ち並ぶ。


「6合16番坑道、『力源りょくげんいわや』だよ。6合にいくつかあるうちの16個目じゃなくて、この山で発見された16番目の洞窟って意味での番号らしいよ」


「そうなんですね、その力源りょくげんってどういう意味なんですか?」


「意味は、石化した所謂いわゆるちからの塊が多く採れるからだそうで、採っても採っても泉のように生成されるから魔鉱石まこうせきの源泉だなってことからそんな名前になったんだってさ」


その分危険なところではあるんだけど、とデハルタは付け足しつつ、入口の側に鎮座ちんざするプレートと操作パネルが備え付けられた機械に近寄ると、操作パネルをいじりだす。


「何をしてるんですか?」

キスアは、そのまま洞窟へ向かうものだと思っていたデハルタが、側にあった機械を弄り始めたことを疑問に思い、問いかける。


「ボっクの研究所にもこれと同じものがあるんだ、どちらもボっクが作ったんだけど、動機は行き来が面倒くさいから。いうなれば転送装置、便利でしょ?」


「じゃあ最初から登らなくて良かったんじゃないスか〜」

至極当然の文句がトレイルの口から放たれる。その発言に「ほう、早く帰って鍛錬がしたいと…?」とマキーリュイはやる気を買って怪しく微笑み、トレイルは失言を後悔する。


「しかしそうも簡単にはいかなくてね、ボっクは簡単な魔術こそ使えるけど、魔法や魔術の力を活かした魔道具まどうぐとか作れなくてさ、魔術式まじゅつしきからの応用で素材を利用しただけの、ただの装置しか作れないんだ」

操作の手を一度止め、キスアのもとにデハルタは歩き出す。


「んなわけで、そのパネルに手を置いて?」

デハルタに言われ、キスアは疑問を浮かべたままパネルに近づき手を乗せた。


「オッオッ…なんかぴりぴりしますよ!」

キスアは少し間抜けに見える顔をさらしながらデハルタの方を向いた。


「ああそれは、指紋とついでに皮膚サンプルを採取したからね、この手順が毎回別の人間にも使わせるときに必要でね」


「でもそれって研究所のとこでも同じことしなくちゃいけないってことじゃないですか?わたしたちそれってしてないですよね?」


「行き先側には登録しなくても行くことはできるんだ、ただ研究所のものはいま動かなくてね、あのとき研究所の結界が壊されたのが影響して動かないんだ、だからおよその座標に飛ばすことになるけど…んまあつまり、帰りだけは登録さえすればすぐ研究所に飛べるわけだけどね」


「じゃあ帰りは楽っスねぇ!」

トレイルはとてもうれしそうで、相当山登りは辛かったことが喜びようから見て取れる。


そして、そんな愚かな弟子をどう扱き心身ともに鍛え直してやろうか、鍛錬のメニューを再構想していたマキーリュイであった。


―――――――――――――――

「ひっひっひっひあぁぁ…!!」

情けない声を上げて、トレイルの登録を終え、その後クゥちゃんとマキーリュイも無事登録を済ませることができた。


「さて、洞窟に入ろうか」

みなの準備が万端であることを確認して、デハルタは先導のため、先を歩き始める。


「わくわく!楽しみです!」


「ふわ…」

キスアの後ろをクゥちゃんはあくびをしながら着いて行く。


「なんか面白いこと起きるといいスねぇ…」

少し退屈そうに頭の後ろで手を組みながらトレイルも後に続く。


「分かっているだろうが、今回はデハルタの監視も兼ねているのだから、ほどほどに警戒はしておけよ」

「わかってるスよ」生返事を返しつつ、トレイルはなぜデハルタは洞窟に連れて行こうと思ったのかを考えた。


デハルタが魔獣であったとしたら、巣穴に連れて行き、自分たちのことを食べるつもりなのかもしれない。そういう危険性はある、それならば確かに警戒をしておくに越したことはないな。人間が人間を襲うことはありえない。そんな結論を出して、一応警戒をしておこうとトレイルは気を引き締めた。


デハルタの思惑は何なのか、ただキスアに珍しい素材を提供するだけであるのか…?兎にも角にも、警戒をするに越したことはない。マキーリュイの鋭い眼光が先を歩くデハルタに向けられたまま、一行は洞窟内部へと入っていくのだった。


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