ep20:驚異の対策!キスアの魔法は万能説!?いや弱点はありますよ!?

至法銀しほうぎんリル、貰ってもいいかな」

 いたずらの極みのような微笑みをしながらデハルタは指さした。

 

「何するんですかそれで……」

「いやなにこの状況をもしかしたら良くできるかもしれないじゃないか、どうせ君それを使う予定はないだろ?」

「ま、まぁ使おうと思ってなかったですけど……」

「よしじゃあ決まりね、力源連れて行った礼ってことで」

「別に欲しかったら渡しますよ……?」

「優しいねぇ……」


 デハルタは至法銀しほうぎんリルを手に取ると、首に掛けていたペンダントの紐をもち服の中から引きずりだして軽く触れた。すると一瞬の輝きを放ち、眼の前に工房が現れる。


「ななななんですと……?」

 キスアは思わず似合わない口調で驚いた。あくまで臨時のものだが、そこには必要最低限のものがあるようで、小屋くらいの大きさの建物が目の前で瞬時に展開され、自身が錬金の魔法でデタラメなことをしていてもその様子はあまりにも常識を逸脱した現象で度肝を抜かれてしまった。


「ボっクはこのまま作業するから、君も早く何か用意しておいた方がいいよ」

 突然現れた工房を特に説明することもなく、デハルタは工房の中に入っていった。扉はないが、入り口の枠から先はなぜか暗闇となっており、彼女の姿が消え、中の様子も伺えない。

 いったい中で何をするつもりなのだろうか。キスアは疑問に思いながらも、ひとまず、自分の今ある素材で何ができるのかを考えた。

 

 もう一度おさらい。これが今の手持ちの素材たち。

 

 【概念付草がいねんふそうイルアカナマ】

 一般的な雑草、普通の人が見てもその辺に生えている草にしか見えない。

 

 見た目の特徴は一本の細い葉が地面から直接生えているという表現が近い。群体で集まっていることが多く、そのため草原や道の端にぶわっと敷き詰めたように生えているのをみると割ときれい。

 

 この雑草に用途を見出すものはキスアのように錬成や研究に力を入れているものくらい。それも魔法の力を扱えるものでなければこの草の本当の価値はわからないだろう。

 

 この概念付草イルアカナマは数ある概念付草のうち、自然にある川のように「穏やかで常に流れる」という意味を与えることができる。



【フロギストン】

 生命の危機に陥るほど周囲がとても寒くなる。効果を発揮している範囲は一週間元の状態には戻らない。


【ウェウリュミナイト】

 「流れ」の事象を生じさせる鉱石。効果のあるうちは魔力で自身の思うように動せる。同じようなものをひとまとまりにして、一気に動かせる。


【オビセプライト】

 周囲を囲む障壁を作れる。

 ※注意!湖などで使うな。沈むので浮上するのが困難になる。(キスアはカナヅチ)


電熱鉱でんねつこう

 投げて砕けば周囲に爆発と雷を放つ。


【アンバライト】

 不可視のネバネバが出る。粉末にして料理に使うと、とろみ剤になる。


【プリズマイト】

 魔法や魔術を反射する。魔力を注ぐと発光する。


至法銀しほうぎんリル】

 コノセカイスゴイカタイキンゾク。

 それとは別にこの金属には『人の力となる』という不思議な謂れがある。

 ※今はデハルタが持っていったので、手持ちには無い。

 

無響石むきょうせき

 何故か音が一切生じない鉱石。衝突の力が完全に相殺されるという実は脅威の性質を持っている。硬いとかいう次元ではない石。

 

「うーん、じゃあ無響石とプリズマイトで今着てる服を強化するのと、オビセプライトとアンバライトを細かくして弾丸に……。電熱鉱は危ないから普通に投げたりするしかないかなぁ……。あとは最終手段だけど、まだ残ってるオビセプライトで閉じこもってフロギストン……とか……」

 

 ぶつぶつ言いながら無響石とプリズマイトを両手に持って、キスアは魔力を注ぐ。光に包まれた2つのものを合わせると、コネコネし始めた。


「よいしょよいしょ…」

 光の塊となった2つの物体を胴に当てて効果を転写する。その光は服に溶け込んでいき、一瞬の淡い光を伴った後、元の見た目へと戻った。

「よし、と……」

 

「さて~……それから、イルアカナマ手足の防具にしちゃおっか~……」

 イルアカナマをある程度の束で持ち、手、足へと撫で当てて、性質を防具に付けていく。その箇所が光を纏ったのち、すぐにもとの様相に戻っていく。これでキスアの思いつく限りの防御力アップは済ませられた。

 

 防具に付与された効果はこうだ。

 

 「胴体」には衝撃、魔法の対策。無響石による衝突時エネルギー強制軽減とプリズマイトによる魔術系の力を反射させる効果を。

 

 「手足」にはイルアカナマによって受け流しの効果が微弱ながらついた。


 何故無響石やプリズマイトの効果を全身に使わないのかは、「素材の数が足りない」からで、そのあたりにたくさん生えているイルアカナマの効果を胴体にも付けないのかについては「効果の許容量を超える」為であった。

 

 「付与できる効果は2つ」これがキスアの魔法でできる限界の強化だった。それ以上の効力を物質に転写しようとすると、その物体の許容量を超えてしまい、その場合耐久性が極端に下がったり、暴走したり。最悪霧散してしまうこともあったため、それはキスアの中で制約として確立したのだった。


「どうかね~終わったか~い」

「わぁっ!」

 後ろから声を掛けられてキスアはびっくりして振り返った。そこには何かを持ったデハルタが戻って来ていて、先ほどあったはずの工房は姿を消していた。

 

「早いですね?!ものの数分じゃないですか?!」

「ん?あぁ、中にあったものを取りに行っただけだからね、すぐ戻って来て後ろからずっと見てたよ」

 ずっと見られていたらしく、ゾワゾワとし始めるキスアをよそに、デハルタはニヤニヤと持っているものを差し出してきた。


「これは、なんですか?」

「いつ来るともしれない『脅威』があるし準備に時間は掛けられないから、ある中で一番使えそうなものを持ってきた、これは至法銀しほうぎんリル入りのブレスレットと、自作爆弾……と煙幕」

「ブレスレットは一歩引いてわかるんですけど、爆弾と煙幕は物騒過ぎませんか?」

「君の持ってる電熱鉱やフロギストンよりは物騒ではないんじゃないかな……」

「一理あるような無いような」

「まぁボっクができるのはこんなものだ、ありがたく思うように」

「なんでそれで、そんな優位性があるみたいな物言い……?」

「なにを~?煙幕をバカにしたな?」

「煙幕もそうですけど、ブレスレットですよ、そのブレスレットで何ができるんですか」

「聞いて驚くといいよ。これは君たちと性質が反対のものに対して効果を発揮するんだ、簡単に言うと、『敵』に対して効果を発揮して、それを退けるのさ」

「敵を退ける?よくわからないんですけど」

「まぁ信用して着けてほしい。胡散臭いだろうけどね、お守りと思ってくれてもいい。ただ、極力外さないでほしい……これはお願いだ」

 

 「強制はしないけどね」

 そういいつつも、その瞳は真剣に見えた。キスアは(適当なことを言っているけど無意味でも遊びでもなく、自分のことを思っての発言な気がする)と何となく感じて、釈然としないままにブレスレットを受け取り、それを着けた。


 悪を打ち消し、善に反転させる。それがリルの効果。善は善のままで居続け、負の感情を振り払ってくれる。この世界における抗体。それが至法銀しほうぎんリルという鉱石の正体。

 そのことを今はまだ、知らせるべきではない。無暗むやみに混乱させ、いざというときの思考の遅れを起こしたくなくて、デハルタはそう思い曖昧に説明した。それがよく働くか、悪く働くか、1つの賭けではあったが、デハルタはそうすることを選んだ。

 

 「それにしてもデハルタさんはなにか防御魔術の展開とか用意しなくていいんですか?」

 「ん?心配してくれてるのかい?君が一番狙われていて危ないというのに?その気持ちはありがたいねぇ、でも大丈夫さ、ボっクは色々特別だからね。君はボっクに関して何も気にしなくていい」

 「そう…ですか、わかりましたそれじゃあ、行きましょうか!」

 「あいさ~」


 準備が整った二人は、キスアの家へ向かって暗くなった森を進んでいくのだった。


 

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