ご飯を食べに行こう

姿が似ていないとはいえ、自分の分身ともいえるクーの錬成に成功するキスア。純粋な彼女のことを見ているとなんだか妹か娘と接しているように感じてしまう。

 

クーに朝食代わりの果物を用意すると、彼女の服や食料を買い足さなければと思いながらも、昨日の剣を受け取りに来るという約束を破るわけにもいかず、訓練所のダズを待ちながらクーのことについて聞きながら時間を潰すことにした…。


「くーちゃん、果物おいしい?」


おいしそうに頬張る姿を微笑ましく思いながら見つめ、両の手で頬杖をして聞いてみる。


「うん!おいしい!イリスは食べないの?」


「ううん、いいの。全部食べていいんだよ?でもわたしはキスアっt」


「イリスは優しいね!イリスありがと~」


「えへへ…ありがとう、でも名前覚えて~」


「えへへ~」


2人の微笑ましい日常が始まり、なんだかずうっと続くように思ってしまいそう……けれど、キスアがクーラを錬成できた理由がある限り、様々な変化を二人に齎すことになるのです…。



クーラが果物を食べ終わり、一通り片付けを済ませると、キスアはクーラへと話しかけた。


「ねえ、くーちゃん…あなたは…自分が……ううん、何でもない、それよりもこのあと人がここを訪ねてくるの、わたしに仕事を依頼した訓練所のダズさん!もしその人がきてもびっくりして殴ったりしちゃだめだよ?」


「わかったぁ、ダズにはなにもしない~」


そう話ををしていると、玄関のドアをノックする音が聞こえた。


キスアがドアの方を向き「あっもしかしてダズさんかな…?」とクーラへ目配せすると玄関へと向かった。

ガチャリとドアを開けるとそこには黄色い髪をしている赤い鎧の肩当てを着けた女の子が立っていた。


「どうも、おはようございます!俺…あたし、トレイル・ラースって言います!ここがキスアさんの工房ですか…?」


勢い良くお辞儀をし後頭に縛ったポニーテールをバサ!バサ!と跳ねさせながら彼女はそう言った。


「あなたがトレイルさん…?てっきりわたし、男の子かと…」


「あはは…よく名前で間違われるんですよ…それに腕っぷしとか鎧つけて剣で戦ったりとかで男の子より男してるじゃねぇかってからかわれて…まぁ、あたしも同い年の女の子よりも大人の男の人と訓練したりしてるほうがたのしいから良いんですけどね」


トレイルは頭を右手でわさりと軽く掻きながら、えへへ…と少し恥ずかしそうに笑う


「そうなんですね…あの、今日はダズさんが来ると思ったんですけど…トレイルさんが今日来たのってダズさんの代わりに自分で受け取りに来た、ってことですね…?」


まさかの訪問と姿に驚きながらも、キスアはトレイルと名乗る少女に聞いてみる。


「うん、そう!その話よ!昨日ようやくのことでこの町まで戻ってこれたんだけど…って昨日ダズから聞いてたっけ…?」


あぁ~…と頭を掻きながら一度落ち着こうと間を置き続きを放し始めた


「あたし魔術を暴発させちゃって街の外まで吹っ飛ばされちゃって…それで戻って来てからすぐに体を洗いに湯浴み場に行こうと思ったらダズにあってさぁ…あのおっさん、ちょうどいいやって、あたしが湯浴みしようとしてんのにでけぇ声で呼びやがって!恥ずかしいから走って飛び蹴り入れてやった。」


「えぇぇ…ダズさん…かわいそ~…」


「んで、そのあとに何の用か聞いたら今あたしの剣を直してるから明日、剣をキスアさんの工房まで直接取りにいってお礼言えってさ、キスアさんの工房前まで腕掴まれて案内されて…お陰でまた湯浴み場まで歩く羽目に…」


「あぁぁ…あはは、それは…大変でしたね…疲れているでしょうに受け取りに来てくださって有難うございます」


「あ、これが依頼にあったトレイルさんの剣です!元通りにしておきつつ、そう簡単に壊れないように魔力で強化しておきましたのでそうそう壊れることはないですよ!」


軽くお辞儀をした後、剣をトレイルへと差し出すと自信たっぷり「えへん」としながらドヤ顔を見せた


「わっすっごい…ちゃんと直ってる…!え、しかもなんか薄っすら光ってるし…これが、キスアさんの魔法…!」


「ふふ~ん!そうです!私の魔法です!!錬成魔法、それがわたしの能力ですから!!」


「錬成魔法、あまり聞かない魔法…つまりすごい魔女ってことじゃないですか…!?そんな人と知り合いになれるなんて…光栄ですっ!!」


彼女はグッと近づくと、間近で握手を求めてきた


「え~そうかなぁ~えへへぇ~~~」


憧れと羨望の眼差しで見つめられてものすごく緩んだ顔をしながら握手に応じるキスアであった…。


もっと話を聞きたいとトレイルがその場で目を輝かせ見つめられると悪い気がせず、「じゃあ…、せっかく来てくれて立ち話もなんだから」と、キスアは工房の中へトレイルを招き、お茶を出して椅子へ腰かけた。


「あっじゃあお言葉に甘えます~えへへっ!…ん?…ひょへっ!!!!????」


トレイルも椅子へ腰かけようとしたとき、ふと視界の端に人影がみえて窓の辺りをみやると、窓の下に両足を伸ばして床に座っている子が音もなくちょこんと居たため思わず奇声を上げてしまった


「な、なななな…えっこの子人形ですか…人形ですよね動かないですしね??」


ぽやぁっと虚空を見つめて動かないクーを指差しキスアに問いかけたトレイルの声は少し震えていた


「え~っと~…くーちゃん、寝てる?おーい~…」


キスアはクーに近づきしゃがみこむとほっぺたをちょんちょんとつついてみると


「プア」

とよく分からない音を出して口を開けた


「おひょぉおおっ!?」

とトレイルはまた聞いたことの無い声を上げてびっくりした


「こ、こここの子生きてたんですネヘェ…」


腰を抜かしてへたり込みながら力無くそういうと、体をビクビクさせながら、ちょ、ちょっとまってくださいね…びっくりして動けなくなりました…と彼女が動けるようになるまでついでに自己紹介をとキスアは彼女に楽な姿勢へと促しながら始めるのでした。


「イリス~この人がダズ~?おじさん~?」

「違うよクーちゃん、キスアだよ…名前覚えて…」


ほんわりとした今にも寝そうな表情でトレイルを見ながら足を伸ばし、ぺたんと壁に背をつけ座った姿勢のまま、トレイルへの第一声は始まった。


「あぁは…あたしはトレイルラ^ース…だよ…キスアさんお子さんいたんですね…」


キスアとクーの方を交互にみながらトレイルはクーへ名前を教えた


「トレイルよろしく~」

「おぉほよろしくな~…」

(どうして私の名前は覚えてくれないの…?)


「えっと、それでこの子は私の子だけど子じゃなくて…わたしが魔法で作った魔生物なの…」


「えぇ!?この子も魔法で…!!?なんかあたしすごいこと聞いちまったんじゃ…??」


「うん…昨晩生まれたから…誰も知らない…今回で生まれるとおもってなかったから、服がないの!!用意してなかった…今は私の服を着せてるけどサイズが合わないからぶかぶかで……」


「じゃぁ剣を直してくれた上に強化もしてくれたお礼もかねて…依頼料と…この子の服を一緒に買いに行きましょう!」


「本当!!トレイルさん…ありがとうっ助かっちゃいます!」


「いえいえお守りは慣れてるので!それじゃ行きましょう!」


「クーちゃん、これからあなたの服を買いに行くから一緒にきてくれる?」


「んん~…眠たい…ここにいる~…」


眠たそうに目を擦るとお人形さんのようにその場でコテンと座ったまま目をつむってしまったクーをみて、「うーん…どうしよう…サイズがわからないと買ってきても入らなかったら困るよ~…」とぽつり

と呟く


「ん~…美味しいものとか商店通りにあるんだけど、クーちゃん食べる……?」


クーが、ん…と食べ物の話に反応し少し目を開けるとこの話は効果あるかも!と見て、すかさずトレイルは横から顔を出す


「これから行く商店通りにはおいしい食べ物がたっくさんあってあたしでも全部は食べきれないくらいなんですよねー!そんなとこにいけないなんてクーちゃんもったいないなぁ~でも眠たいんじゃ仕方ないですよねぇ~ねっキスアさん」


チラっとキスアに目配せるとキスアも意図を理解し少し演技っぽくやや大げさに乗った


「そうだねぇ~トレイルさん~、あーんなにたっくさんおいしい食べ物が、ほら今朝食べた果物とかもあるところに行けないのはもったいないねぇ~」


「うぅ…うぅいく…クーもいく…っどこ行くの、連れてって…っおいしいところっおいしいところ連れて行って!」


なんとか説得に成功し、トレイルとキスア、クーラと三人で商店通りに向かうことになった



「ん…?なんか今日町の衛兵さん多くない…?」


「ん~気のせいじゃないですか?いつもこんなだと思いますけど…」


「ん~そうかなぁ…」


「それよりもっ、商店通りのどこから回ります?あたしクーちゃんくらいの妹もいるんでいいお店知ってますよ!」


「トレイルさん…頼もしいです…!じゃぁ案内…お願いしようかな」


「わかりましたっ!っと…あたしまだ朝ご飯食べてなかったんで…ちょっとそこのお店で何か食べませんか…?」


トレイルが頬を指で軽くかき照れながらそういうとおなかに手を当てた


「肉…じゅるる……」


じっと屋台でタレを絡めた肉が焼かれているのを見ながらクーラはよだれを垂らしていた


「イリスこれ食べたい…」


キスアに振り返りクーは目を輝かせて見つめてくる


「んん~でもなぁ~私の名前覚えてくれないし呼んでくれないからどうしようかなぁ~クーちゃんが私の名前ちゃーんと呼んでくれたら買ってあげるんだけどなぁ~~」


少々大げさで演技っぽく頬に人差し指を当てながら考えこむようにクーへと見せると悪戯っぽく笑った


「ん……き、キスア…これ食べたい…」


クーは、香ばしくおいしそうな目の前の肉をチラを見るとなんとか食欲に耐え振り絞りながら思い出した名前を口にする


「グズッんんーーくーちゃん~!!ありがとう~!!嬉しい…いいこいいこ~!」


名前を読んでくれたのがあまりにも嬉しくて、ニヘニヘ緩みきった顔でクーを抱きしめすりすりと頬を当てた


「良かったですねキスアさん!!」

その様子に感動しすこしうるっときたトレイルが言う


「ウェグ…やっと名前呼んで貰えたよぉ~!」


クーを抱きしめ頬擦りをするもののクーはほとんど気にもせずじーっと肉を眺めているのだった


「ねぇまだ食べられないの…?」


二人が感動しているのをよそにクーは食欲を我慢できずに頬を膨らませ不機嫌アピールをした


「あっそうでした!じゃあここの店にしましょっか、キスアさんも良いですよね!」


「うん!私もそこで良いです!くーちゃん待たせてごめんね」


キスアが宥めるようにクーの頭をなでると、トレイルは先に店の暖簾をくぐり「お邪魔しまーす!」と元気よく入っていった





















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