二人の少女の物語
『あのとき、わたしは何が起こったのかわからなかった』
「いつものようにかき混ぜていたら棒を伝っている赤いものに気付いて、『さっきので手を切ってたんだ!拭かなきゃ!』って手を放そうと思ったらその時にはもう間に合わなくて、わたしの血が窯の混合調整液と混ざった瞬間に、はぁはぁ、部屋が、はぁ、真っ白になって…!」
部屋に広がる白い煙の中、尻餅をついた彼女はぶつぶつとあれこれつぶやき、ハッとすると、すかさず立ち上がって、ぐるぐる雑然と思考しながら、慌てて窯の中を覗くと――
「それから、えっと…?窯はどうなってっ…えと、中……わたしより少し小さな女の子が…体を丸めるようにして、眠ってる…?????」
まだうまく頭の整理がついていない中、見たままの様子を頭に流し込むように言葉にすると、彼女はその子を自分のベッドへ寝かせて、あることに気づいてしまった。
『そういえばこうなるって考えてなかった…』
「あぁあぁだって…作り出すことばかり考えていて…できた後のなんて…失敗しすぎて最初のころ頭の片隅に置いてたことなんて…はぁ…すっかり抜け落ちてたよ……嬉しいやら、自分の用意の悪さに落ち込むやら…とにかく、この子のことを、どうにかしないと…!」
「自分の分身をつくるっていうのに私と来たら…そりゃあそうだよね…生まれた子は裸だっていうのを全く考慮に入れてなかった~!服を用意しなくちゃ、なんだけど…わたしの服で合うかな…とりあえず今は夜だし~~………朝になったらこの子の服を買いに行かなくちゃ…」
布団をかけて(この子…わたしにあまり似てないなぁ…でもちっちゃくてかわいい…)そう思いながら、作業の疲れからか、その子の側で、キスアはそのまま眠りについた…。
「イリス…?起きてイリス…」
「んんぅ…なぁに…わたしはイリスじゃない…?ンッ!!!」
聞き慣れない声に目を覚まして、キスアはすぐあの子が起きたことに思い至った。
「起きた…イリスおはよう…」
その少女はつぶらな瞳で、じ~っとキスアのことを見つめていた。
「おはよう…あの、わたしのこと、イリスって…?」
「…?イリス?どうしたの…?」
「わたしはキスア・メルティ…イリスっていうのはあなたの知り合い…なの?」
「イリスは、私に居場所をくれたの…それから、いつか迎えに行くって、わたしに待っててって…」
(ちゃんと魂があるんだ…記憶はたぶん前世のものが、まだ残ってる…)
呼吸を整え、落ち着いた思考をゆっくりと切り替える。
「わたしはあなたのママ!イリスの代わりにあなたのことを面倒見るよ!」
「ママ…?イリスの代わり…?わたし…」
「大丈夫、きっとイリスに会わせてあげるから任せて!」
不安そうな顔をする目の前の子の頭を撫でてみて、まるで我が子であるかのような、母になったような、そんな思いが溢れてきて思わず抱きしめた。
「ままわたし…おなかすいた…」
「おなかがすいてる…あっ!ちょっと待ってね…っ!!」
(服よりも優先することがあったことをかんっぜんに失念してた!!今まで私だけだったから、作り置きしてる料理なんてなかったんだぁ…)
「ちょちょちょっと待ってね…!すぐになにか食べられるものを用意するからね…っ」
すぐに研究室を出て、いつも食事をとってる部屋に出るっ!そこからまっすぐ行くと食料を保存する部屋!そこからすぐに用意できそうなものを探す、探す…
「あっ、しまったァ…昨日買い出しに行けばよかったァ…掌に収まる木の実と果物しかないよぉ…研究はすごく時間がかかるから、片手間に食べられる甘い果物を常備しててよかったけど…とりあえず、この果物を切り分けて…」
「ごめんね…今出せるのこれくらいしかなくて…」
皿に盛りつけた果物を少女に見せると、少女は目を輝かせてその皿を受け取る。
「これ、食べてもいいのっ?」
「もちろんっ!あなたが食べていいの!」
「ママ…ありがとう…あむっあむ…おいしい」
(美味しそうに果物を頬張る姿はかわいい…って思っちゃうよ…これが愛しいってことかな?わたしのママもこんな感じだったのかな)
(そうだ…この子の名前…どうしよう…暗い夜の部屋に生まれた…だから…)
「ねぇ、あなたの名前…クーラっていうのは、どうかな…クーちゃん…どう?」
「クーラ…クーちゃん…クーちゃんっクーちゃんがいい」
「あはは、クーラより、クーちゃんかぁ…うんっクーちゃん!あなたはクーちゃんね!」
「うん」
こうして、二人の女の子が導きのまま一つ屋根の下で、生活を共にすることになった。
「えっと、やっぱりママって言われる年じゃないから…お姉ちゃんって呼んでほしいかも…」
「じゃぁ、イリス…」
「えっわたしはキスアメrt
「イリス」
「えぇぇぇぇ…なんでぇぇ…?キスア・メルティだからキスアって呼んでよぉ~~…」
「やだ、イリス」
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