日常から非日常へ
「ふうー…お腹も満たされたことですし~いざ服屋へ!」
「そうですね!案内よろしくお願いします!」
「まだ食べられたのに…」
「あれだけの量食べたのに?!」
「その体でなんでまだ入るんスか?食べ物消えちゃってるんスか……?」
「お肉たべたーい」
「また来たときに食べようね…」
「わかったーー」
三人はまだ食事の余韻を残したままに、トレイルの案内する服屋へと歩みを進める。
「トレイルさんの髪って私と同じでここの人達と違いますけど、どこの出身なんですか?」
キスアは昨日、ダズから話を聞いてから気になっていたことをトレイルに聞いてみた。
「んえ?この髪っスか?んーぅ確かにこの町の人達とは違うスねぇ…この町の人達はほとんど茶髪や黒髪ばっかりスからねぇ」
顎に指を当てて、トレイルは今まで気になったことのない自身の髪色についてに思いを巡らす。
「キスアも、トレイルも、髪の毛明るい」
クゥが二人を交互にみて髪の毛に注目していた。
その光景は、少し周りから浮いた色が三つ、まるで植物の冠毛が揺らめくように、ポムポムとリズムを取っているようにみえた。
「そういえば私たちみんな髪の毛の色、特徴的ですねぇ」
キスアは自分の薄いピンクの髪を軽く手櫛(てぐし)をしながら、自分の髪の毛を眺めていた。
「キスアさんの髪色かわいいスねぇぇ…クゥちゃんは綺麗すぎるスよ~最初見たときは本当に綺麗な人形さんだと思いましたし」
「そだよねぇクゥちゃんの髪凄い綺麗だよ~」
輝く銀髪にうっとりしているキスアにクゥが頭を撫でられ、ムグムグと唸っていても、今この場にいる誰も助けはしない。そんなクゥをみなかわいいなぁと思ってしまっているからだ。
これは「かわいい」の代償とでも言うのだろうか…。
なぜ突然撫でられているのかわからないクゥは、ただただかわいい人形の様にされるがまま、しかし満更でもない表情で大人しくしている。
「あたしの故郷でもこの髪色は珍しいんス…」
「あっあたしの髪色の話ス」
トレイルは、時間をやや置いていた為すぐ後に付け加えた。
「あたしの故郷はこの王都から南東の方角にある田舎町ッス、イトエヒ・シラオウってとこスよ」
「うーん知っているような知らないような…」
「田舎町ッスからね!」
「そこの人たちはトレイルさんみたいに黄色い髪なんですか?」
「町のほとんどは大体赤い髪っスねぇ…家族のなかでもなぜかあたしだけ黄色いんス、それでもみんなと同じように赤い髪を触媒にした炎魔術には一応使えるんスよねぇ…黄色いのに…」
「ということは髪色は触媒としての効果に関係ない…ふうむむ…興味深いぃ…」
魔法研究が好きなキスアは珍しい話に様々な仮説を思考しては唸っていた。
「チッ…もう知っている!これから向かうところだ!他のやつにも伝えておけ!」
三人の会話の途中、怒声が聞こえてきた。
「ぉん…?この声は…もしかして…」
「なにやら事件ですかね…」
「すごい声」
人混みのなかからイライラとした独り言がこちらに近づいてきている。
「全く、一番現場に近い私が駆り出されるとは…運が悪い…おまけに人形の魔女が巻き込まれただの…」
「あ、やっぱり師匠じゃないスか!なーにしてるっスか~?」
トレイルは声の主をみつけ、嬉しそうに駆けていく。
「ンだ今忙し…トレイルか…これから騒ぎが起きた現場にいくところだ。どうせ来たがるだろう?オマエ。強化魔術掛けてやるから動くなよ」
「師匠わかってるスねぇ」
にこにこと嬉しそうに、その師匠から強化魔術を受けるトレイル。
赤、青、黄…様々な色の光が順番に光っては消えを繰り返している、いくつかの強化魔術を重ね掛けしているようだ。
それだけ用心して事に当たらなければいけないということなのだと、トレイルはすぐに気がつき笑顔は緊張の面持ちへと変わった。
「トレイルさん…わたしも行きます」
キスアは事の大きさをトレイルの表情で察し、自分にもなにか出きることがあるはずだと、着いていくことを伝える。
「キミは…町の錬金何でも屋か、いくらかこっちにも話しは伝え聞いているが戦闘は出きるのか?できないのならば被害が増えるだけだ、もう一度よく考えて――」
「自分の身は守れます、錬金魔法の力は戦闘にも使えます、大丈夫です!」
「…わかった、だがその小さい子は難しかろう、衛兵!終わるまでの間、面倒を見てくれ」
「ハッ!かしこまりました、嬢ちゃん名前は何て言うの~?」
「クゥ、」
「くうちゃんていうネョ~💕かわいいにぇ~💕お姉さんと少し遊んでよっか~💕」
「…助けて、キスア…」
「ごめんねクゥちゃん、すぐ戻るから…」
「キミにも強化を施す、じっとしていろ」
とても苦い顔をするクゥに申し訳ない思いをしながらキスアは強化を受ける。
そしてクゥは衛兵の女性に猫なで甘々メロメロボイスで構われながら近くの喫茶店に連れていかれた。
ごめんねクゥちゃん…少しの間だけ待ってて…。
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