Report46. 対抗策

「おいおいおいおい!流石にヤベェんじゃねぇのかコレは!」


突如そう叫んだ羽倉の表情には、焦りの色がありありと浮かんでいた。


それもそのはず。


00:29:22


モニターが示すタイムリミットまでのカウントダウンは、残り30分を切っていた。


「騒ぐな羽倉。集中できないだろ。」


焦る羽倉とは対照的に、修復作業に当たっている日比谷は至って冷静であった。


「だがもう30分切ってるんだぞ!何をそんな悠長なこと言ってんだ!早くしないと向こうの時間が……!」


「大丈夫だ、もうすぐ終わる。」


そう言いながら、日比谷はひたすらキーボードを叩き続ける。


そしてその10分後。


タンッ


最後のキーを力強く叩いた日比谷は、張り詰めた緊張感を緩めるように、大きくため息を吐いた。


「フゥーーーッ。よし、作業完了だ。」


00:20:06


その声を合図にモニターのカウントダウンは、残り20分を残した所で動きを止め、その数字は少しずつ薄くなっていく。

やがてモニターは、再び真っ白な背景を映し出すのみとなった。


「……どうやら修復作業は完了したようですね。」


不意にモニターから監視者の声が聞こえてきた。


「ああ。今しがた完了した所だ。好きにデータを持っていってくれ。」


「ありがとう、。では、イサミの修復データを預かるわ。」


「……ああ。それで、他に私に出来ることは何かあるか?」


「いいえ、大丈夫です。受け取ったデータを今からイサミにインストールします。あなたはそのまま待っていてください。正常に稼働すれば、モニターは再び異世界の景色を映し出すことでしょう。」


「了解した。イサミを……よろしく頼む。」


「……わかったわ。」


そこで、二人の通信は途切れた。


しかし、通信が切れた後も日比谷は何か思い当たる節があるようで、机の上で頭を捻っていた。


「あの監視者の声……どこかで……?」


しかし、それを遮るように羽倉が日比谷の肩を力強く叩いた。


「お疲れさん!なんとか間に合ったみたいで良かったな!」


満面の笑顔の羽倉を、日比谷は恨めしそうにじろっと睨む。


「……修復作業自体は10時間前にすでに終わっていた。別にデータを渡そうと思えばいつでも渡すことは出来たんだよ。」


「はぁ?じゃあなんで、こんなギリギリの時間まで引っ張ってたんだよ?」


「イサミの修復データにハッキング用のプログラムを仕込んだ。それにちょっと手間取ってしまったのさ。」


サラッと言ってのけた日比谷の言葉を聞いて、羽倉は目を丸くする。


「おいおい!そんなことして大丈夫なのかよ!?」


「またこのような事態に陥った時の対抗策だ、問題あるまい。」


「対抗策ってお前……一体何をしようってんだよ?」


「まあ、それはいずれ分かるさ……それより見てみろ、羽倉。」


日比谷はモニターを指差す。


先程まで真っ白だったモニターはぼんやりとだが、確実に異世界の風景を映し出していた。


「異世界観測、再開だ。」



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