Report14. 大賢者ランドルフ

心地よい空の旅を終えたイサミたち三人は、エルト城門前に降り立つ。


エルト城の大扉の前では、一人のいかつい番兵が立ち塞がっていた。


しかしメアリーは、その番兵に臆することなく気安く話しかける。


「ご機嫌よう、マーク。」


マークと呼ばれた番兵は、三人の方に向き直り敬礼をする。


「はっ!お帰りなさいませ、メアリー様。おお!それにソニア様もご一緒でしたか!……して、そちらの男性の方は?」


「私の友達のイサミくんよぉ。一緒に入っても良いかしらぁ?」


メアリーからの紹介があり、イサミ自身も前に出て自己紹介を行う。


「旅人のイサミだ。こちらで魔法の修行をさせていただきたい。よろしく頼む。」


頭を下げるイサミに対して、マークは少し考えた後メアリーに許可を求める。


「こちらの男性については、身体検査をさせていただきたい。よろしいですね?」


「わかったわぁ。イサミくん、そういうことなんだけどいいかしらぁ?」


「俺は別に構わない。好きに調べてくれ。」


そう言ってイサミは、大きく手を広げてみせた。


「では、失礼して……『検視スキャン』!」


マークが呪文を唱えると、イサミを取り囲むように光の柱が立ち昇る。


その間マークは、イサミから何かを読み取ろうとずっと目を閉じていた。


「む…?なんだ…これは。」


イサミを調べていたマークは、突如眉間にシワを寄せる。

その後『検視スキャン』の魔法を解き、静かに目を見開いた。


そしてマークはゆっくりと、しかし強い意志を持った言葉でイサミに告げる。


「イサミさん……と言いましたか。結論から申し上げましょう。あなたをこの城に入れることは、できません。」


「それは、どうしてだ?」


「あなたはこの世界に住む人々とは、あまりにも異なり過ぎている。

具体的に言いますと、本来この世界の生きとし生けるもの全てが持っているはずの生命の源……コアがあなたの中に存在していませんでした。」


「そうか…つまり俺は生命体ではない…ということだな。」


イサミは少し悲しそうに俯いた。

それを見たソニアは、たまらずマークに反論する。


「じゃが、イサミはこうして生きておるではないか!」


それに対して、マークは冷静に切り返す。


「そこなのです。なぜコアを持たずして生命活動が行えているのか、それがわからない故に城内へ入れることは出来ないのです。」


「そんなこと…!」


ソニアはさらに喰ってかかろうとしたが、イサミはそれを制止する。


「やめようソニア。この番兵の言っていることは正しい。不安因子を城の中へは持ち込まない、当然の判断だ。」


「でもそれで良いのか!?何としてでも魔法を習得したいと言っておったじゃろうが!」


ソニアの説得に賛同したメアリーも、マークに再度交渉を持ちかける。


「マーク…イサミくんは、ここまでソニアを守ってくれたとても信頼できる方なの。どうしてもダメかしらぁ?」


「しかし…得体の知れない者を入れるのは、かなりのリスクが……」


マークは言葉を選びながらメアリーと話していると、


不意に背後にあるエルト城の大扉が、ギギギ…と音を立てながらゆっくりと開く。


扉が完全に開ききると、そこには一人の老人が立っていた。

メアリーと同じようなとんがり帽子を被り、立派な白髭をたくわえたその老人は厳格な雰囲気をまとっていたが、その風貌とは裏腹に優しい口調でマークに語りかける。


「ホッホッホ…あまり固いことを言うな、マークよ。」


「……ランドルフ様!」


ランドルフと呼ばれた老人はマークの横をゆっくりと通り過ぎ、イサミたち三人の前で足を止める。


「ホッホ…お帰り、メアリー。」


「ただ今戻りました、ランドルフ様。」


メアリーはいつものふんわりとした口調ではなく、キビキビとした口調で答える。


「城内から話を聞いておったよ。メアリー、お主面白い青年を連れておるようじゃな。」


「イサミくんは、信頼できる方です。」


「ホッホッホ!分かっておるともメアリー。彼の目を見ればな、文字通り一目瞭然じゃ。」


ランドルフはイサミの目をじっくりと見つめ、納得したように頷くと、マークの肩をポンポンと叩く。


「マークよ、この者を通してやれ。ワシの権限で許可を出す。」


「しかし、ランドルフ様!何もかも不明の者を入れるのは、あまりに危険すぎます!」


「なぁに、いざという時はワシが止めてやるわい。ワシを誰だと心得る。」


「……エルト王国最高魔術顧問、大賢者ランドルフ・エリックノード様です。」


「ホホ…ま、そういうことじゃよ。万事心配はいらぬ。さ、三人ともワシについて参れ。」


ランドルフはイサミたち三人に中へ入るように促す。


イサミはランドルフの計らいに深々と頭を下げた。


「ありがとうございます、ランドルフ様。」


「なーに、いいんじゃよ。ワシは君に興味があってな。お代と言ってはなんじゃが、ちょっとワシの実験に付き合ってもらって良いかの?」


「……実験?」


イサミの問いに対して、ランドルフは白い歯を見せてニカッと笑うだけなのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る