Report15. ランドルフの実験

賢者ランドルフに付いて行き、イサミたちはエルト城内の螺旋階段を昇っていく。

階段を登り続けること数分、四人はエルト城の最上階にある部屋に辿り着いた。


「ここがワシの研究室じゃ。さ、皆入ってくれ。」


ランドルフは部屋の扉を開け、三人を中へ招き入れる。


円形状の部屋の中には床の至る所に羊皮紙が散乱していた。

上を見上げると天井はなく、赤く輝く物体がちょうど部屋の真上に浮いているのであった。


「この部屋の上にあるもの……これは魔晶石か?」


イサミの問いにランドルフは小さく頷く。


「左様。ここは魔晶石との距離が一番近い部屋なのじゃ。ワシはここで魔晶石と魔法の研究をしておるワケじゃよ。」


「なるほど…それで、さっき言ってた実験っていうのはここで行うのか?」


「うむ。じゃが、やってもらうことは至って簡単じゃ。ここで魔法を使ってみてくれんかの?どんな魔法でも構わんから。」


ランドルフの指示に対して、メアリーは異論を唱える。


「お言葉ですが、ランドルフ先生。私はイサミくんの魔法をこの目で見ました。その時は火炎球フランバルを使ったのですが、その大きさはあまりにも巨大なものでこの部屋ごと焼失してしまうかもしれません。なんの指導もなく、そのまま使用させるのは大変危険であるかと…」


「大丈夫じゃ、ワシが力加減を制御する。イサミとやら。その時にやった火炎球フランバルを出してみよ。」


ランドルフはメアリーの言葉を遮り、改めてイサミに指示を出す。それに対してイサミは小さく頷いた。


「わかった、やってみよう。」


「イサミくん……」


メアリーが心配そうにイサミを見つめる。


「俺を信じてくれ、メアリー。大丈夫だ。」


イサミはメアリーに心配をさせないよう優しく微笑んだ。


「それじゃ、始めるぞ。その時教わったやり方で火炎球フランバルを出してみよ、イサミ!」


ランドルフの言葉を合図にイサミは目を閉じ、自身の手のひらに感覚を集中させる。


「自分の手のひらの上に火を灯すイメージ……来い…!火炎球フランバル!」


イサミはカッと目を見開き、力強く呪文を唱えた。


そして───


イサミの手のひらの上には野球ボールサイズの火の玉が浮いているのであった。


「やった…やったぞ!イサミが…ついにイサミが魔法を使えるようになったんじゃ!」


ソニアは嬉しさを爆発させ、隣にいたメアリーに抱きついた。


「うん、うん…!良かったわね!イサミくん!」


メアリーも手を叩きながら、笑顔でイサミを祝福した。


「とりあえず第一段階はクリアか…しかしランドルフさん。この後はどうすればいい?」


イサミ自身は大きく喜ぶことはなく、淡々とランドルフに次の指示を仰ぐ。


「ぐっ……次は…そいつをワシに…向かって、投げつけて…みよ。」


ランドルフは苦しそうに声を絞り出しながらイサミに指示を出す。


「だいぶ苦しそうに見えるが、大丈夫か?」


「大丈夫じゃ!遠慮はいらんから思いきり投げてみよ!」


「……わかった、その言葉を信じよう。」


ランドルフの遠慮はいらないという言葉を聞いたイサミは、投球のモーションに入る。


大きく振りかぶって、


「ふんっ!」


ランドルフに向かって思いきり投げた。


イサミが投げた炎を纏う豪速球は、ランドルフ目がけて一直線に飛んでいく。


吸収障壁アブソープ・シルト!」


ランドルフは咄嗟に呪文を唱え、自身の前に光の壁を展開する。


火炎球と吸収障壁が接触。


そして───


ドゴオオォーーーーン!!!!!


超強力な魔力同士がぶつかり合った結果、巨大なエクスプロージョンが発生。


「キャアアァァーーーーッ!?」


その場にいたソニアとメアリーは吹っ飛ばされ、研究室の壁や扉は大破し、床に散らばっていた羊皮紙は爆風によって舞い上がる。


ランドルフの研究室は、混沌カオスな状況に陥っていた───


それから、しばらくした後。


爆煙が晴れ、メアリーとソニアは打ちつけた腰をさすりながら身体を起こす。


超爆発を引き起こした二人の無事を確かめる為、メアリーは爆心地へ駆け寄った。


「……!ランドルフ先生!大丈夫ですか!?」


そこには片膝をつき、苦しそうに肩で息をしているランドルフの姿があった。


「……ワシは大丈夫じゃ。ワシよりもあっち。イサミの方へ行ってやってくれんか。」


ランドルフの正面にいるイサミは研究室の床に倒れ伏していた。


「イサミ!」


ソニアはイサミの下に駆け寄り、その動かない身体を小さな腕で抱き抱える。


「イサミ、しっかりしろ!イサミイイイィ!」


ソニアは半泣きになりながらイサミの頬をペチペチと叩く。

それでもなおイサミからの返事はなく、ただソニアの腕の中で安らかに眠り続けるだけなのであった。

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