Report04. 異世界転生実験の裏テーマ
異世界では、イサミによるソニアへの質問が続いていた。
「それで、ディストリア帝国とやらの第一王女がなぜ追われる身になっているんだ?」
ソニアはふむ…と少し考えた後、言葉を選びながらイサミの質問に答える。
「そうじゃな…簡単に言うとわらわがディストリアを裏切ったからじゃ。そして、わらわを追ってきているのもディストリア帝国軍の連中じゃ。」
「自国の軍隊に追われているということか…どうして自分の国を裏切ったんだ?」
「ううむ…すまんが、そのことについてはまだお前に話すことはできんのじゃ…気を悪くしたかの?」
イサミの様子を伺いながら、ソニアは申し訳なさそうに答えた。
「いや、構わない。俺も不躾な質問をしてすまなかったな。それよりもソニアたちはずっと逃げ続けているわけではないんだろう?どこか目指す場所はあるのか?」
「この草原を越えた先にわらわの協力者が住んでいる隠れ里がある。まずはその隠れ里を、この
ソニアの声に反応するように森全体がざわめきだした。
「足を踏み入れた時に思ったが、これは森ではなく木に
「いかにも。この木の一本一本には意思がある。草原は何かと人目につくからの。こうやって群れの中に身を隠しながら移動をしているのじゃ。」
「なるほどな。というと、この
「手下…というのとはまた違うな。わらわとこの
「
「まあ簡単に言うと、わらわには契約を結んだ魔物をいつでも呼び出すことができる力があるのじゃ。それで今はこの
「魔物を自由に呼び出す…か。興味深いな。」
「
そろそろ日が落ちてきたし、移動を開始するぞ。」
ソニアの言う通り、空は日が沈みかけており、うっすらと星が見えるぐらいにまで暗くなっていた。
現世においても、日本はちょうど日没ぐらいの時間であった。イサミは自身に内蔵されている体内時計と照らし合わせて、時間の流れが日本とほぼ変わらないことを確認していた。
「わかった。それで俺は何をすれば良い?」
「イサミは一番背の高い
ソニアは
『畏まりました、姫様。』
森に足を踏み入れた時に語りかけてきた
『てっぺんまで運んでやる。暴れるんじゃないぞ。』
「すまない、助かるよ。」
マルドゥークに言われるまま、イサミは大人しく森の頂上まで運ばれていくのであった。
頂上に到着し、ひと段落したイサミは脳内に組み込まれている発信機を使って、現世の日比谷たちに報告を送る。
この発信機を使うことで、イサミは喋らずとも日比谷たちと通信をすることができるのであった。
『こちらイサミ。報告が遅くなってしまいました。見ていただいた通り、成り行きである国の王女を護衛することになりました。判断を仰がず、勝手な行動を取ってしまい申し訳ございません。』
報告を受けた日比谷は、マイクを使ってイサミに一つの命令を下した。
「イサミ、これからはいちいち私に報告なんかしなくていいぞ。ここから先は、お前自身で考えて行動をするんだ。」
『そんな!俺はマスターの代理としてここに来ているのです!マスターのご指示が無ければ、俺はどうしていいのかわかりません。』
「甘えるなイサミ。指示をもらっているばかりでは成長は見込めんぞ。私はお前がこの世界でどんな選択をしたとしても、それを決して
もちろん必要に応じて指示は出すが、それ以外はあまり干渉するつもりはない。
この世界でお前は自由に生きるんだ。」
『自由に…生きる…。』
「そうだ、お前ならできる。私はそう信じているよ。」
その言葉を最後に日比谷との通信は途切れてしまった。
「俺は…この世界で何をすればいいんだ…?」
イサミの独り言は誰に聞こえるでもなく、異世界の風に吹かれて消えていくのであった。
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一方で、日比谷研究所の実験室。
イサミとの音声通信を切った日比谷は一つ大きく息を吐き、椅子に体を預ける。
その横で羽倉は、納得がいかないといった表情で先程のイサミとのやり取りについて日比谷に尋ねた。
「お前…あれで良かったのか?イサミが優秀なAIロボットってのはもちろんわかってるが、未知の世界に放り出されて自分で考えて行動しろだなんて、普通の人間だって困惑する。流石に荷が重すぎるんじゃないのか?」
「私はそうは思わない。イサミは異世界を生き抜いていけるポテンシャルを持っていると信じている。さらに言うと…実はな羽倉、この異世界転生実験には裏テーマがあるんだ。」
「…裏テーマだぁ?」
「そう。それは、異世界を通じてイサミはAIロボットとしてどれだけ成長できるかというテーマだ。」
「成長できるかって言っても、イサミはもう十分優秀なAIロボットじゃねーかよ。」
「いいや、私に言わせればまだまだだ。今のイサミは、私の指示が最重要事項だと認識している。まあ私がそう組み込んだのだから当然と言えば当然なのだが。
だがそれとは別に、私が開発したAIロボット自己成長装置、通称『グローアップ・デバイス』をイサミに組み込んでいるんだ。」
「グローアップ・デバイス…?」
「そう、AIロボットが人間のように物事を考え、学習し、行動するためのデバイスだ。
イサミには目で見たこと、聞いたこと、体験したことをこのデバイスを通じて学び、成長してもらいたいと私は考えているんだ。
我々があれこれ指示を出し、イサミの考えを束縛することは成長の妨げになる。
多少突き放した言い方になってしまったかもしれないが、これはイサミの成長の為であるということをわかってくれ羽倉…って、なんだその顔は?」
日比谷が説明している横で、羽倉はニヤニヤと笑っていた。
「いや、お前もイサミのこと色々考えて、大切にしてんだなーと思ってさ。」
「と、当然だ!私はイサミの親なんだからな。あとそのニヤケ顔は気持ち悪いからやめろ!」
「へいへい、すみませんでした。」
そう言った羽倉であったが、弁解する日比谷の耳が真っ赤になっているのを見て、ますます口元が緩んでしまうのであった。
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再び異世界。
イサミたちがいる位置から5kmほど後方にある崖の上に、黒い軍服を着た男の兵士が立っていた。
胸には獅子に似た魔物のエンブレムが光り輝いている。
そのエンブレムはディストリア帝国のものであった。
「
その男の眼は、5km先にいる
さらに崖の後方にある森の奥から、男の手下と思われる兵士が姿を現わす。
「
「わかっている。だから俺が呼ばれたんだろう?」
「はっ、仰る通りです。『千里眼』を持つオージェ様であれば、近づかずとも奴らを撃退することができましょう。」
「全く…簡単に言ってくれるな…王女様と戦うのは気乗りはしないが、帝王様のご命令じゃしょうがない。
おいお前、全兵に集合をかけろ。日が完全に沈んだら奇襲をかける。」
「はっ、承知致しました。」
手下の兵士は、仲間を呼びに再び森の奥に帰っていった。
「さて、お仕事の準備を始めるか…」
オージェは背中のスナイパーライフルを地面に降ろし、狙撃を行う為の準備を始めるのであった。
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