Report18. 魔力貯蔵箱
次の日の朝。
イサミたちはエルステラに言われた通り、玉座の間を訪ねていた。
玉座に座るエルステラは、全員が集まったことを確認すると、静かに話し始めた。
「うむ、全員集まったようだな。さてイサミよ、早速ではあるが其方にはこれを渡しておこう。」
エルステラはおもむろに立ち上がり、イサミの前まで歩み寄ると、あるものを手渡した。
正方形に加工された手のひらサイズの小さな青い石。
石には穴が空けられており、そこに首掛け用の紐が通されていた。
「エルステラ王、この石は一体何なんだ?」
「ああ、これは
イサミよ、その
魔法を使うよう促すエルステラに対して、イサミは戸惑いを隠せなかった。
「しかし…エルステラ王、俺は魔法をうまくコントロールできない。また人や城を傷つけてしまうかもしれない。」
「大丈夫だ。とにかく、やってみろ。」
「……わかった。」
完全に納得しきれていないイサミであったが、エルステラの言葉を信じ
そしてイサミは一呼吸置いた後、
「
しかし───
「う……これは、なんだ…?少しずつ力を吸い取られるような感じがする……」
そのイサミの言葉を聞いたエルステラはうむ、と一つ頷いた。
「頃合いだな。イサミよ、
イサミはエルステラに言われた通り、握っていた正方形の石を手離した。
すると、発光していたその石は徐々に光を失い、やがて完全に輝きを失うのであった。
「気分はどうか、イサミよ。」
「ああ、平気だ……多少バッテリーは減ったみたいだが、まだまだ活動できる範囲内だ。エルステラ王、これは上手く貯めることができた…ということで良いのか?」
「ああ、成功だな。其方が放出した魔力はその石の中に貯蔵された。その貯めた分の魔力はいつでも使うことができるぞ。」
「使う……と言っても、どうやって使えばいいんだ?」
「貯めた魔力を使う場合は、再び石を握りながら
エルステラの提案にランドルフが異を唱えた。
「エルステラ王、イサミの魔力はワシでも制御が難しい程強大ですぞ。受け止められますかな?」
それに対してエルステラは不敵に笑う。
「エルトの王を舐めるなよランドルフ。さあ、遠慮せずに撃ってみよ、イサミ!」
「わかった。では行くぞ、エルステラ王。」
イサミは
「
握りしめた石が力強く輝きを放ち、イサミの目の前に
そして、その球は猛スピードで一直線にエルステラに襲いかかった。
「
エルステラは慌てるでもなく、至って冷静に防御魔法を唱える。
そのエルステラの前には5枚の半透明なバリアが展開された。
最初の壁を
二枚目の壁で勢いは多少落ちたものの、それでも問題なく突破した。
「
ソニアの言う通り、
その次の壁ではさらにその半分、最後の壁を通過した時には、ピンポン球ぐらいの大きさになっていた。
球のスピードも最初に比べると見る影もなく、風に舞うシャボン玉のようにフラフラとエルステラに向かって飛んでいった。
エルステラはその小さな球をデコピンで弾き、
「……ふむ、まあこんな所か。しっかりコントロールできたようだな、イサミよ。」
「ああ…ついに、何の支障もなく魔法を使うことができた…!ありがとう、エルステラ王。だが、一つ疑問がある。なんで
「そうだな。魔力というのは、本来なら
「ああ。かなりのバッテリーを消費する結果となった。」
「その通り。制御するものが無い為、常に100%……いや、それ以上の魔力が出てしまうのだ。使用者の負担を考えずにな。」
「そうか…じゃあこの
「ご明察だ。この
「ああ…しかしこの
「ああ、構わん構わん。」
「しかし、貴重なものではないのかこれは?」
「いや?これは下町の露店で買ったものだ。この国の至る所で買えるぞ。何か使い道があるかと思って我も買ったんだが、結局使わなかったな。いやはや、良い貰い手が見つかって良かった良かった。」
「姉さん…自分のいらないものをイサミくんに押し付けただけでは……?」
ハッハッハと高らかに笑うエルステラに対し、メアリーは呆れたような目で自身の姉を見た。
それでも、イサミは改めてエルステラに礼を言う。
「本当にありがとう、エルステラ王。代わりと言ってはなんだが、何か俺にできることを言って欲しい。俺に恩返しをさせてくれないか?」
それを聞いたエルステラは、フフッと小さく吹き出した。
「全く、律儀な奴だな其方は。だが、是非ともイサミに協力して欲しいことがあるのも事実だ。遠慮なく言わせていただこう。」
「ああ、なんなりと。」
イサミの了承を得たエルステラは先程の陽気な雰囲気とはうってかわって、神妙な面持ちでイサミを見つめながら言い放つ。
「近いうちに、このエルト王国とディストリア帝国は全面戦争になる。イサミにはこのエルト王国の防衛に当たってもらいたいのだ。」
「全面…戦争…?」
エルステラの言葉を聞いたソニアは、ただ呆然と立ち尽くすしかないのであった。
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