Report48. 牢の中
エルト城内の地下牢。
ホムラの
囚人が収容される小部屋のひとつひとつには堅牢な檻がはめ込まれており、その檻には囚人番号を表すナンバープレートがかけられていた。
イサミの先を歩くホムラは空室となっている檻の前で歩みを止め、鍵を使って扉を解錠する。
「ここがお前の場所だ、さあ入れ。」
ホムラはイサミの背中を軽く押し、檻の中へ入るように促した。
「わかった。」
イサミは促されるまま檻の中へ入る。
そして、ガチャンという重苦しい施錠音が地下牢に鳴り響いた。
「しばらく、そこで大人しくしていることだな。」
ホムラはイサミを一瞥し、その場を去っていった。
「……。」
捕えられたイサミは、自身が過ごす部屋を改めて見渡す。
いかにも固そうなシングルベッド、小さな簡易トイレ、物書き用の小机という、生活をするに当たって必要最低限のものしか置かれていない簡素な造りの部屋だった。
ここで自分ができることは、何もない。
ホムラのいう通り大人しくしているしかないのだろう。
そう悟ったイサミはベッドの上に横になった。
「とりあえず、寝るとするか。」
イサミがスリープモードに入ろうとしたその時、
「聞きたくもない、憎たらしい声が聞こえるね。」
「……!誰だ?」
イサミは不意に聞こえてきた何者かの声に反応する。
「ここだよ。」
その声の主は、イサミの向かいにある檻の中にいた。
「お前は確か……五龍星のハリル。」
「ああそうだとも。貴様のおかげで今はこんな所にいるハメになってるがな。」
ハリルは、イサミをジロリと睨む。その両手には重々しい手枷がはめられていた。
「ところで、イサミ。貴様はどうしてこんな所にいる?」
「色々と事情があってな。」
「フン……まあいいだろう、貴様がどうなろうが僕の知ったことではない。」
イサミとハリルがそんな会話のやり取りを交わしていると、ハリルの隣の檻にいた囚人がゴソゴソと動き出した。
「ふわあーーーぁ、うるっさいのぉ。一体何事だ?ハリル?」
「ちっ、うるさいのが目を覚ましたか……。」
「む…?むむ…!お主!イサミではないか!?どうしてこんな所におるのだ!?」
目を覚ました巨大な老人、ガーレン・グランベリルはイサミの姿を見つけると、何故か嬉しそうな声をあげた。
「うるさいぞガーレン!ただでさえお前の声はデカいんだ!もっと声を抑えろよ!」
ハリルは舌打ちをして、声を荒らげる。
「ガッハッハ!すまんすまん!」
しかしガーレンは、ハリルの忠告を聞かず豪快に笑い続けていた。
「ガーレン、お前もここにいたのか。」
「ああ、ハリルと共にな。まったく……牢の中は退屈で堪らんわい。」
ガーレンもまたハリル同様に両手に手枷をはめられ、さらには足首に鉄球が巻かれていた。
五龍星のうちの二人がここにいるのは好都合かもしれない。
そう考えたイサミは意を決して二人に尋ねる。
「五龍星のホムラについて二人に聞きたいんだが、いいか?」
そのイサミの質問を聞いたガーレンは首を傾げる。
「別に構わんが……何故ホムラのことを知りたいのだ?」
「彼女の素性を知りたい、ただの興味だよ。」
「他人に興味が無さそうな貴様がホムラに興味があるだと?フン……怪しいな。」
ハリルは訝しげにイサミを睨む。
「まーまー良いではないかハリル。器のちっさい男じゃのう。」
「ああ!?なんだと貴様ぁ……もういっぺん言って…」
「ガーレン。ホムラってのは一体何者なんだ?」
ハリルの言葉を遮り、イサミは食い気味に質問する。
「ああ。元ワシらの同僚にして五龍星の一人、剣神のホムラはソニアお嬢を誰よりも大事に思っておる忠臣の一人じゃ。
そのホムラがここにいるということは、今回の戦乱に乗じてディストリア帝国からお嬢のいるエルト王国に寝返ったのではないか?」
「その通りだ、ガーレン。」
不意に凛とした女性の声が牢獄中に響き渡る。
カツカツと靴音を鳴らし、イサミたちの牢の前までやってきたのは、刀を両脇に携えたホムラであった。
「おお、ホムラか。ちょうどお前の話をしとった所だ。一体何しに来たのだ?」
「お前の大きな笑い声が聞こえたから、様子を見にきたんだよ。」
「ガッハッハ!そうであったか!」
ホムラは、豪快に笑うガーレンを無視して、イサミの方へ向き直る。
「……イサミ。」
ホムラは、どこか冷ややかな眼でイサミを見る。
「どうしたんだホムラさん?解放されるまで時間はまだまだあるぞ?」
ホムラは、イサミの疑問に答えず話を続ける。
「イサミ……悪いがお前をこの牢から出す訳にはいかない。明日、日が昇る前にお前をこのエルト王国から別の場所へと護送する。お前はもう二度と皆と会うことはない。」
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