Report09. 反撃の狼煙
メアリーに案内されながら歩くこと数分、イサミたちは木造の家々が立ち並ぶ集落へとたどり着いた。
その集落に足を踏み入れると、そこに住む人々から大きな歓声が上がった。
「ソニアお嬢様!よくぞご無事で!」
「生きていらっしゃると、ずっと信じておりました!」
「あなたは私たちの希望なのです!ソニア様、万歳!」
そこにいる誰もがソニアが無事であったことを喜び、涙を流すものまでいた。
ソニアはその住人たちの期待に応えるように、羽織っていた黒いローブをバサッと脱ぎ捨て、その場にいる全員に聞こえるよう、高らかに声を張り上げた。
「皆のもの!不安な思いをさせてすまなかった!わらわはこの通り無事である!だいぶ待たせてしまったが、我々の反乱はここから始まる!皆の力で必ずや、ディストリア帝国を奪還するのじゃ!」
ソニアの力強い演説により、住民のボルテージがさらに上がる。
集落全体があっという間にお祭り騒ぎの状態となってしまうのであった。
その中で、イサミは一人冷静にソニアの演説を聞いていた。
「……反乱?」
その呟きを聞いたメアリーが、イサミの肩を優しく叩く。
「事情は私の家で説明するわぁ。ソニアも当分は解放されないでしょうし、先に向かいましょう?」
イサミはメアリーに促され、家の中へと招かれるのであった。
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メアリーの家の中に入った瞬間、ツンとした匂いが鼻を突き抜けた。
机の上には試験管に入った様々な色の薬液がズラリと並んでおり、棚にはそれに使うであろう薬草が種類ごとに収納されていた。
「ごめんなさいねぇ。家の中、変な匂いがするでしょう?」
メアリーは申し訳なさそうにしながら、紅茶が注がれたティーカップをイサミに差し出した。
「ありがとう。それと、匂いは気にならないから大丈夫だ。」
「そう、それなら良かったわぁ。」
メアリーは安堵の表情を見せ、イサミに笑いかけた。
「メアリーは薬学の研究者なのか?」
イサミは机の上に並べられた薬液を眺めながら、メアリーに問いかける。
「ええそうよぉ。ここで薬草を調合して、色々な魔法薬を作っているの。」
「興味深いな。どんな薬を作ってるんだ?」
「そうねぇ……主なものとしては、傷や状態異常を回復させる薬、ヒーリングポーションを作っているわぁ。後はお客様から依頼があった薬を特注で作ったりとかかしらねぇ。興味があるようなら、今度イサミくんにも簡単なお薬の作り方教えてあげるわぁ。」
「ありがとう、助かるよメアリー。」
「それよりも…さっきの質問が途中だったわねぇ。私に聞きたいことって何かしら?」
「ああ、ソニアとメアリーはどんな関係なんだ?メアリーもディストリア帝国の人間だったりするのか?」
「そうねぇ……何から話せばいいかしら?まず私はディストリア帝国民ではないわぁ。私はエルト王国の人間なの。
ソニアと知り合ったのは三年前、彼女がエルト王国に魔法留学に来た時だったわぁ。その時のお世話係が私で、それがきっかけで仲良くなったの。
大国の王女様だから最初は私もすごく緊張していたのだけれど、ソニアは私を含め、誰に対しても分け隔てなく優しく接してくれたから…すぐに打ち解けることができたわぁ。」
「メアリーとソニアを見ていると、なんだか本当の姉妹のような感じがするよ。」
「うふふっ、一国の王女様にこんなことを言うのは失礼かもしれないけど、私もソニアは可愛い妹のように思っているわぁ。」
メアリーは顔を綻ばせて嬉しそうに笑った。しかし、その顔は徐々に暗くなる。
「だから…あの知らせを聞いた時は、本当に気が気じゃなかったの……」
「あの知らせ…というのは?」
「ディストリア帝国の崩壊…たった一夜にして、大陸一の軍事大国であるディストリアが滅びてしまったの……」
「ディストリア帝国が滅びた…?ちょっと待ってくれ。じゃあソニアの親族は…」
「ソニアの父であるディストリア王をはじめ、全員…殺されてしまったと聞いているわ…」
「……!どうしてそんなことに…ディストリアと敵対する国に奇襲をかけられたのか?それとも身内のクーデターによる内乱か?とにかく、一夜にして国が滅びるなんて普通じゃない。」
「ううん、イサミくん。そうじゃないの。私も…本当に信じられないのだけれど、ディストリア帝国は突如として現れた、たった一人の人間の手によって滅ぼされたらしいの…」
「たった一人でだって?一体何者なんだそいつは…?」
「残念ながらこの人物の情報については、ほとんど入って来てはいないわ。たったひとつわかっていることは、その人物が名乗っていたという名前だけよ。」
「その名前っていうのは…?」
「その人物は自分のことを
ディストリア帝国を陥落させた後は行動を起こしてはいないみたいだけど、十中八九ディストリア帝国の王位に就いて、国を牛耳っていると思う…
「
イサミはポツリと呟いて、その人物の名前を最重要記憶の中に保存するのであった。
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ディストリア帝国城内にある病室。
長い間そのベッドの上で眠っていたオージェは意識を取り戻し、ゆっくりと目を開いた。
「ここは…ディストリア城……か。」
オージェは殺風景な病室を見回し、自らの置かれている状況を確認する。
「俺は…そうか、あの男に負けたのか…だが、なぜ俺は生きている…?」
「キミが敵に情けをかけられたからだよ、
オージェへの暴言を吐きながら、小柄な一人の少年が病室に入ってくる。
「ハリル…!テメェ今なんつった!」
「ディストリア帝国が誇る最高戦力、五龍星の看板に泥を塗るなって言ってるんだよオージェ。」
「こいつ!もう容赦しねぇ…グッ…!」
ハリルに殴りかかろうとしたオージェであったが、イサミから受けた傷の痛みで、その場にうずくまってしまう。
「まだそれだけ吠える元気はあるんだね。まっどの道君はもう用済みだからさ。とっとと荷物をまとめて、この城を出て行ってくれよ。」
「ちょっと待てハリル…そりゃ一体どういうことだ?」
「そのままの意味だよ、
そう言ってハリルは鞄の中から羊皮紙を取り出し、オージェの前でヒラヒラとチラつかせた。
オージェはすぐさまその羊皮紙を奪い取り、書かれている文章に目を走らせる。
そこには先程ハリルが言ったことと、ほぼ同義の内容が書かれているのであった。
「さて…と、キミにクビを宣告する役目も終えたことだし、僕はこれにて失礼する。まあ処刑されないだけありがたいと思いなよ。なんせ、キミは
「なんだと!?俺の
「今、捜索隊が血眼になって探しているところだよ。負けた上に帝国の宝を盗まれるなど…全く本当に、救いようのない男だキミは……頼むから一時でも早くこの国から出て行ってくれないか?不愉快でしょうがない。」
ハリルはそう吐き捨て、病室を後にした。
取り残されたオージェは、怒りから病室の床を思い切り叩く。
「くそっ…くそっ…!この俺が国外追放だと…!千里眼のオージェが…!許さねぇ…あの男!どんな手を使っても俺が必ず仕留める…!そして…五龍星に返り咲いてやる…!」
地位も名誉も全て失ったオージェは、イサミへの復讐を固く心に誓うのであった。
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