Report08. 隠れ里レジーナ
太陽がてっぺんに昇る頃、イサミたちは広大な森の入り口に辿り着いた。
「ありがとう、
ソニアは、
『いえ、我々も姫様を無事お守りすることができ、大変嬉しく思っております。イサミ、後はよろしく頼むぞ。』
「ああ、任せておけ。」
マルドゥークはイサミと再び約束を交わし、突如として地面に現れた魔方陣に吸い込まれるように消えてしまった。
「さて、イサミよ。ここからはふ……二人だけになる。注意して進んでいくぞ。」
「ああ、了解した。」
今朝の一件以降、二人の間にはどことなく気まずい空気が流れていた。
「ソニア、少し距離が離れすぎている。もう少し俺の近くに寄ってくれないか?」
「う…うむ、わかった。」
そう言ったソニアは、少しだけイサミとの距離を詰める。
その後はただただ無言で、森の奥へと進んでいくのであった。
歩くこと数十分。
茂みを掻き分けて進んでいくと、不意に小さな
「着いた…。イサミよ、ここが隠れ里の入り口じゃ。」
「そうなのか?俺にはただの祠にしか見えないが…」
「確かに見た目はそう見えるじゃろう。ただ、ある呪文を唱えることで入り口が開けるのじゃ。いくぞ……
ソニアが呪文を唱えると、祠周辺の空間が歪み始める。
その歪みから亀裂が発生し、空間が左右に少しずつ裂けていく。
あっという間に人一人が通れるくらいの空間の穴ができたのであった。
「できたぞイサミ。さあ、この穴を通り抜ければ隠れ里じゃ。」
「……すごいな。これは一体どういう原理なんだ?」
「転移魔法の応用じゃ。まあこの祠の仕組みはわらわが作ったわけじゃなく、使わせてもらっただけではあるがの。」
「魔法か…興味深いな。俺にも使えるだろうか?」
「なんじゃ?イサミは魔法を使ったことがないのか?まあ素質というものはあるんじゃが、この大陸の住人であれば、大体の人間は魔法を使うことができる。初級魔法程度であれば、今度わらわが教えてやろう。使えるようになれば何かと便利だからの。」
「そうか、よろしく頼む。」
「うむ。とりあえず隠れ里に行こう。話はそれからじゃ。」
そう言うと、ソニアは空間の穴の中へと入っていく。それに
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この世界のどこかにある場所なのだろうか、空間の中は様々な土地の風景が映像のように映し出されていた。
ソニアはそれらの風景に目をくれることもなく、ただひたすらに真っ直ぐに進んでいく。
やがて、ソニアの前に一つの土地の風景が浮かび上がった。
「よし、この場所じゃな。この風景の中に飛び込むぞ。」
ソニアとイサミは
一瞬の光に包まれた後、イサミとソニアは先程映し出されていた映像の場所にいた。
「ふぅ…到着じゃ。ここがわらわの仲間たちがいる隠れ里、『レジーナ』じゃ。」
ソニアが説明した後、不意に遠くの方から柔らかい声が聞こえてきた。
「おーい、ソニアー」
そこに現れたのは、黒いローブ姿にとんがり帽子を被った一人の女性であった。
「メアリー!久しぶりじゃなぁ!」
ソニアは嬉しそうに顔をパァッと輝かせ、メアリーと呼ばれた女性の元に走り寄るやいなや、胸のなかに思い切り飛び込んだ。
その光景はさながら、長い時間迷子になっていた幼い妹が、姉とようやく再会できた瞬間のようであった。
「あらあら、甘えんぼさんなのは昔から変わらないわね。でも、本当に……無事で良かったわ。」
そう言ったメアリーの声は震えており、憂いを帯びた蒼い瞳には涙が浮かんでいた。
ここで初めてメアリーがイサミの存在に気づき、ソニアを抱いたまま恭しくお辞儀をした。
「こんにちはぁ。あなたは……どなた?」
「メアリー。紹介しようこやつはわらわを道中護衛してくれたイサミという奴じゃ。無愛想な奴じゃが、真面目で腕も立つ。」
「イサミだ。以後、よろしくな。」
ソニアの紹介の通り、イサミは無表情で端的な挨拶を済ませた。
「ご丁寧にありがとう。私は魔女のメアリーと申します。以後、お見知りおきを。それにしてもイサミくん……あなた、強い眼をしているのね。でもどこか危なっかしさもある…何だか放っておけないタイプだわぁ。お姉さん、色々お世話してあげたくなっちゃうなぁ。」
「いや、身の回りの世話は一通りできるから大丈夫だ。」
さらっとかわしたイサミに対して、メアリーは少し残念そうな顔をした。
「そう…でも、困ったことがあったらお姉さんに何でも聞いてね?」
「ありがとう、助かるよ。では早速なんだが質問をさせてもらってもいいか?」
「ええ、もちろん。でもここでは何だから、私の家に行きましょう。」
イサミとソニアはメアリーに促され、隠れ里の中へと入って行くのであった。
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日比谷研究所の実験室。
日比谷と羽倉は目を丸くしたまま、モニターをじっと見ていた。
「あの転移魔法…紛れもなくこの世界にはない事象だ…実に興味深い。これが使えるようになれば、この世界と異世界を行き来することも夢ではないかもしれない…なあ、羽倉?お前もそう思わないか?」
羽倉に同意を求めようとした日比谷であったが、当の本人は全く話が耳に入っていないといった様子で、まだモニターに釘付けになっていた。
「なんだあのメアリーって姉ちゃん…色気ありすぎだろ…!くそっイサミのやつめ…羨ましすぎる!俺も色々とお世話されてぇ…!」
「羽倉!お前はまた性懲りもなく、女性に現を抜かしているのか!」
「だってよお、スタイルも顔もバツグンだぜ?ソニアだって可愛いし、異世界の女性ってこんなにレベルが高いのかと、思わず感心しちまったぜ。」
「全く…お前の脳内は金と女でしか、構成されてないみたいだな。まあいい。とりあえず、次のイサミのミッションが決まった。これをクリアすればこの異世界の旅もグッと楽になるだろう。」
「ほう?そりゃ一体何だよ?」
「イサミには魔法を覚えてもらう。前代未聞の魔法が使えるAIロボットになってもらうのさ!」
「なるほど…そういや、ソニアがイサミに魔法を教えてやるとかって言ってたもんな。だけどよ、ロボットが魔法なんて使えるもんなのかね?」
「何事も挑戦というものが大事なのだよ。もしイサミが魔法を習得して帰って来て、そのノウハウを世界中に広め、皆が魔法を使えるようになる。夢物語だと思うかもしれないが、そんな世界になったらと考えてみただけでもワクワクしては来ないか?」
「全く、毎度毎度ガキのように目をキラキラ輝かせやがって。だが、そんな世の中になったら楽しいだろうな。」
「これは人類がもう一つ上のステージに上がる為の、非常に重要なミッションだ。頑張れよ、イサミ。」
マイクを切っている為、イサミに声は届いてはいないが、日比谷はミッションの成功を祈り、力強くエールを送るのであった。
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