Report31. 一騎当千
「そこをどいてくれ!」
イサミはガーレンを守るディストリア兵たちに呼びかける。
しかし、ディストリア兵たちはそんな呼びかけに応じてくれるはずもなく、各々が持つ槍を構えイサミに襲いかかる。
「くっ…やるしかないのか。」
イサミは流れるような動きで、繰り出される無数の突きをかわしていく。
そして、一人の兵士が持つ槍の柄の部分に乗っかると、軽業師のように器用に槍の上を渡っていくのであった。
標的の予想外の行動にディストリア兵たちが混乱に
その跳躍はガーレンを守るディストリア兵士たちの頭上を軽々と越え、誰一人傷つけることなく防衛ラインを突破するのであった。
軽やかに着地したイサミは、他のものには目もくれず一直線にガーレンの元を目指す。
「くっ!こうも簡単に突破されるとは…!ええい!奴を背後から狙え!どんな手を使っても構わん!奴をなんとしても止めるのだぁっ!」
ディストリア兵の一人が声を荒げ、それに応えるように周囲の兵もイサミの背中に狙いを定める。
しかし──
「敵に背後を向けるとはの…お主たち、ちゃんと訓練しておったのか?悪いが、それを許すほどわらわはお人好しではないぞ?」
ソニアがぼそりと呟くと、地面に魔法陣が描かれる。
「マルドゥーク。奴らの動きを止めるのじゃ。」
「お任せください、姫様。」
陣の中から現れたのは、
「ひっ…なんだ…!?地面の間から木の根っこみたいなのが……うわぁっ!足に絡みついて…う…動けないっ!」
突如地面を突き破って伸びてきた木の根っこは、イサミを狙う兵士たちの四肢に絡みつくと、ものの数秒もしないうちに身動きが取れないほど
「行けーーっ、イサミ!後ろのことは気にせず、我らに任せるのだ!」
「……!マルドゥークか、助かる!」
マルドゥークからの力強い激励を受けたイサミの足に力が入る。
ガーレンとの距離はもう数メートルも無かった。
「あの布陣をああも簡単に突破するのか……さすがじゃのう、イサミ。だが……もう遅い。」
そう口にしたガーレンは、エルト城がある方角に顔を向けた。
「まずい…発射の体勢に入ったか!」
「コンマ数秒遅かったな!もう誰もワシを止める事などできん!貴様諸共消し飛ばしてくれよう!」
ガーレンの口が大きくガバッと開く。
「くっ……!一か八かだ!」
その発射の瞬間、イサミは砲身となるガーレンの口の前に右手をかざした。
「最終奥義!
ガーレンは勝ちを確信し、高らかに吠える。
ガーレンから放たれた巨大な熱線が堅牢なエルト城を貫く───
かに思われた。
「な…何故だ……」
しかし、何も起こらない。
戦場はしんと静まり返り、ガーレンの真っ赤に染まった身体は徐々に元の皮膚の色へと戻っていった。
「確かにワシは極・覇道砲を発射した。それなのに……何故何も起こらんのだあぁっ!」
ガーレンは怒り狂い、悔しそうに地団駄を踏む。
足を叩きつける度に、その地面にはヒビが入った。
「ふぅ…。五分五分の確率だったが、上手くいったようだ。残念ながら、お前が放った覇道砲は全部この中に吸い込まれたよ。」
そう言ったイサミは、ガーレンに向けて右手をかざして見せる。
「
「ああそうだ。しかし…ガス欠寸前だった魔力貯蔵箱が満タンまで貯まるとは…流石の一撃といった所だな。」
イサミの手のひらには、エルステラからもらった魔力貯蔵箱がはめられているのであった。
「これがなかったら、俺もエルト城も無事では済まなかったな。
本来なら、自分の魔力を貯めるものであるが、敵の放った魔法に対しても使えるかどうかという所の確証は無かった。賭けではあったが、結果的に上手くいって良かったよ。」
淡々と説明するイサミを見て、ガーレンは悔しそうな表情から一転、突然大きな声で笑いだした。
「ククッ…グワッハッハッハ!!まさか、ワシの最終奥義をそんなもので止められるとはな!グワーーハッハッハ!」
ガーレンはひとしきり大笑いした後、観念したようにその場にどっかりと腰を下ろした。
「……完敗だ、イサミよ。ワシは全てを出し尽くした、もう一歩も動くことは出来ん……後は煮るなり焼くなり、好きにすると良い。」
ガーレンの言葉にイサミは小さく首を横に振る。
「お前を殺したりはしないさ。マルドゥーク。ガーレンを捕らえ、城の牢に入れておいてくれ。」
「承知した。」
マルドゥークは再び根っこを這わせて、ガーレンの巨大な身体を巻き付ける。
その後もガーレンは一切抵抗することなく、先に捕らえたディストリア兵たちと一緒にエルト城へと護送されていくのであった。
遠巻きに見ていたディストリア兵たちは、ガーレンを助けようともせず、目の前で起こった出来事が信じられないと言わんばかりに、ただただその場に立ち尽くしているだけであった。
そしてそんな中、一人のディストリア兵士が突然叫び声をあげた。
「む…無理だ。五龍星が二人もやられてしまうなんて……この戦にもう勝ち目は無いんだ!うわぁーーーーっ!」
「あっ!おい待て貴様どこへ行く!戦列を離れるんじゃあない!」
これをきっかけにディストリア兵が一人、また一人と戦列を離れていく。
「ディストリア兵が皆……後退していっておる……!」
帝国の最大戦力を二人も失ったことは相当な痛手であったようで、その他の部隊も撤退を開始しているようであった。
「やったぞ、イサミ!わらわたちは勝ったのじゃな!!」
「いや、まだだ。マークたちが敵の前衛部隊と交戦状態にある。敵は魔法を使えなくする技術を持っているようだから、相当手こずっているはずだ。
俺はそっちに加勢しにいく。ソニアは城に戻っていてくれ。」
イサミはそう告げると、すぐに新しい戦場へと駆けていくのであった。
「全く、
ソニアは、呆れたようなため息を吐くと同時に、イサミが無事でいてくれたことにホッと胸をなで下ろすのであった。
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