Report37. 理想郷
突如として次元の穴から姿を現した
「やはり、プロトを戦闘に出すのは早かったか。そして…この私にエルトを滅ぼすなどと大言壮語を吐いていたランドルフも、結局は壁にめり込みノビているという体たらく。更には五龍星のガーレンとハリルも敗北する始末。全く、どいつもこいつも……役立たず過ぎて反吐が出る。」
王は辺りの状況を見回しながら、ぶつくさと愚痴をこぼした。
そんな王を見て、イサミは再び戦闘の構えを取る。
「お前は何者だ?そして、エルステラに呪いをかけたというのは一体どういうことだ?」
そのイサミの質問に答えたのは王本人ではなく、エルステラの介抱に当たっていたソニアであった。
「気を付けろイサミ!そやつはディストリア帝国を滅ぼした張本人の
「何っ!?こいつが…王……?」
ソニアの言葉に、仮面を被った王は感情のない笑い声をあげた。
「ははは。私の言うことに素直に従っていれば、まだ被害は少なかっただろうに……無駄な抵抗をするものだから、
そう冷たく言い放った王に対して、ソニアは感情を剥き出しにして吠えた。
「黙れ!父王を侮辱することはわらわが許さぬ!」
「ああ…前王の娘のソニアか。すぐに逆上する所は、やはり親譲りであるようだな。」
「黙れと言っておる!!」
ソニアは怒りに身を任せ、ローブの懐から魔導書を取り出し呪文を唱え始める。
しかし、それを遮るようにソニアと王の間にイサミが割って入った。
「イサミ!なぜ止める!」
「よせ、ソニア。一旦落ち着くんだ。まずはここに来た目的を奴の口から聞かねばならない。まあ……ロクでもない理由だろうがな。」
そのイサミの様子を見た王は、心底愉快そうに笑うのであった。
「クックック……よもや人間よりAIロボットの方が幾分か建設的な話が出来るとはな。
いいだろう。私が何故ここに来たかの理由を教えてやる。私の目的はソニア、そしてイサミ。貴様たち二人を勧誘しに来たのだ。お前たち二人は私のもとへ来い。」
そう言って王は、二人に向け手を差し伸べる。
しかし、二人は一向に警戒を解くことはなかった。
「断る…と言ったら?」
「強硬手段に出るほかあるまい。」
王は、自身の右手を壁にめり込んで気絶しているランドルフの方へと向ける。
「
ヒュゴッ
何かを吸引したような音が聞こえた次の瞬間──
壁にはりつけになっていたランドルフの姿が無くなっていた。
「なっ…ランドルフが消えた!貴様、いったい何をしたのじゃ!?」
あまりに突然の出来事にソニアは困惑していた。
一方でイサミは、冷静に今しがた起きた出来事を解説する。
「奴の…王の右手の中にランドルフが吸い込まれていった。一瞬の出来事だったから消えたように見えるのも無理はない。」
「ほう、さすがだな。やはりAIロボットの目は
王は感心したようにパチパチと2、3回ほど手を叩いた。
イサミはそれに対して喜ぶわけでもなく、ソニアにさらに後ろへ下がるように促す。
「その右手で、俺たちも吸い込もうというわけだな?」
「話が早くて、助かるよ。」
王は右手をゆっくりとイサミたちがいる方へと向ける。
王が再び吸引の呪文を唱えようとした時、遮るようにイサミはある一つの質問をぶつける。
「王。ひとつ聞きたい。なぜ俺がAIロボットだとわかった?初見で見抜いたものは未だかつていなかったが、お前は俺と会った瞬間から既に、俺がAIロボットであることを見抜いていたように思える。」
「なるほど、最もな質問だな。いいだろう、物分かりが良い褒美として教えてやる。
実をいうと、私自身がロボットの発明家でね。そこに転がっているAIロボット、『プロト』は私が作ったものなのさ。だからこそ、ロボットと人間の区別など見分けることなど、私にとって朝飯前というわけさ。」
「この世界にロボットという概念は存在しなかった。だが、お前は当たり前のようにAIロボットと口にし、ノウハウが全くない所からプロトというロボットを生み出した。どんな天才であっても、ゼロからの状態でこれほどまでのロボットを作り出すことは不可能であるはずだ。これは俺の推測にはなるが……王、もしかしてお前もこの世界とは異なる世界から転生してきたのではないか?」
イサミの問いに、王はゆっくりと頷く。
「いかにも。私は向こうの世界からこちらの世界へとやってきた。」
「だとしたら、お前の目的はなんだ?どうして、ディストリア帝国を滅ぼすようなことをした?」
「私の目的はAIが支配する世界を作ることさ。欲にまみれた人間を排除し、AIの秩序によって統制されたクリーンな世界。これこそが私が望む理想郷だ。
ディストリア帝国の連中はその見せしめさ。私の覇道を妨げるものはこういう末路を辿るのだということを、この世界の矮小な人間どもに知らしめる為に滅ぼしたのだよ。」
「そんな…そんなことの為にディストリアを…わらわの家族を……民を……ううっ!」
ソニアの緋色の目からは大粒の涙が溢れ、信じたくない事実から目をそむけるように両手で顔を覆った。
「力を示すには必要な犠牲であった。現にディストリア近隣諸国の連中は大した抵抗もせず簡単に降伏したよ。貴様らエルト王国ぐらいなものだ、ここまで我々に立てついたのはな。」
「もういい。黙れ。」
イサミは小さくそう呟くと、再び戦闘の構えを取った。
「
一瞬にして王の懐へと入り、仮面の上から強烈な右拳を顔面に叩き込む。
しかし──
ランドルフのように、王が後方へ吹き飛ぶことはなかった。
その代わり、かぶっていたフルフェイスの仮面にヒビが入る。
そのヒビは徐々に全体へ広がっていき、
バカッ
仮面は完全に砕け散り、その顔があらわになるのであった。
王の顔を見たイサミは、大きく目を見開く。
信じたくない。信じられない。
そんな感情が、イサミの全身を駆け巡った。
今まで比較的平静を貫いていたイサミであったが、動揺のあまり思わず王に向けて声を荒らげてしまうのであった。
「そんな…馬鹿な…いったいどうして、あなたがここに……なぜなんです!マスター!」
その仮面の内側は、自分自身を生み出してくれた発明家、
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