第13話 3D配信
【祝!】改めまして、星見ゲッカです【3D配信!!】
ついにこの日がやって来た。
星見ゲッカ、彼女の3Dアバターを用いた生配信の日である。
生憎と今日、俺は家でゆっくりとパソコンの画面で見る事は出来ない。
スマホの画面を食い入るように見つめ、配信が始まるのを待つ。
『星見ゲッカは準備中です。しばらくお待ちください』
画面の端では準備中の文字がぷかぷかと浮かんでいる。
既に配信の時間にはなっていて、今は星見ゲッカが配信を始めるのを待っている状態だ。
コメント:待ち
コメント:楽しみ
コメント:まだかな?
コメント:待機
コメント達もどこか浮かれているような感じだ。
実際、推しが新たな試みを始めようとしているのだから、楽しみなのは当たり前だろう。
この時、この瞬間、彼女はVtuberとして次のステップを進む事となる。
これから彼女はアイドルみたいに踊ったり歌ったりする事が出来るようになる訳だから、期待も高まるというものだ。
それからしばらく待ったのち。
待機画面が真っ暗となり、それから配信の始まりを告げるBGMが流れ始めた。
どこか懐かしい音楽。
確かこれは――初配信に流した音楽だったか。
そして始まる動画も、初配信で流れたのをオマージュしたようなものだった。
なるほど、導入としてはオードソックスだが悪くない。
むしろ良い。
原点にして初心を思い出すし、実際コメントの反応も良い感じだ。
懐かしいとか、おーとかそんなコメントが沢山流れている。
それから動画が終わると3Dの舞台が表示され、画面の端にぴょこんと白髪が映る。
もしかして焦らすつもりか?
そう一瞬思っていたら、割とあっさり画面に星見ゲッカのアバターが映し出された。
いや、焦らさないんかい。
「みんなー、おはゲッカー!」
コメント:おはゲッカー!
コメント:おはなんだって?
コメント:ゲッカーとは?
コメント:おういきなり新挨拶ぶっこんで来たな
コメントの反応の通り、彼女がおはゲッカと挨拶をした事は一度としてない。
文字通りいきなりぶっこんで来た訳である。
それからゲッカはくるんとその場で軽やかに回転した。
ふわっとスカートが舞い、中が見えそうになる。
コメント:見え
コメント:白か
コメント:!!!!
コメント:いや、見えなかったぞ?
コメント:嘘乙ゲッカたそのパンツは黒のレースなんだよなぁ
3Dアバターの製作に携わっているので知っているが、彼女のアバターにパンツは実装されていない。
履いているのはあくまでスパッツである。
「んん? 展望台民のみんなはむっつりだねー。残念ながら私はスパッツ履いているからパンツは見えないんだなーこれが」
そう言って彼女はもう一度くるりとその場で回転する。
今度は結構早く回ったのでスカートも大胆に浮かび上がり、その結果スパッツが露となる。
コメント:エッッッッ
コメント:エチチコンロ点火! チチチチッ!!!!
どうやらスパッツでも十分だったらしい。
いやまあ、気持ちは分かる。
そしてゲッカは苦笑いを浮かべていた。
「き、君達ーちょっと自由過ぎるぞぉ。そんなんだと一生恋人出来ないぞ?」
ざっくりいくな。
そしてコメント欄は死屍累々というか阿鼻叫喚だった。
……そんなコメントの様子には目も向けず、ゲッカは勝手に配信を進行する。
「さてさて。今回はわたくし、星見ゲッカの初めての3D配信な訳ですが! とはいえ一人でやると絵的に寂しいので今回は助っ人が来てくれています」
助っ人。
どうやら今回の配信は彼女一人でする訳ではないらしい。
一体誰だろう。
それはそれとして俺の休憩時間はお終いみたいだったので、配信を切りスマホを置いて立ち上がる。
コメントなどは後で見る事にしよう。
そして俺は少し長めの廊下を歩き、そしてその扉の前へとやって来る。
「いやー、実は私。助っ人が誰なのかは知らないんだよね。既に3Dしている先輩方の可能性が高いけど、だけどクリスタサイトって黒子のアバターもあるから三期生の可能性もあるんだよね……もしかして、こめっちとかかなー?」
楽しげなゲッカの声が聞こえてくるので邪魔するのは悪いかなーと思いつつ、扉を開ける。
……扉の向こうには、俺と同じくモーションキャプチャーを付けた南海灯の姿があった。
「え、……え?」
「よう」
「た、ぇ?」
彼女は呆然と目を見開く。
俺はにやりと笑い、片手を上げて挨拶をした。
「という訳で、よろしく」
「た、たっくんがどうしてここに?」
「違うぞ」
「え?」
「俺はたっくんじゃない」
俺はぐっとグーサインを彼女に向け、そして決め顔で言った。
「俺は黒子T」
「てぃ、T?」
「ちなみに黒子は『くろこ』じゃなくて『くろご』が正しいから、そこのところヨロシク」
「えぇ……」
という訳で、星見ゲッカの3D配信は始まる事となった。
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