第12話 苛立ち、結論
……集中が続かない。
イラストレーターとして仕事を持っている以上、集中力が続かないから休憩を長く持って仕事に手を付けないというのはやってはいけない事なんだろうけど、だけど今の精神状況だと間違いを起こしてしまう可能性がある。
そんな言い訳をして、俺は一人ベッドに横たわり思考に耽る。
とはいえ、ロクな考えは浮かばないけど。
所詮そんなものだ。
悩みなんて早々に答えが出る訳がない――というかそもそもとして、俺は何を悩んでいるのかすら分かっていないのだから。
「……」
なにをやっているのだろう、俺は。
何を悩んでいるのだろう、俺は。
灯が有名Vtuberとして活躍している事に対し、どうやら俺は動揺しているらしい。
それはそれこそ活動する前からこうなると分かっていた事だろう。
有名になれば、きっと彼女はいろいろな人間から周知されていく事も分かっていた事だ。
だというのに、何故。
何故、俺はこんなにももやもやとしているのだろう。
俺は、もしかしなくても嫉妬しているのだろうか?
彼女の事は人並みに好きだ。
長い付き合いだし、彼女の事はそれこそ親並に知っている。
好きな事、嫌いな事、何でも知っている。
そんな彼女は、今はいろいろな人間から愛されている。
それは望ましい事ではないか。
彼女みたいな魅力的な人間は、いろいろな人間から好かれるべきだ。
俺が独占して良い人材では――
「……いや」
何考えているんだ、俺は。
これではまるで、俺が彼女の恋人みたいじゃないか。
恋人。
……恋人。
うん、まあ。
彼女の恋人になれればそれはとても素晴らしい事だとは思う。
そして俺が彼女に告白をすれば多分――多分?
自惚れじゃないか、それは。
彼女は常日頃から俺に対して「好き」と言っているが、しかしだからと言ってそれが友愛や親愛ではなく、恋愛感情だとは限らない。
うーん。
「……なんか」
中学生みたいだな、俺。
なに悩んでいるんだろ、俺は。
なんか馬鹿馬鹿しくなってきた。
大人になろうとは思わないけど、しかしだからと言って思考が幼稚過ぎる。
だけど、だとしたら俺はどうするべきなのだろう。
いやまあ、何かするような事はないんだろうけど、さ……
「はー……」
俺は溜息を吐き、それからおもむろに枕元に置いてあったスマホを手に取る。
見るのはツブヤイター。
彼女、星見ゲッカのプロフを見ると、どうやら現在生配信を行っているらしい。
珍しいな。
自分の事だ。
彼女の配信は今まで逃す事無く毎回見ていたのだが、今回はうっかり忘れてしまっていた。
「……」
URLが張られていたので、そこから配信ページへと飛ぶ。
どうやら既に配信は行われているみたいで、そして配信内容は『雑談配信』。
後もう少しで3D配信が行われるという事で、その事を話しているみたいだった。
「楽しみだよねー。3Dするというのはそれこそ活動を開始する前から可能性としては認識してたけど、まさかこんなに早くさせてもらう事になるなんて」
コメント:それな
コメント:ほんそれ
コメント:最近ペース早いよね
コメント:楽しみ
「うん、そうだよね。ハイペースなのは多分――あー、イヤこれはただの憶測だから言わないべきかな。とにかく、今日もいろいろ準備してきたからみんな楽しみにしててよ。本番ではいろいろとやるから、さ」
コメント:あっ(察し)
コメント:いろいろとは
コメント:また罰ゲームみたいな事すんの?
コメント:クリスタサイトは良い加減所属Vに苦行を強いるのを止めるべきだと思うの
「い、いやいや。別に苦行はせぬが?」
ちなみに苦行というのは、例えばそれこそ小鳥遊トワレちゃん様が行った青汁味比べとか。
複数の青汁を実際に飲んでみて、それの銘柄を当てるとかいう誰得な企画だった。
いや、反応がとても素晴らしかったのでとても面白かったけど、あれは一体誰が考えたのだろうか?
少なくともゴーサインを出したプロデューサーは普通じゃないのは確かだった。
「ま、何にせよだよ」
と、彼女は言う。
表情はあまり変わらないが、それでも笑顔を浮かべているのは間違いない。
「みんな、本当にありがとうね。貴方達のお陰で、きっとこうして3D配信をする事が出来るようになったんだから。ホント、いろいろな人に愛されているって、心から実感しているよ」
コメント:いやいや
コメント:それほどでも
コメント:ゲッカちゃん好き
コメント:らぶー
「うん、そうだね。感謝しかないよ、本当に。だから、本番ではいろいろな人にその感謝の気持ちを伝えるつもりで、頑張るから。配信を見に来てね?」
……なんか。
アレだな。
星見ゲッカ、いやさ南海灯は今までと変わっていない。
それこそ最初、初配信の時からずっとこのペースだ。
だからこそ、愛されてきた。
それは間違いない。
そして気づけば遠いところに行ってしまったような気がしたけど。
これって単純に、俺が――
「……」
だとしたら、どうするべきか。
幸い、『お誘い』は来ているのだ。
それにオーケーをすればすぐに済む。
最初は断ろうかと思ってた、けど。
なんか、悔しくなってきた。
そんな動機で行動するべきではないのは間違いないけれども、だけど。
「……頑張って見るか」
俺は立ち上がり、パソコンを立ち上げる。
――メールを返信するのには、それこそ1時間もかからなかった。
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