幼馴染がVtuberになった、何故か配信の度に俺がトレンドに上がるようになった。

カラスバ

第1話 初手やらかし

「たっくんに良いお知らせがあります」


 ある日、幼馴染の南海灯が俺の部屋にやって来たかと思ったらなんか珍しく真剣な顔でそんな事を言い出した。

 ご丁寧に正座なんてしている。

 彼女だけにそんな事をさせてはいられないので俺もまた正座をして彼女と向き合っていた。

 なんて言うか、全体的にシュールである。


「……それで、良いお知らせとは?」

「私、南海灯。Vtuberデビューします」

「へ?」

「個人ではありません、企業Vです」

「え、マジ? どこの?」

「クリスタサイト、知ってる?」

「知ってるというかなんと言うか……」


 大御所じゃん。

 俺もMytubeでそこに所属しているVtuberの生配信をリアルタイムで視聴する事がある。

 そしてそう言えば、確かに結構前に誰かが「後輩が出来る」とかなんとか言っていたような気がした。

 俺が知らないだけで実は裏で新人Vtuberの募集をしていたのか、知らなかった。

 

「それに受かったんだ、灯」

「うむ、その通り」

「お前、動画の編集とか出来たんだな」

「一から勉強したけど、割と簡単だった」

「ふーん」


 灯、昔から要領が良かったからな。

 いわゆる典型的な万能の天才タイプ。

 努力をすればするだけ結果が返って来るタイプとも言う。

 

「それでね、今日たっくんに会いに来たのはそれを伝えに来たから、だけじゃないの」

「ふん?」

「あのね、たっくん――」


 彼女は相変わらず真剣な表情をしながら続ける。



「私の、ママになって欲しいの!」

「ふむ、……は?」


 何言ってんだこいつと一瞬呆然としたが、すぐに言葉の意味を理解する。


「あー、っと。それってつまり、立ち絵を描いて欲しいって事か?」

「そうそう。たっくんって今、イラストレーターとして活動しているじゃない」

「それはそうだけど」


 高校生から今まで継続してやっているイラストレーター業。

 ティーダというペンネームで活動をしていて、結構繁盛しているとは思っている。

 しかし。


「そういうの、灯が勝手に決めちゃって良いのか?」

「イラストレーターの知り合いに用意して貰って良いかって聞いたら「良いぜ!」って言ってたよ?」

「マジか」

「大マジ」

「……Live2dの立ち絵は一応作れるっちゃあ作れるけど、一応仕事だからお金は取るぞ?」

「そこら辺はほら、クリスタサイトの方が出してくれるって」

「そういう事なら、まあ」


 この後、多分クリスタサイトの方から具体的な話が来るのだろう。

 その上で、俺はとりあえずメモ帳とペン、そしてタブレットを取り出して彼女に問う。


「それじゃあ、まずは灯はどんなVtuberになりたいんだ――?」



  ◇



「ようやく……」


 時の流れは早いもので、彼女があの日俺に仕事の依頼をしてから半年が過ぎようとしていた。

 そして今日、彼女がVtuberとして初配信を行う。

 灯――いや。


「星見ゲッカ、か」


 白いロングヘアに黄金の瞳、三日月と星のヘアピンがチャームポイントの立ち絵。

「天文部の部長」という設定から学校の制服っぽい衣装を着せた。

 イラストに関しては割とこちらの自由にさせて貰えたので随所に自分のフェチを盛り込んでいる。

 絶対領域、良いよね。


「なんにせよ、事故らないでくれよな灯」


 あいつ、優等生だけど結構天然だからなー、変なところでヘマしないと良いのだけれど。

 なんだか不安だ。


 そう思っていても時間は勝手に流れるもので、遂に生配信が始まる時間になってしまった。

 BGMが流れ始め(知らない楽曲だ、もしかしてオリジナル?)、アニメーションの待機画面が現れる。

 この時点で結構お金が掛かっている事が分かる、だからこそ恐い。

 頼むから成功しろとは言わない、無難に終わらせてくれ。


「あ。ふぅ」


 そして。

 第一声はそんな間抜けな声だった。


「どーぅも皆々様、こんよろー」


 

 コメント:きちゃー

 コメント:来た

 コメント:こんよろ

 


 そんなコメントが大量に流れていく。

 新人とはいえ大御所所属のVtuber、初配信だというのに視聴者数が多い。


「私の名前は、えと。星見ゲッカです」


 そんな感じに、緩やかなペースで彼女の配信は始まった。


 ……その後、彼女は一通り自己紹介の後配信タグやファンアートタグなどいろいろなものを決めたりした。

 流石は優等生、初配信だというのに物怖じしないし、はきはきと喋っていて聞き取りやすい。

 Vtuberとしての完成度が高い。

 これなら俺の心配も杞憂になる、か?



「そうそう、それでね? 私のママはたっく――」


 おい、待てや。



 コメント:……たっく?

 コメント:たっくとは

 コメント:噛んだ?

 コメント:噛み噛みカワイイ



「ああ、いや噛んでないよ。たっくんが私のママ、幼馴染なの」


 おいーっ!



 コメント:ティーダ先生の幼馴染ってま?

 コメント:マジ?

 コメント:先生本当ですか!



「うおー……」


 しかし娘である彼女の配信を見ていないと思われるのはイヤなので仕方なしに「そうです」と遠慮がちにコメントする事にした。


 それが失敗だった。



「あ、たっくんだ。らぶー」


 いつもの調子でそんな事を言ってきやがった。

 あの、この……

 馬鹿野郎……っ!



 コメント:らぶとは

 コメント:あっ……

 コメントおっとぉ?

 コメント:ヤバくねこれ

 

 コメント、爆速。

 心臓、バクバク。

 喉が渇く。

 見てられない。

 だけど目を離したらどんな事をされるか分からない。

 介入したらしただけボロが出そうだけどな!


「そうそう、たっくんね。私の意見をしっかり聞いてくれて衣装を作ってくれたから、ホントもう愛してるって感じ。らぶだよー!」


 ……もうだめだぁ。

 おしまいだぁ……。

 炎上、批判、初日にして卒業。

 目の前が真っ暗になる。

 いやもはや何も見えない。

 そんな中、灯がメッチャ早口で如何に俺が凄いのかについて話していく。

 頼むから、個人情報とか漏らさないでくれよ。

 それだけが、俺の頼みです……




 そして――



 初配信から、2週間後。



 星見ゲッカ。


 登録者数、19万人。



「……あれぇ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る