第4話 思わぬところで

「う、む……」


 上手くいかない。

 イラストの話だ。

 構図だとか配色だとか、そういった諸々がきちっと決まらなくてもやもやする。

 もっと上手く行く構成があるのは間違いないのだが、正解がまるで思いつかない。

 そういった事は良くあるのだが、しかし今回はいつも以上に答えへの道のりが長そうだった。

 端的に言ってしまうのならば、「こりゃ無理ぽ」である。

 完全にお手上げである。


 まあ、割とこういう事はあるのだ。

 何度頭の中をこねくり回してもイラストが完成しない事なんて良くある。

 そう言う時は一度、休憩をいれたりしてリセットを掛けるのが一番だ。

 俺はぐっと伸びをし、それからパソコンに表示されている時間を確認する。

 22時、27分也。

 ふむん……



「ふんふーむ」


 キャラクターを走らせながら物資を漁る。

 ……クソだな、まるで良いのがない。

 運がないなー、いつもの事だけど。


「そっち良いのあったか?」

「いんやー?」


 ボイスチャット越しに否定の声が返って来る。

 どうやら向こう側もめぼしいものはなかったらしい。

 

「どうする、やっぱり移動する?」

「んむ。そろそろ接敵しそうだし良い感じに物資を集めておきたいんだけどにゃー」

「基本漁夫ってくのはいつも通りでな」

「むしろそれ以外に俺達が勝てる方法あるか?」

「ないな」


 ないのである。


 ……現在、俺がやっているのは最近流行りのゲーム、EPAX。

 バトルロワイヤル形式のFPSである。

 そして今、ボイスチャットを繋いでいるのはイラストレーターの友人、『伊能ミライ』である。

 そして一応このゲーム、3人で1チームとなっているのでもう一人参加者がいるのだが、その人物は残念ながらボイスチャットは繋いでいない。

 とはいえ、連携が取れない訳ではない。

 このゲーム、『物資を見つけた!』とか『接敵したぞ!!』とかいったボイスをアクションとして取る事が出来るのだ。

 コミュ障でも安心の設計ですね。

 

「ていうかティーダお前、上手くいかないからっていきなり連絡寄越してくんなよ」

「暇だっただろ、どうせ」

「いや、割かしビジーだったからな? 納期とかで」

「そうなのか?」

「だったら良いなー、と願望抱きながら今期のアニメを見てましたはい」

「……また今度ご飯奢るぞ?」

「友人に飯をたかるほど落ちぶれてねーよ」


 まあ、彼も金銭面で困っている事はないだろうが。

 人気というものは可視化出来るものではないが、少なくとも活動期間は彼の方が長いし、年長者として尊敬をしている。

 ひよっこの時はいろいろと教えて貰ったな―、確定申告の事とか確定申告の事とか、後は確定申告の事とか。


「ところでよ、ティーダ」

「ん?」

「お前、ゲッカちゃんとはどうなのよ」

「……どうなのよ、とは?」

「良い感じなの?」

「良い感じもなにも」


 俺はまさか彼の口からあいつの話題が出てくるとは思わず、ついキャラクターを操作する手が止まる。


「昔通りで今まで通りだよ、喧嘩もするけど仲は変わらない」

「ったくよぅ。美少女の幼馴染がいるってどれだけ羨ましく感じられるか分かってんのかー?」

「別に美少女の幼馴染がいたって何も起きないよ」

「美少女のところは否定しないのか」

「事実だからな」

「……」


 しばし、無言。


「なんか、アレだな。アレだわ」

「なんだよ、アレって」

「……いや、そんな事よりもさ」


 と、そこで彼は突然話題を切り替える。


「それなら、クリスタサイトのVの中で気になる子っているのか?」

「クリスタサイトの?」

「そうそう、今確か10人くらいいるんだろ?」

「ゲッカ含む三期生も入れて、13人だな。一期生が3人、二期生が5人で三期生も5人」

「誰か気になる子、いるか?」

「んー」


 俺は少し考えた後、答える。


「……そうだな、強いて言うならば、ゲッカと同じ三期生の藤木バンリと土方マツリのカプとか良く見る、かな」

「お、カプで推してく感じ? やっぱてえてえ勢か」

「ゲッカ繋がりで三期生全員のファンアートを描く時参考の為に見た時、良いなって思った」

「やっぱゲッカちゃん繋がりか」

「ミライの方は、どうなの?」

「俺はやっぱり一期生のイマノキセキちゃん、かねー。歌上手いし、声も綺麗だし、清楚だし、それに何よりまだクリスタサイトが世間に認知されていない時から一人で頑張ってたのを俺は知っているからなー」

「あれ、もしかして初期勢だったりする?」

「何なら初期3Dアバターの時から推してるぞ」

「ガチ勢じゃねーか」

「敢えて言おう、ガチ勢だと――ん?」


 と、そこで。

 チャットが送られてくる。

 現在チームを組んでいる最後の一人、プレイヤーネーム『List_2』からだ。


『二期生はどうですか?』


「……二期生?」

「二期生かー、ティーダはどうだ?」

「ん、俺? ――俺はアレだ、小鳥遊トワレちゃん様が好き」

「トワレちゃん様か」

「即興で歌を歌うのが好き。ヘンテコな歌詞なのにメタクソ歌うまで笑いそうになるのがクセになる」

「それな」

「お前は?」

「箱推しなのは大前提として、やっぱり、んー。ギガちゃんが好き」

「へー、意外」

「テコたそとのお泊り回とか好きだったなー、アーカイブ消されちゃったけど」

「あー、年齢制限付けられた奴ね」


 そこでまたチャット。


『私を好きでくれてありがとうございます、たっくんさんwwwwww』


「………………ん」

「……………………………んん?」


 えっと。


 ……どゆこと?


「……なあ、ティーダ」

「なんだ、ミライ?」

「俺今凄く怖い想像しちゃったんだけど、それが事実かどうか確認してきても良いか?」

「え、っと」


 なんだろう。

 凄くイヤな予感がする。

 むしろ事実は既に理解しているのだけど、それを脳が拒んでいるような、そんな感覚。

 

 それから、再びの長い沈黙。

 数秒、のち。


「おい、ティーダ」

「はい」

「……トワレちゃん様、配信してらっしゃる」

「……はい」


 そんな事、あるぅ……?


『と、言う訳で頑張りましょう二人とも!』


「あい」

「……あい」



 その後、メチャクチャチャンピオン取った。

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