第5話 りてらしー
『うっかり自分の推しを本人に聞かれてしまうたっくん』
『小鳥遊トワレ氏にタジタジな人気イラストレーター二人wwwww』
『トワレちゃん様、たっくんに対し愉悦を感じてしまう』
「……」
やっちまった。
そう後悔してもし切れない。
今回の事に関しては本当に俺の不注意から来るものだったのでただただ反省するばかりである。
ただ、ぶっちゃけてしまえばこれで済んだだけ良かったとも言える。
俺がティーダとして活動をしている事は周知の事実だし、ミライともEPAXをしている事は良くツブヤイターで呟いている。
そして何より、個人情報関連は一切洩らさなかった。
ただ、これらに関してはすべて単に運が良かっただけであり、ふとしたきっかけでそれを口から零してしまう可能性は幾らでもあった。
だから本当に、運が良かったのだ。
大切な情報を漏らさない、そんな当然の事に関して注意をしていなかった。
勿論、第三者に聞かれている事を考慮しそこまで重要な話題は出さないよう注意はしていたけれども。
だけど今回のようなケースだってあるのだ、迂闊だっただのと言い訳は出来ない。
……そして俺のそんな失態に対する後悔に反比例するように、ネットの反応は大盛り上がりだった。
小鳥遊トワレちゃん様の放送後は当然のように『たっくん』の名がトレンドに上がったし、その後も俺の呟きに対し結構な反応が寄せられた。
『反応面白かったです!』
『声結構可愛いですね!』
『次の配信は何時すんの?』
結構配信する事を期待する声が多かったのは予想外だった。
何故に?
ダレトクなんだそれは。
そんな訳で、ネット民自体の表層的な反応としては特に悪い感じではなかった。
だからと言って反省しなくて良い訳ではない。
とにかく今は、自身の行動を見直してこれからは一層気を引き締めて――
「ずるい」
そして、灯は開口一番そう言った。
「トワレちゃん先輩だけ、ズルい」
事件があった翌々日、いきなり家を訪れた灯はむっとした表情をしながら椅子の上で持ってきたコーラをごくごく飲む。
それから彼女は「どうして私とはしないのにトワレちゃん先輩とはコラボするの?」と俺に対して尋ねてくる。
俺は困る事しか出来なかった。
「イヤ、別に今回のはただの事故だったし。ていうか本当に今回の事故は俺としては盛大なやらかしだったから反省している最中なんだけど?」
「実際はそうなんだろうけど、結果的には好評みたいじゃん」
「結果的にはな。もしかしたら個人情報を漏らしてたかもしれなかった」
「たっくんはそういう事、しなさそうだけどねぇ」
「お前も人気配信者なんだから、一応気を付けるべきだよ」
俺の、自身にも灯にも言い聞かせるような言葉に彼女は苦笑しつつ大丈夫だよ、と答える。
「私も一応、考えて発言はしてるよ」
「そうか? その割に俺とのエピソード結構話しているみたいだけど?」
「マネちゃんには確認してる。おっけーって」
「マジで?」
「話す前に先にマネちゃんに話しているし」
「……マジで?」
「まあ、最近はあまり聞いてくれないけど」
なんでだろうね、と首を傾げるが俺も分からん。
まあ、彼女も一応発言を逐一確認してから発しているらしい。
……猶更自分は駄目じゃん。
俺は配信者じゃないけれど、だけどもっと注意はしておくべきだったのは間違いない。
「ま、大きな失敗はなかったんだし。とりあえず一回ちゃんと反省したら頭を切り替えるべきだよ」
「……それは、そうだけど」
「で、今度私と配信しよ。むしろ一度正式に声出ししていった方が良いかもしれないよ?」
「ん、んー……」
一理ありそう、ではある。
けどなぁ……
「……いや、やっぱそれはなしだな」
「なんでぇ?」
「だってまあ」
恥ずかしいし。
いつも思うけど、人前で話をするとか凄く度胸あるよな。
なんて、本人には言わないけど。
「とにかく、今のところは親子配信はなしな」
「……あ、ああ。そう言えば私達、親子だったね」
そう言えば、と頷いて見せる灯。
「そういう事をやっているとこはあるけど、俺にはまだ早いよ」
「んー……」
「その代わり、サムネ用のイラストとか素材とか、いろいろ用意してやるから、な?」
「……まあ、今回はそれで我慢する」
彼女の言葉に少しホッとする。
……正直、彼女に本気で頼まれたら断る自信がないから。
彼女と配信するというのにも興味を惹かれる。
だけど、やっぱりまだ早い。
やっぱりもっと、やるなら心得とかをしっかり学んでからにしないと。
「そういえば、たっくん」
「なんだ?」
「イラストの方は進んでるの?」
「んあー、進んではいるよ」
「やっぱ仕事?」
「ん、まあ。その内分かるよ」
「……なんか言葉を濁したねぇ」
その内、というかなんと言うか。
それこそVtuber案件なので嫌でも知る事になるだろうけれども。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます