第3話 スパチャ焼肉
「回らない焼肉を食べに行きましょう」
突然訪れた灯がそう言った。
「……焼肉は普通回らんが?」
「食べに行こう、私の奢りだぜ?」
「いやまあ、行くけど」
そんな訳でちょっと遠くにある焼肉屋へと行く事になりました。
じゅう、じゅう。
「んまー」
「リスナーのお金で食べる焼肉はそんなに旨いか」
「最高だね!」
「さいですか」
個室の焼き肉屋。
二人で向かい合って網を見下ろす。
金網にはたっぷりの肉、肉、肉。
野菜なんてものは、ない。
灯曰く、「そんな軟弱な事はしねえぜ!」との事です。
別に野菜を食べたってええやろ。
「だって私に頑張ってってお金を払ってくれているんだもの、それを有効活用しない方が問題じゃない?」
「それはそうだけど」
「ちなみにこれに関しては既に報告済みです、焼肉行くって」
判断が早いな、おい。
そこら辺は流石というかなんというか、とにかく彼女は天然ではあるが馬鹿ではないって事だろう。
間抜けな行動の裏には間違いなく何かがある。
……ん?
だとしたらこいつが俺の事を話題にしているのにも何か裏があるって事か?
「なぁ、灯――」
「まあ今は兎に角焼肉食べよ? ほれほれぇ!」
「勝手に人の皿に焼肉を追加するのやめーや」
まあ、食べるけれども。
それこそここは「回らない焼き肉屋」、かなり良い肉を提供してくれるのでとても旨い。
初めて来たけど、未知の扉を開いちゃったなこれは。
二度目も来たいと思っちゃう、そう頻繁には来れないけれども。
贅沢なので、次は何かの記念の日に来るとしよう。
それから俺達はただただ焼肉を貪り食らった。
食べる事に集中、黙々と肉を金網に載せ、焼けたら食べていく。
牛、豚、時々鳥。
……ナスが好きなので、ナスも頼みました。
灯は凄い表情をしていたけれども。
野菜を頼んだだけでそんな表情をしなくてもと思ったが、どうやら俺が遠慮をして野菜を頼んだと思ったらしい。
別にそう言う意図はないのだが。
ナスが好きだからなんだが。
「焼き肉屋は焼肉を食べる場所であって野菜を食べる場所じゃない」
らしい。
ちなみに彼女は有言実行とばかりにライスすら頼んでいない。
口の中が肉の油でカオスになっていないのだろうかと不思議でならない。
水すら飲んでいないのだが、本当に大丈夫なのか?
「ふぃー、食べた食べた」
それから20分ほどした後、ようやっと彼女の箸は止まる。
そして最初から用意されていたお冷を口に含む。
こくりこくりと喉が動き、それから「ふー」と息を吐く。
それから、
「ねえ、たっくん」
「んー?」
彼女はちょっとだけ心配げな表情をする。
「今日はその、ありがと」
「なんだよ、急に。ていうか、何に対してだ?」
「私に付き合ってくれて」
「焼肉をタダで食べられるってのに付き合わない奴はいないよ」
「そうじゃなくて、いろいろだよ」
「……いろいろ?」
何の事だろう。
俺、何か彼女に付き合った事あったっけ?
「ほら、私がたっくんの事配信で話しても、文句言ってこないでしょ?」
「……あー」
その事か。
俺は後頭部を掻きつつ、少し渋い表情をしつつ答える。
「その、な。俺も確かにお前にはもうちょっと控えて欲しいなとか、思う時はあるよ」
「やっぱり?」
「でも、少なくとも俺の話題はエンターテインメントとして成り立ってる。それを期待している奴等がいる。なら、それを止めたりはまあ、今のところしないよ」
「……」
「どうして俺の話題をしているのか。それはお前が話題作りが苦手なのかは知らないけど、今のところは灯の好きなようにしてくれて良いよ」
俺の言葉を聞き、彼女は少しだけほっとした表情をする。
「うん、うん。そうだね、たっくんはそう言う人だよね」
「ん?」
「私はね、――ううん、違うな」
彼女は何かを言いかけ、それから口を噤む。
それからしばし考えこむような仕草をした後、それから「私は」と口を開く。
「らぶー、だね」
「どういう事だ?」
「たっくんが私の幼馴染で良かったって事だよ」
「なんだよそれ、今更か?」
苦笑しながらそう答える俺に対し彼女は少し恥ずかしそうにはにかみながら、
「ん!」
そう力強く頷くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます