第8話 凸
現在、俺は一人暮らしをしている訳だが唐突に実家からいろいろなものが送られてくる事が儘ある。
そして今回も唐突にそれはやって来た。
『これ、灯ちゃんと一緒に食べなさい』
メロン。
マスクメロンである。
立派な大きいマスクメロン。
しかも二つ。
確かにこれは一人では食べ切れないので、二人で消費するというのは確かに正しい選択だろう。
そんな訳で、俺はメロンとその他一緒に入っていたお菓子、食材を持って彼女の家へと向かう。
彼女の住まうマンションは歩いて10分程離れた場所にある。
とはいえ今回は荷物があるので自転車に乗っていく事にする。
マンションは良くある玄関で目的の部屋に連絡をし、あちら側から扉を開けて貰うタイプ。
灯が住んでいるのは3階だ。
ポチポチとボタンを押し、インターホンを鳴らす。
ぴんぽーん。
それから数秒後、
『あいー』
「俺だけど」
『俺じゃ分からん~』
「卓也だよ、入って良いか?」
『ういうい~』
ガチャ。
自動ドアが開く。
……毎回思うが、これってセキュリティ的にありなのだろうか?
どこか適当な部屋の住人に『鍵忘れたから開けてくれ』とか言って開けて貰えば簡単に侵入出来そう――と考えるのは俺が悪いだけなのだろうか?
エレベーターに乗り込みドアを閉じる。
すっと感じる重力。
すぐに扉は開き、やってきました3階フロア。
そこから右に四つ扉を通過した先にあるのが灯の部屋。
インターホンを押す。
「俺だけど」
『俺じゃ分からん~』
「……このやり取り、さっきもやっただろ。卓也だよ」
『天丼って事~、ていうか鍵空いてるから入って来て良いよ』
彼女の言う通り、扉は既に鍵が開いていた。
少し不用心だなと思いつつ、俺はがちゃりと扉を開く。
……なんか、見知らぬ靴があるんだけど?
「……」
バック、バック、バック。
一度部屋から出る。
そしてもう一度インターホンを押す。
ピンポーン。
『なに~?』
「誰かいるのか?」
『言い忘れてたけど、友達が来てる』
「……届け物があるから来てくれ、渡したら帰るから」
『遠慮せずに入って来るのだ』
「むしろお前はその友達に遠慮しろ」
『いやいやその――』
と、そこでガチャリと唐突に扉が開く。
今現在、灯はインターホン越しに会話をしていたので間違いなく玄関の扉を開くのは不可能。
事実、扉を開けて出てきたのは見知らぬ女性だった。
小柄だが、しかし子供っぽい訳ではない人。
ボブカットの黒髪に少し垂れ目な二重の瞳。
高そうな黒のシャツに動きやすそうなズボンを履いている。
この人物は、灯の言うところの『友達』、か?
「どうも」
彼女は言う。
どこかで聞いた事があるような声だった。
「私は良いんで、入って良いっすよ『たっくん』さん」
「あ、うん……」
俺はとりあえず頷き、彼女の背中を追うように部屋に入る。
短めの廊下を進み、そして見知ったリビングへ。
「おっす~」
灯が手をフリフリ振って俺を出迎えてくる。
しかし、俺が気になったのは彼女の前にあったもの。
ふわふわの絨毯の中央に座したガラステーブル。
その上に置かれているのは、どこからどう見てもマイクだった。
「……」
「あ、勘違いしないでね? 配信はしてないよ?」
「……」
俺は灯の友達に視線を向ける。
「はぁ」と嘆息した彼女は言う。
「ホント、です。てか、お前あまり信用されてないんだな」
最初は俺に対し、そして次の言葉は灯に対し。
灯は「たはー」と悪びれずに笑った。
「いんやー、普段の行動の賜物かなこりゃ」
「褒めてないからな?」
額を抑えて呆れたように顔を横に振って見せる彼女。
それから彼女は、「その、初めましてっすよね」と俺に向き直って言う。
「私は、村野日菜子って言います。あい――灯さんとはよく親しくして貰っている、います」
「ちなみにこめっちね~」
「……お前な~」
とにかく厄介な場所に足を踏み入れてしまったのは間違いなさそうだった。
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