第12話 英雄()(笑)草wwww
絶望の状況。
お話の中ならば白馬の王子様でも来てくれるのだろうが、現実ではそんなときやってくるのはたいていろくなものではないと相場が決まっている。
『英雄』を渇望した彼らの前に、確かに『英雄』は現れた。
ただ、それが誰にとっての『英雄』かはわからないが。
「っ!! お前は……!!」
勇者は空を見上げ、まるで苦虫でも噛み潰したような顔をする。
そんな彼をあざ笑うように見下した『英雄』は、混乱の街の中心で声を張り上げる。
「えー、ごほんごほん。俺は街の代表のナサ様の代理人としてまいりました。皆の者聞けー!!」
拡声魔法のかかった魔道具によって増幅された声は、街の端々まで響いていく。
絶望の最中にいる住民は、街の代表代理を名乗る彼の言葉の続きを息を呑んで待った。
「えー、皆さんに朗報です」
彼は溜めるようにそうつぶやき、
「そいつの弱点は、炎だ!!!」
直後、声を張り上げてそう叫んだ。
その声に、街の人々は驚愕の表情とともに、心のなかで、こうつぶやく。
『……は?』
いやいや、炎で炙っても死にませんがな?
目ぇ腐ってんの?
ほら、目の前でスライムが炎の壁通っとるやん?
全然ピンピンしてるよ?
なんなら暖かさを楽しんでさえいるよ?
お前何言ってんの?
期待させやがって、ブチころすぞ!!!!
そんな叫び声が街中から聞こえてきそうな中、『英雄(笑)』はさらに声を張り上げる。
「倒し方を教えるぞ!!! まず、水をかけて凍らせたあと、灼熱の炎であぶれ! そしたら死ぬ!!」
『英雄(笑ww)』はキマッタぁとばかりに、決めポーズをしながら叫ぶが、街の住人たちはポカンといる表情しかしない。
そりゃそうだ。
混乱の中いきなり現れて、注目を集めてもったいぶるだけもったいぶったあと、とんちんかんなことを叫んだこの『英雄(笑)草ww』なんて信用できるわけがなかった。
ただ、かといって、他にすがるものがあるわけではないので、彼らは疑心暗鬼になりながらも『英雄()』の言うことを試して見ることにした。
「ウォーター……」
「フリーズ……」
息のあったやる気のない詠唱が響き渡る。
水をかけられ凍らされたスライムは、固まるは固まるが別に命になんの別状のなさそうだった。
というか、早めに倒さなければ『コールドポイズンスライム』とかいう更に厄介なものに進化しそうなので、住民は多少焦りながら最後の魔法を試す。
「ファイヤー……」
弱々しく飛んでいった炎の玉は固まるスライムに直撃し……直後、その体を溶けさせた。
「「「「う、嘘だろ……!?」」」」
撃った本人、周りの住民、さらに勇者。そして、何故かその方法を提案した本人たる『英雄』まで驚きの声を上げた。
「ほらな、言っただろ!! 魔法が通るとなれば、スライムなんて魔法変態のお前らの屁でもねぇだろ!!!!」
驚きを隠せない住民たちに、『英雄』は叫びかける。
「いけぇっ!! 反撃の狼煙を上げろぉ!!!」
『英雄』のそんな掛け声に合わせ、
「「「うぉぉぉおおお!!!!」」」
街からは大地を震わせるような叫び声が上がった。
自らが鍛え上げ、周りに蔑まれようとも信じ続けてきた『魔法』がまったく効かない相手に、彼らはかなりストレスが溜まっていたのだろう。
魔法が通じるとなれば、あとはこっちのもの。
『変態』たちによって、スライムの大群はえげつないスピードで滅ぼされていくことになるであろう。
歓声が上がる街。
広まり始めた熱狂を見ながら、一人の男が実に忌々しげに、
「チッ」
舌打ちをした。
その音は誰に届くこともなく、熱狂の渦に飲まれて消えていくのだった。
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