第3話 ファーストコンタクトは最悪の形で

「ッ……!!」


いきなり吠えた俺に、勇者パーティーの面々は驚いた顔をしていた。


「まず、王国の勇者だかなんだか知らないが、魔法都市の代表である彼女に敬語も使わないとか何なの。最低限の礼節すらわからねぇのかよ。」


「そ、それは……」


「勇者様の権限は教会によって担保されております。その力は王国内だけにとどまらないはずです。」


俺の糾弾に勇者が一歩後ずさり、それをカバーするように魔法使いのお姉さんがそう付け足す。


美人で胸の大きなお姉さんにかばってもらえるなんて、大層な御身分じゃねぇか。

まぁ、ナサちゃんをかばえてる俺のほうが何億倍も幸せだけどな。


「正確に言うと、『聖教会』な。もっと言えば、『聖教会王権派』。勇者の権力の強さにおいては昔から議論されてるし、ここで言えるようなことじゃないからおいておくが。まずここ魔法都市は『聖教会』なんてポッとでのせいぜい数百年単位の教会と違って、『魔法教会』という由緒正しき教会を全体として信仰している。その歴史は魔法都市と同等か、それよりも長い。ここ魔法都市がいつからあるか、賢い王国の皆さんならおわかりですよね?」


こういう場面で話し合うときに、自らの感情を入れたら負けだ。

相手のことを煽りつつ、出すデータや意見はすべて客観的なデータに基づかせる。


相手のボロを誘い、感情的にさせ、自分はなるべく冷静に。


そうすれば、後は勝手に自滅してくれる。


「ま、魔法都市は周辺国の協力のもと成り立って……」


「黙れ小娘。いつ喋って良いと言った?」


俺の言葉にカッとなったのだろう。

勇者の左腕にしがみつきながら、妹ちゃんが反論を述べようとする。


ふっ、引っかかった。


今までの話を踏まえれば、彼女が口を開くことはマイナスにしかならないことは明白だ。


「ッ、勇者様の妹君に向かってその言い方はあんまりではないのですか!? だいたいあなたは……」


「てめぇもだよ小娘。いつ喋って良いと言った? なぁ。」


「あ、あなただって……!!」


続いて、メインヒロインの聖女さんも引っかかってくれた。


勇者パーティーは肉体面は世界トップクラスだが、頭脳の方はあんまりなんだ。

今この場面で俺の微笑みの理由がわかっているやつも、爆乳魔術師さん以外いないだろう。


さてと、じゃあちょっくら、ご教授差し上げようかな。


「根本からして分かってねぇみたいだな。俺は今、最高に気分がいいんだ。だから、教えてやるよ。」


俺はニヤリと微笑んで、右の指をパチンと鳴らした。


「魔法都市はそこの小娘が言ったように周辺国の協力によって成り立っている。では、それはどんな協力だ? そこの女」


「国境などの防衛や、魔物の対応です。」


俺に指さされて、爆乳魔術師さんが答える。

さすが唯一の頭脳派。余計なことを言えばさっきのように揚げ足を取られると、最低限の答えしか口にしない。


「ごめ〜と〜。確かに魔法都市は防衛などの面を周辺国に頼っている。でも、変だと思わないか?」


でもな、それもまた悪手なんだよ。


余計なことを言わないというのは、ボロを出さないという面では完璧だが。その反面、相手に完全に話の主導権を握られてしまうという弱点もある。


「だって、魔法都市くらいの小さい国なら国境線は短く守るのは簡単だ。それに、魔法都市にはレベルの高い魔術師が集まっている。子供ですらバンバン魔法を撃つんだ。それなのに、他国に防衛を任せる意味あるか?」


魔法都市って人口はそこまでいないけど、軍事力で言えば二位に大差をつけての圧倒的な一位だからね。


モブキャラですらSR以上のステータスとか、チート以外の何物でもない。

もともと、運営の拠点がある場所だしな。本来なら一章で手に入れることができるから、主人公たちのホームタウンにはもってこいだよな。


まぁ、今はそれが彼ら主人公たちの首を絞めているんだが。


「そ、それは……」


「答えは簡単。任せてるんじゃない。任せてやってるんだ。」


「ッ!!」


俺の口にした答えに、爆乳魔術師さんは目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。


「てめぇらの国に魔術師を派遣してやる代わりに、国境線くらい守れよって意味もあるし。何より、魔法都市に国境線を任せたら、その魔法技術を外に漏らさないように鎖国されて、弾かれて終わりだからだ。」


子供でも分かる話だ。能力が低くてろくな利益を与えないくせに、こちらの力に情報にを欲して戦争始めるような害悪周辺国、鎖国して利益こそあれど損害なんてなんにもないんだからな。


「全員が高度な魔法を操る魔法都市と、ほとんどが魔法を使えず、戦力の殆どが兵士な周辺国。戦争なんかしたときには、負けるのはどっちか赤ちゃんでも分かるよなぁ?」


俺はここがサビだとばかりに声を張り上げ、あざ笑うような表情をつくって彼らを見下して見せる。


「で、その周辺国のなかの一国の王国のみなさんよぉ。勇者だかなんだか知らないけど、随分と無礼なんじゃないか? 正式な遣いのそこのお姉ちゃんと勇者なお前は、百歩譲って発言くらい許されるが。いくらお前らに関係あろうとそういった地位も立場も何もない小娘がこちらの許可なく喋っていいわけないだろ。」


先程から俺が言っていたのはこういうこと。


魔法都市は世界の中心と言われ、この都市がなくなれば人類が滅びると言っても過言ではない。


そんな都市のトップにいるのが、ナサちゃんなのだ。


本来なら、たかが一国家、一宗教の勇者だの聖女だのが押しかけて会えるようなお方ではないのである。


って、ゲームの設定で見た。


この世界の知識はゲームの設定集とかで見たやつそのまんまだから、やはりゲームの中に転生してしまったというのは、逃れようもない事実なのだろう。


「そもそも、アポもなく突然ここに来てる時点で、外交問題だぞ。魔法都市が与えてる恩恵、わからないわけではないよなぁ。あれあれ、ここは魔法都市の中枢部。この都市の議会でも許された一部の人しか入ることを許されない場所だ。入室するには、魔法都市代表である、魔法教会当代聖女のナサ様の許可が必要なはずだ。」


俺はそう言って、彼らのそばに近寄って糾弾を強める。


俺の目的は彼らを追い払うことだから、さっきからこんなに煽る必要もないのだけど。


この先の展開とか考えて、嫌われておいたほうが良いからな。


全ては彼女のため。

彼女が幸せになってくれれば、俺はもうどうなってもいい。


「で、王国の勇者様方は、事前の連絡もなく押しかけた上に、ナサ様が何も仰らないのを良いことに、一方的に主観で全くの根拠なく責め立て、その上侮辱した。さぁて、このことを聞いた他の周辺国はどう思うかなぁ? 世界最古かつ最強の都市であるこの魔法都市の議会はどう判断するかなぁ?」


俺は魔術師さんの顔を下から覗き込んで、笑いつつも目は笑わずに、つぶやく。


「ッ!!!! も、もうしわけ……」


さーっと顔を青ざめさせ、頭を下げようとする魔術師さんに、俺は一言。



「失せろ、三下」



その言葉を受けて、勇者パーティーの面々は逃げるように帰っていった。


といっても、事態のヤバさを理解しているのは魔術師さんだけのようで、聖女さんと妹さんは最後まで不満そうな顔で俺のことを睨んでいた。


あらま〜、初日からメインのヒロイン達に嫌われるとか、悲しくて涙ちょちょぎれるわ。


「さて、と……」


俺は人がいなくなって静かになった部屋で、達成感を持って一息つくと、


「あの、なんかごめんなさい。いきなり現れてあんなこと言っちゃって。その……大丈夫だった?」


後ろを振り向き、ナサちゃんに頭を下げた。


あんな偉そうに言ってたけど、まずそもそも俺は部外者なわけだし。


ナサちゃんが許さなければ、俺は即死亡確定だ。


彼女は僅かに驚愕の表情を浮かべながら、頭を縦に振ってくれた。


「なら良かった〜。あれかな、俺を召喚したのはナサ様で良かったかな?」


俺は一応の確認をすると、彼女は再び頷いてくれた。


「オッケーオッケー。事情を確認すると、水路の汚染はもう起こった?」


これには、なぜお前が知っているのかと、更に驚きながらも頷く。


「対策は?」


この質問には、少し苦い顔をして首を横に振ってくれた。


ナサちゃん、表情がわかりにくいだけで、感情はあるじゃん。


てか、普通に超ドキドキなんだけど。


だって、推しが俺の言葉に頷いたり首振ったり、反応してくれるんだよ?


いくら払えばいいのっ!? って話よ。手汗がヤベェ。


「まだね。オッケー、ちょっとまってね」


俺はナサちゃんにそう断って、少し考える。


あの事件があるのがあの日で、確かこの訪問は…………。


よし、それでいこう。


「オッケー、完璧。」


ゲームの情報とこちらの状況をまとめて、よしっとつぶやいた俺に、ナサちゃんが訝しげな目線を向ける。


「俺が誰か、気になる?」


そう問いかければ、彼女は先程よりも強く首を縦に振ってくれる。


ぐへへ、かわいいでござる。


「うぅん、そうだな……」


誰かと言われても、ここはゲームの世界で元々プレイする側の人間でしたテヘペロっていっても、なんのこっちゃって話だろう。


東の国とか言う?


でも、彼女に、召喚されたっていうこともあるし………。


「俺はね、」


少し考えてから、頭に浮かんだその答えを、少し臭いかなと思いながら、つぶやく。




「君だけを照らす、とんだ乱入者ってとこかな。」




そう微笑んだ俺を、彼女は不安げに見つめていた。


そうだよな、そんな急に言われても信頼できないよな。


でもね、俺は絶対に、君のことを裏切らないよ。






こうして、俺はゲームの推しキャラを救うことになった。




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