第4話 世界を変える、覚悟
「うーん、どうしようかな〜」
俺はこんがりと焼いたパンをかじりながらつぶやいた。
こちらの世界に転生して、二日。
ナサちゃんのご厚意によって、浮島の一室に居候させていただいている。
浮島――というのは、その名の通り浮いている島だ。
魔法都市の中心に位置し、現代魔法のすべてが詰まっている、と言われている。
ナサちゃんの許可なく入れるのは、各国の王と種族長のみ。
ナサちゃんが主に住んでいる場所でもある。
大好きな推しキャラとひとつ屋根の下で朝を迎え、朝食をかじりながら俺が何を考えているかというと。
「ゲームで言えば結構終盤だろ。あとは、事件が起こるだけだもんな。」
この先に待ち構える、第一章の事件のことだった。
それをきっかけに、ナサちゃんは断罪されることとなる。
逆を言えば、それを上手くこちら側で対処することができれば、彼女は断罪を逃れられるということ。
なので、なんとしてでも回避したいのだが……。
「これ、無理ゲーでは?」
その難易度は、ハンパなかった。
元々悪役断罪前提のシナリオだもんな、俺一人異物が入ったところで、そう簡単に変えられるわけないよな。
メインシナリオは至ってシンプルで、
『プロローグで出会った勇者パーティーの四人は、世界最強と名高い都市、魔法都市に行く。世界の叡智が集い、活気にあふれているはずのその街は、どこか様子が変だった。聞くと、魔法都市を流れる川の水が“悪”に汚染されていると。それによって病気にかかる者も増えていると。そして、その犯人は、魔法都市のトップであるナサではないかと。
そんな感じで、街の噂を信じてナサちゃんを疑い始めた勇者パーティーは、色んなクエストをこなしながら彼女が悪役である証拠を手に入れていく。
そして、俺が転生した直後に出会った『断罪イベント part.1』で、その疑いを確信にし。その後に起こる“とある事件”を解決した後に、『断罪イベント part.2』で、揃いに揃った証拠で彼女を断罪し、街の全権を手に入れてめでたしめでたし。』
と、いうものだ。
ゲームの最初にしては凝っているが、まぁ大元のストーリーはよくあるやつだ。
1、街の異変に気がつく
2、見るからな悪役登場
3、クエストとともに証拠集め
4、イベント発生
5、断罪イベント
6、クリア
7、報酬ガッポリ
って感じで。ソシャゲのテンプレみたいなもんだな。
この『スターレイニング』では、その後の二章からは物語の自由度が高まり、このゲームの目玉である自由な世界というのが実現できる。
それに伴い、人によって二章よりあとのストーリーはバラバラ。数はわからないが、主なもので4つ、細かいのを合わせたら何兆を超えるストーリーがあるとされている。
AIだか、最新技術だかを使っているおかげで、大元以外は全部自動で作られているみたいだが。
前世での最新版で、六章までがリリースされていて、俺は四章まで完璧にクリア。五、六章については軽く触った程度だった。
六章までに全部で共通しているイベントは、一章を含めて5つある。
まぁ、この世界がどこを行くのかわからないし、そもそもナサちゃんが関係あるのはこの章だけだ。
本来なら、どうあがいても彼女は助からず、良くて牢獄に幽閉。最悪の場合、その権力、地位、財産、思い出、尊厳等、彼女のすべてを奪われた上で、処刑される。
本当に、最悪なシナリオだ…………。
「だからこそ、俺が変えてやるんだ」
俺は紙にメモをとる。
これから俺がやるべきこと。そして、守らなければならないこと。
ここはもう、ゲームの中じゃない。
もう、彼女が涙も流さずに、ただ事務的に死んでいくさまを見なくてもいいんだ。
どうあがいても、救えない理不尽に、打ちひしがれなくてもいい。
そして、その分、勿論。コンティニューもセーブも出来ない。
誰かが死んでもやり直せないし、キャラが違くたってリセマラ出来ない。
それは最高にハッピーで、最高に残酷だ。
自由を売りにするゲームで、“ほぼ現実”とまで言われたアレが。今まさに、“現実”になっているんだ。
アニメの主人公なら、全員を救おうとするだろう。
みんなが笑って過ごせる明るい未来を、どんな絶望の中でも諦めずにもがき、その末に手に入れるだろう。
けど――――俺は違う
彼女が、いればいい。
彼女さえ、笑えればいい。
彼女さえ、笑っていれば。
他のことはもう、どうだっていい。
俺は凡人だから、“みんな”にとっての主人公には成れない。
ただその代わり、“君”にとっての主人公になら、成りたいと思うし、成れるような気がするんだ。
「変えてやる――――」
俺は、立ち上がってつぶやいた。
――変えてやる
――――変えてみせる
この世界の運命を、――シナリオ――を、変えてやるんだ。
コンコン
俺は部屋の入口から鳴り響いた、遠慮がちで優しい音に、気づかぬうちに頬を緩ませながら顔を上げる。
速まる足を抑えてドアに近づくと、それを開いた。
――光はすべからく注ぐべき。ただ己のみを除いて。
大きくなっていく扉の隙間から、丁度陽の光が差し込んで、俺は目を隠す。
そして、目の前に立っている彼女にこう、笑いかけるのだ――――
「光が、明るいね」
――これから二人で創り出す、“君”の世界を
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