第2話 いきなりの断罪イベント

「やはり、偽物なんじゃないか!!」


何か、大きな叫び声が聞こえた。


「聖女ならば、聖なる召喚を行えるはずですが、ナサさんの場合は光りはしたものの、肝心の召喚されるべきはずの者が現れておりません。」


その声は初めて聞いたはずなのに、どこか耳馴染みのある……とても嫌な気分になる声だった。


「嘘つき!!」


ぼんやりとする意識の中で、色々な人に代わる代わる一人が責められていることだけは分かった。


「このことは王国として見逃せません。まさか、魔法都市の代表者であるあなたが、このような嘘をついているなんて。」


キッパリと誰かが言い放ったのとほぼ同時に、俺の意識は覚醒を始めた。


こ、ここは……?


「…………」


ガンガンと痛みを主張する頭を押さえながら、あたりを見渡す。


ここは……首の座?


主の座とは、俺のハマっていたゲーム『スターレイニング』の推しキャラ、ナサちゃんがいる部屋で、魔法都市の中心部にある浮島の頂上にある。


俺はゲームの中にあるはずのその部屋に倒れ込んでいた。


目の前では、一人の少女に四人の男女が詰めかけていた。


これは………。


覚醒していく脳が、この光景が何なのかを教えてくれる。


これは『スターレイニング』の一章の中盤にある、断罪イベント。


主の座に押しかけた主人公達が、ナサちゃんを一方的に糾弾して、彼女への疑いを確かなものにするシーンだ。


つまり、言い換えればナサちゃんの不幸の始まり。


このシーンで主人公達はナサちゃんを完全に敵と断定し、ナサちゃんは悪役となることを決める。


「おいナサ、なにか言ったほうが良いんじゃないか!!!!」


そう、主人公はそんなセリフを浴びせて、ナサちゃんを追い詰める。


それに対し、ナサちゃんは反論も何もせずにただ黙る。


それを肯定とみた主人公達は、ナサちゃんが悪役だと一方的に決めつけて去っていく。


ゲームだと選択肢もなく、ただそんな映像だけが流れていた。



けど、今は違う。


何故だかわからないが、俺はこの場にいて自由に体が動く。


これは夢なのだろうか。


死ぬ間際まで推しキャラのことを考え続けた俺に、神様が与えてくれた最後の希望なのか。


今の状況は全くと言ってわからないが、ただ一つはっきりと言えることがあった。


――――目の前の少女を、救う


それだけは、死んでも変わらない。



「『光はすべからく注ぐべき。ただ己のみを除いて。』」



俺は立ち上がりながらつぶやいた。


俺が横たわっていたところは、主人公たちからは丁度影になって見えていなかった。


彼女が召喚で俺を呼んだのか、俺が彼女の世界へ乗り込んだのか。


まぁどちらにせよ、こんな機会二度とないんだ。


元から失くなったはずの命、君のためになら喜んで賭けられる。


君は、悪役だ。

君は、断罪されるんだ。

君は、辛い過去がある。

君は、とても弱い。

君は、とても強い。

君は、とても酷い。

君は、とても優しい。

君は、皆に嫌われている。

君は、世界に嫌われている。


光は、君のことを照らさない。

いや、照らせない。


なら――――






   

「なら俺は、君だけを照らすよ。俺に任せて。」







俺は、トンと彼女の肩を叩いた。


彼女は驚きもせずに、こちらを見上げてくる。


ベールに包まれてその表情は見えなかったが、多分きっと、彼女は笑っていない。


泣いてもないし、怒ってもない。


もう、諦めてしまったから。

自分にはどうしようもできないと知ったから。


世界が、残酷だと知ったから。

誰も、助けてくれないと知ったから。


でもね、ナサちゃん。


俺はいるんだ。

俺ならいるんだ。

俺が、いるんだ。


なんにもできないやつだけど、百万円以上賭けられるくらいには愛してるんだ。


だからさ、




諦めるのは、もう少しだけ後にしてみないかい?





「おい、」


俺は彼女を庇うように一歩踏み出して、なるべく低く声を放った。


「ッ!!!!?」


「…………!」


「なっ……!!」


「まさか……!」


彼女に向けられていた八つの目が、一斉に俺に向く。


ふぅ…………。


今更ながらに、緊張してきてしまった。


それはそうだ、相手は主人公パーティー。

まだ一章の途中とはいえ、世界でもトップレベルの奴らばかりだ。


勇者さんに聖女さんにその他諸々、SSR以上の人しかいない。


対して俺は、日本育ちのか弱い一般社畜。


彼らと俺が対峙するなんて、有り得ない話だ。


でも、そんなことが現に有り得てしまっている。


理由はわからないけど、俺はこの世界に来てしまっているんだ。


本当に異世界転生するなんて、奇跡が何個あっても足りないくらいの奇跡が、起きてしまってるんだ。


だからさ、君が救われるくらいの奇跡は、起こってもいいんじゃないかな。


そして俺は、その手助けをできたら幸せだ。


ゲームでは笑えなかった君が、笑っている姿を見れれば、もうそれ以上は望まないさ。




さぁてと、そんなら、ちょっくら始めますか。




人生賭けた、ってやつを!!!!!!




その手始めに……



「てめぇ、その汚い手で触れんじゃねぇよ。死ね。」



悪いが、主人公くんたちにはご退場頂こう。

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