ソシャゲの世界に転生したので、断罪予定の推しキャラ『銀髪無口クール聖女』をひたすらに愛すことにする 〜カム トゥー ライト〜

俺氏の友氏は蘇我氏のたかしのお菓子好き

第1話 プロローグー光の差す方へー




――――どんなに手を伸ばしても、届かないものがある






俺は今日、その事実を身を以て痛感した。


手にしたスマホを破壊せんとばかりに握りしめながら、天を仰ぐ。


俺の心とお財布は現在、すっからかん状態。

削り続けられた精神はもはや芯すら残らず、灰と化してる。

 

「クソ……クソぉ……なんで出ないんだよぉ、ナサちゃんッッ!!!!!」


もう回すことは出来ないのに、彼女と出会うことは叶わなかったというのに。

それでも未練を断ち切ることが出来ずに、こうして画面に映る彼女の名前を口にしてしまう。


半年前に登場し、またたく間にソシャゲ界を席巻した神ゲー『スターレイニング』。


三度目となる大規模イベントの主役……の横の横の横。トップページの端っこに映し出されている彼女こそが、俺が本日クレカが止まるまで課金し、ガチャを回して手に入れようとしたキャラ。


『【期間限定】冷徹の聖女 ナサ』


画面をタップしても、石が足りないと赤文字の警告が出るだけ。


俺は虚しい気持ちそのままに、画面を下にスクロールしてコメント欄を見ていく。


『無料10連で変態魔術師引いちゃったよ俺!』

『は? 殺す』

『【悲報】二枚目のクレカ止まっても、妹ちゃん来ず』

『俺、今週もやししか食えねぇよ……』

『安心しろ。親のクレカまで止めた俺がいる』

『お前ら運なさすぎwwww⇐天井を2回すり抜けた男』

『マジ運営クソ』

『いや、他のゲームに比べりゃまだマシ。なんだかんだ50回は無料で引けるだろ。』

『毎日ログインすれば最大200連で一回目の天井にたどり着くだろ。SSRキャラならそこでゲットできるぞ。』

『なお、GODなんてものが存在する模様。』

『運営好きだけど、マジでそこだけは殺したいほど憎んでる』

『【C⇨B⇨A⇨S⇨SR⇨SSR】まだ分かる。【SSR⇨GOD】は?』

『他ゲーで言うURじゃないん?』

『出現率が桁違いや。なんや、1億分の1って。舐めとんのか。』

『しかも通常の天井換算で7回目でやっと本物の天井という』

『今まで出てるのはメインヒロイン、妹ちゃん、変態魔術師の3人か?』

『多分そう』

『お前らww冷徹の聖女さん忘れてやんなよwwww』

『おまwwwあれはネタ枠だろww告知ではSSRだったのに、あんな奴いらねぇって非難殺到して急遽GODに昇格というww』

『しかも、GODの中でも別枠で、URGODっていうww』

『出現率は驚異の……1兆分の1wwwwww』

『しかも天井なしww』

『クソすぎwww』

『まぁ、性能はAランク以下、顔も見えねぇ声もわかんねえ胸も小せぇ、悪役断罪キャラなんて誰も欲しがんないだろww』


俺はそこまで見て、スマホを机へ放り投げた。



そう。俺の推しキャラ、ナサちゃんは――





――世間一般で言う、嫌われキャラなのだった。



『スターレイニング』はRPG的ゲームだ。


主人公を操作し、美しい世界を探検する。

好きな職業につき、結婚もできるというその自由度がうりになっている。


ただ、メインストーリーというのは存在するわけで。


はじめにプレイヤーたちをゲームへと惹きつけ、あわよくば課金させるための大きな敵。


それがナサちゃんだった。


人々を救う聖女でありながら冷徹で、世界全てを見下している傲慢な少女。

そんな彼女を断罪し、戦って葬るのが第一章の目標。


立ち絵もあるキャラで普通なら人気が出るはずの銀髪少女だが、一章にそぐわぬその強さによってプレイヤーたちからは目の敵にされていた。


深くベールを被って顔の7割は見えず、セリフは『…………』オンリー。


そりゃあ人気が出ないのも分かる。敵キャラだし、理不尽なまでに強いくせに味方にしたらあんまり強くないし。


けど、俺は彼女に恋をした。


一目惚れだ。ガチ恋というやつだ。笑ってくれても良い。


理由は全くといってわからない。

ただ、彼女の姿に強烈に惹かれるのだ。


「はぁ、どうしよ……」


俺はもう一度スマホを手にしてアプリを開くが、することもなく手持ち無沙汰になってしまう。


ナサちゃんを手に入れるため、ガチャを引きまくった。

総額で言えば3桁万円以上かけているだろう。


しかし、待てど暮らせど彼女が現れることはなかった。


そりゃそうだろう。1兆分の1で天井なし。そんなの当たるわけない。


SSRキャラもGODキャラも、もう全キャラ完凸出来るほどに引けている。

このままやればワールドランキングに名を連ねることだって、夢じゃないくらいに揃っている。


けど……でも…………やはり、彼女を。

ナサちゃんを手に入れないまま進めるなんて出来ない。


「あと20か……」


単発ガチャは石100個で引ける。

現在の所持数は80個。


今まで1万回以上回してきたから、いまさら一回単発を引いたところで当たるわけない。


でも、このまま未練タラタラで過ごすよりは良いだろう。


最後に一度引いて、これで当たらなかったら素直に諦めよう。


俺はそう思って、残りの20個を手に入れるため、もう何度目かわからない一章のプレイを開始した。





………


……




「ふぅ……引く前に飲み物取りに行こ」


俺は『ゲームクリア!』と表示されたスマホを起き、キッチンへ水を取りに行く。


「んぐっ……ぐっ……ぷはぁ……」


ガチャを引き始めてから半日くらい経っている。


ブラックな会社で働き詰め、残業の末迎えた日曜日。

帰宅してから風呂に入り、そこからろくに睡眠も取らずにガチャを引き続けている。


正直、身体も精神も限界。


眠いし、お腹すいたし、眠いし休みたい。

ただ、最後に一回、ガチャを回すまでは終われない……!


「よしっ、いくぞっ!!!!」


俺はソファに座って一度深呼吸をすると、ガチャのボタンを押す。


「お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いします……」


普段なら飛ばす演出を飛ばさずに、画面を見ないようにスマホを掲げる。


最後だから見守るのもいいけど、やっぱりすべての演出が終わってからドキドキしながら見るのが『ガチャ』って感じがしていい。


「終わったか……じゃあ、いくぞ……!!」


この一回ですべてが決まる。


狙うはナサちゃんのみ。


銀髪無口クール美少女聖女のナサちゃんを、俺は引く。


一兆分の一だろうと、天井がなかろうと。俺は絶対に、君を手に入れるんだ。


愛の力――――なんて信じないけど、今回だけはそんな夢の力にすがらせてほしい。


「来いっ!!!!!!!!」


俺はそう叫んで顔を上げ…………




「――あ、これヤバ……」




地面に倒れ込んだ。


長年のブラックで消耗しきっていた体に、ろくに睡眠も取らず飯も食べずの半日がとどめを刺したらしい。


目の前が真っ白になって、上も下もわからなくなってしまった。


多分、俺倒れてるよな……?


手足の感覚がなく、五感すべてが機能していない。


ヤバイな


人間死ぬ前にはなんとなく分かるというが、この妙にポカポカとした感覚がそれではないことを願いたい。


俺、死ぬのか。


そう思ったときに浮かんできたのは、『まぁ、別にいいかな』そんな淡白な気持ちだった。


親も数年前に他界し、親戚もいない。

お嫁さんどころか彼女もいなく、家と会社を行き来する生活。


このまま生きていたところで、ただブラックに染まっていくだけだろう。


それならいっそ、死んでしまっても………。


もう頑張っただろう。辛いことたくさんあったし、悲しいことだってあった。


ここで死んでも誰にも迷惑かけないし、未練もないし。


もう……もう良いかな。


俺はそう思って目を閉じた。


倒れ込んだカーペットが柔らかくて暖かくて、とても心地よかった――――














「光はすべからく注ぐべき。ただ己のみを除いて。」













失われていく感覚の中で、そんな一節の詩だけが聞こえてきた。


ナサ……ちゃん……?


聞き間違えるはずがない。その詩はナサちゃんの唯一のセリフ。


いや、正確に言えばセリフではない。


彼女を討伐した報酬にもらえる『最期の詩』という本に書かれている言葉だ。


その本の持ち主はわからないが、ネットではナサちゃんのものだろうと言われていた。


『光はすべからく注ぐべき。ただ己のみを除いて。』


――違う


――――違うッ!!!!!


光はすべからく注ぐべき。


そのとおりだ。だから、だから君も、光を浴びていいんだ。


ナサちゃんについてゲーム内で描かれることは少ない。


けど、数少ないその手がかりを集めていけば行くほど、彼女が巷で言われるような『冷徹で最悪な女』には思えないのだ。


彼女は、彼女はきっと――



――みんなのことを思っている。


みんなのことを助けようとしていたんだ。

ただ、その方法を知らなかっただけ。


世界にはびこる『闇』はあまりにも大きすぎて、彼女一人ではどうしようもなかった。


普通なら仕方ないと、どうしようとないと諦めるはずだが、優しすぎる彼女はそうすることができなかった。


だから、彼女は自らを『闇』にすることで主人公たちという『光』を導いた。


かいかぶりすぎかな?

夢を見すぎているのかな?




――――いや、そんなわけない




『光はすべからく注ぐべき。ただ己のみを除いて。』




『光』が君を照らさないなら、俺が、きっと!!




そこまで考えたところで限界が訪れ、俺は意識を手放した。


最後まで、たかがゲームの世界の一人のキャラを考えていたからだろうか。


走馬灯代わりに見えたのは、俺が死んでも手に入れたかった彼女が、こちらを覗き込んでいる姿だった。


あはは、んなわけないのにな。


だってナサちゃんの絵は、立って上を見上げている姿なんだから……。


でも、やっぱりナサちゃん、可愛かったな。





こうして俺は、死んだ――


















――――はずだった











☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


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