第13話 ナサの活躍
『英雄』の活躍とほぼ同時刻、街の教会にも衝撃が走っていた。
「あ、あの……どのような御用で……?」
「…………」
シスターに尋ねられた少女は何も言わずに、指を指した。その先には、汚染された川の水によって倒れている人々がいる。
「な、ナサ様、ここには何も面白いものはございません……」
シスターが戸惑いながら言う。
ナサは街の主に就任したときから今日まで、街に降りたことは数えることしかなかった。
というか、ほとんどの住民は見たことがないというのが実情だ。
声はおろか、顔もわからない。
じゃあ、何故シスターが彼女がナサだとわかったのか。
彼女の髪色が特徴的な澄んだ銀だということが一つ。そしてもう一つ。圧倒的なオーラがあるからだ。
魔法都市の代表になるのは並大抵のことではない。いくつもの条件を満たし、時には殺し合いさえ起こる。
そしてさらに、変態しかいない魔法都市を導いていくのは更に大変だ。
彼らに認められるには、魔法で勝つしかないのだ。
ナサは彼らを黙らせられるほどの、圧倒的な魔力量と魔法センスを持っている。それは、魔を極めんとするものならば近くに寄れば一瞬でわかるほど。
「…………」
ナサは相変わらずの無言のまま、どこからか透明な瓶を取り出した。
「な、ナサ様……これは……?」
渡された瓶を大切そうに持ちながらシスターが尋ねる。
「…………」
ナサはもう一本瓶を取り出して、それをすぐ近くにいる、苦しげな表情で横たわっている少女にかけた。
「うぅ……」
少女は冷たい感触に、小さな唸り声を上げる。
すると、みるみるうちに少女の汚染された傷口がふさがり、表情がやわらいでいくではないか。
「せ、聖水!!! 使ってもいいのですか!?」
その瓶の中身がわかったシスターは驚きの表情とともにそう尋ねる。
ナサはコクリと頷いて肯定し、近くの棚にどこからか取り出した瓶を並べ始めた。
「こ、こんなに……!! ありがとうございます!! これでみんなを救えます!」
シスターは泣きそうな表情になりながら、ナサに感謝の言葉を述べる。
ソレを受けても少女は相変わらず無表情無口のままだったったが、ほんの少しその頬が動いたような気もしなくもない。
とにかく。こうして、街の混乱はどんどん収まっていったのだった。
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