第9話 勇者たちとスライム

「ハァッ!!!」


勇者が雄叫びとともにスライムへと突っ込んでいく。


走る彼はスライムと触れそうになるその瞬間に、剣を振る。振られた剣は、まるで伸びたかのように彼の正面180度の敵を一閃した。


「ッ!! 援護!!!」


しかし、スライムはまだまだいる。

数の力は圧倒的だ。


しかも、技を受けたスライムの約半分はまだ完全に死んではいない。


スライムは攻撃が核に当たらないと死なないのだ。故に、魔法で一掃することも剣で一閃することも困難。


つまり、数を相手にするには圧倒的に向かない相手。


「いくよっ!!!」


「カーストプリズン!!!!」


「光矢!!!」


パーティメンバーもそれぞれ、思い思いの攻撃を放つ。その威力は絶大で、並のモンスターなら簡単に消滅するはずなのだが……


「「「!!!!!!」」」


スライムは強く、そして何より多かった。


今まで倒せたのはせいぜい10匹。残り1000匹以上。


明らかに無謀な戦いだ。


「クソぉっ!!」


勇者は八つ当たりするように剣を振るう。

当たったスライムはふっとばされるが……その先で何もなかったかのように、再びぷよぷよと起き上がる。


その愛くるしいフォルムが、この状況だとまるで悪魔のように見えてくるのだから不思議なものだ。


「どうすれば……」


絶望の表情を浮かべる勇者パーティーとは裏腹に、スライムたちはぷよぷよと体を揺らす。


そしてあるとき、まるで示し合わせたかのように同時に、動き始めた。


「ッ!!?」


向かうのは勇者の方……つまり、山の下。街の方だった。


「あっちはマズイ……!! 追うぞ!!!!」


勇者がスライムたちを見て焦りながら叫ぶ。


「ちょ、ちょっま……」


その姿を見たワルボンは、更に汗をかけながらなにか言おうとするが……


「あなたも行きますよね?」


そんな勇者の言葉で遮られた。


「そ、そりゃもちろん」


彼はどこからかハンカチを取り出して、額の汗を拭きながらしらじらしく答える。


「行くぞ!!」


「はいっ!!」


「もちろんよ!!」


「あなたとならどこまでも!」


「チッ」


それぞれ思い思いの返事をして、彼らはスライム達を追いかけ始めた。





闇はもうすでに、近くまで来ているのだ。

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