第14話 デュストレイン

「なんかさっきより、大きくなってない?」

「お前が怒らせたからだろ」

「どう考えてもあんたの態度がライリーを怒らせたんでしょ!」


ヴァンは、この期に及んで、アレをライリーと呼ぶ目の前の女に少し驚いた。

どう見ても怪物の姿をしているアレは、もうリリーの知っている男ではない。


「よく見ろ、アレはお前の知ってる男か?」


リリーは角兎つのうさぎを見た。

荒く肩で息をしている。その顔は憎しみでゆがんでいるようだった。


アレにライリーの意識は残っているのだろうか?


胸にあてた手をギュッと握るリリー。

殺されそうなときに変な質問をしたとヴァンは少し後悔した。


「まぁいい、お前の言う通りにやってやるよ。


ゆっくりを歩き出す。

角兎も体制を整え、ヴァンと対峙する。

最初に口を開いたのはヴァンだった。


「ライリー・・・だったけ?何があったかは分からねぇけど、それは人間やめるほど辛い事か?」


角兎は、地面に転がる“へこんだ鎧”を目の端でとらえる。


憎悪、憎悪、憎悪・・・憎悪がライリーの感情を支配する。


血がき立ち、喉の奥が熱くなる。


「ブォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」


その熱さを、怒りを発散するように叫び声を上げる。

彼の気迫きはくが、向かい風のようにヴァンに当たった。


「でくの坊!!?」


気が付くと、リリーは、叫んでいた。


しかしヴァンは、平然とその場に立っていた。

微動だにせず、気迫に負けず、角兎をにらんでいる。


――「デュストレイン」


ヴァンが呪文を口ずさむと、指輪から光の糸が湧き出てきた。


様々な色の糸がヴァンの体に巻き付き、何かを形成していく。

あまりの眩しさに角兎は目をせた。


「綺麗・・・」


思わずリリーがつぶやく。

神話の中に出てくるような光景に心を奪われていると、ヴァンが叫ぶ。


「え?なんだこれ!うわ!おい!てめぇ!これ呪いの指輪だろ!」


リリーは何も聞かなかったことにして、光の乱舞らんぶを見つめることにした。

ひときわ光が強くなった時、ヴァンの体は黒い鎧に包まれていた。


胴体の中心に赤い光を宿やどし、全身に光の線が流動りょうどうしていた。

兜には、牙のような装飾がされており、獣のような目元から赤い光がれている。

「うわ!なんだこれ!」


そして、ヴァンはあわてている。


角兎は、人間が指輪の力を使えたことに驚愕きょうがくした。


それは同時に、彼の目的が指輪の奪取だっしゅから、

敵の殲滅せんめつに変わった瞬間でもあった。


角兎の指からするどく長い爪が生えてくる。


その爪を何の躊躇ちゅうちょもなく振り下ろす。


金属がぶつかる音が響く――


ヴァンは、腕を交差し爪を受け止めていた。

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