第8話 赤いフード

ひとりになったおかげで、フードを脱ぐことができた。

つかの解放感に、思わずフゥと息が漏れる。


もしかしたらライリーには自分がエルフであることを告げてもいいかもしれない。

彼ならば、変な目で自分を見ないかもしれない。

そう思ったところで、ふとケイレブあのバカの顔が浮かんだ。


あいつはダメだ。たぶん大騒ぎする。


そんなことを考えていると、2頭の馬がざわつき始めた。


「え?急にどうしたの!?」


リリーは馬の元に駆け寄り、身体を撫でる。

と、そこで気が付いた。


――馬の目線の先にゆっくりと歩く人影ひとかげに・・・。


急いで弓を手に取り、矢を引いた。しかし先ほどの場所に人影はもう見えない。

しまった!後ろか!と振り向いたが、遅かった。

そこにいたのは、長身の男だった。

そして男の持つ短剣たんけんはリリーの首元で光っている。


「おとなしくしろ」

「くっ・・・」


焚火たきびに背を向けているせいで、男の顔は影で隠れていた。

だが、その目は光っているように見える。


表情が見えない分、こいつが何を考えているのかわからない。

いきなり殺されなかっただけでもマシだが、命の保証はない。


リリーは、動揺を悟られないように男を睨んだ。


「赤いフードの女・・・返せ」

「はぁ?何を?」

「だから俺から盗んだ財布を返せ!」

「・・・は?」


意味が解らなかった。財布を盗んだ覚えなどリリーにはなかったからだ。


「あんた、人違いしてない?」

「その赤いフード、一度見たら忘れるはずないだろ」


バカがいた。

今、目の前で自分の命を握っている男は、紛れもないバカだ。


「赤いフード付きのローブ着てる女なんて、あたし以外にもたくさんいるだろうが!」

「はぁ?じゃあ俺の財布は誰が盗ったんだよ!」

「あたしが知るわけないだろ!が盗ったんでしょ!」


長身の男は、それでもなお、短剣を下げなかった。

もっとも、リリーが言い逃れをしようとしているとかんぐっているのかもしれない。


「そもそも、その赤いフードの女の顔とか見てないわけ?」

「見た」

「それ、あたしだった?」


男は、じっとリリーの顔を見た。リリーも負けずと男の顔を見た。

命をけた奇妙な“にらめっこ”が始まったのだ。


「青い目、金の髪、細い眉毛・・・」と男はリリーの特徴を言い出す。

「赤い目、茶色の髪、太い眉毛・・・」なぜかリリーは男の特徴を口走る。

「俺が見たのは、茶色い目で黒い髪で・・・」

「おいこら、初端しょっぱなから特徴が一致してないぞ」


男はムッとしながらも、短剣を下げない。

振り上げたこぶしを下ろせないという状況なのだろう。


「あたしじゃないってわかったんだから、そのけん下げなさいよ。」

「これ下げたら、手に持ってる矢で刺そうと思ってるだろ。」


驚いたことに、ようだ。

リリーは、バカをあなどっていたと歯を食いしばった。


「ここで、こうしていても、あんたの財布は帰ってこないわよ?」


ぐぬぬと聞こえてきそうなほど、男からくやしそうなオーラが出ている。


リリーには策があった。


とにかくこの状況が如何いかに馬鹿げているかを分からせ短剣を下ろさせる。

もしダメな場合でもこのまま会話を引き延ばせばケイレブとライリーが戻ってくる。


どちらに転んでも、この男を殺すことはできる。


リリーは、ひそかに勝利を確信していた。

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