第7話 あんなやつ

ケイレブが急に「小便しょうべん!」という言葉を残して茂みの方へ消えていく。


夜番やばんにでも付こうかと、リリーが立ち上がった時、ライリーが話しかけてきた。


「リーセさん、あの広場で声を掛けてきた男は知り合い?」


一瞬誰のことだかわからず、考え込んでいるとライリーが言葉をつづけた。


「あの人、キミのことを探してたみたいだけど、何か心当たりある?」



あの気だるそうな声を思い出した。


いままで特に気にしていなかったが、確かにあの男は自分のことを探していた。

心当たりと言えば・・・。


リリーは、隠すように首から下げている小さな皮袋かわぶくろを服の上から握る。

もし、あの手紙にあったようにこれを狙っている者がいるならば、いつまでのこの辺をウロウロとしてはいられない。

そのリリーの姿を見て、彼は何かをさっした。


「大丈夫だよ。もしあの男がまた来ても、今は僕がいるし、その安心して」

「随分と頼りになる護衛ごえいね」


彼なりの気遣きづかいのつもりなのか、なんだか少し頼りない言葉がリリーには可笑おかしく思えた。

ライリーも恥ずかしそうに笑い出した。


「僕とケイレブは幼馴染おさななじみでね、昔から僕を色んな所に連れて行ってくれてたんだ。」


焚火たきびを囲みながら、ライリーが身の上話を始める。

正直、ケイレブあのバカのことはどうでもよかったが、

ライリーの幼少期ようしょうきには興味があった。


「僕さ、小さい頃、身体があまり丈夫じゃなくて、事あるごとに熱を出して寝込んでたんだ。そんなんだから友達と遊べなくていつもひとりぼっちだった。」


ボーっと焚火たきびを見つめながら、懐かしそうに語っている。

自分の幼少期ようしょうきとは真逆だとリリーは思った。


「ケイレブは、ひとりで遊ぶ僕を見て『辛気臭しんきくさい!俺の家来けらいにしてやるから来い』って言ったんだよ。」


「バカっぽい子供ね。」


「そのまま身体だけ成長しちゃったんだよね。」


妙に納得した。確かにあの変な自信の持ち方や、行動原理は幼い子供の様だった。


でも今は感謝してる。彼のおかげで知らなかった世界を見ることができた」


ライリーはどこか満足そうに微笑んだ。目に映る炎が揺れていた。

彼のことを信頼しているのだろう。


「あなたも聖堂せいどう騎士団きしだんに入りたいの?」


その問いに対してライリーは、何かを決心したような顔で小さく頷いた。


「この仕事を終えても入団できるわけではないけど、夢に近づくのは確かなんだ。」


確かに、聖堂騎士になれるのは一握りの人間だけかもしれない。

魔獣まじゅうりに、それほどの価値があるかはわからないがライリーのことだ、何か自分を売り込む策があるのだろう。

リリーは、そう思えるほど彼に信頼感が芽生めばえていた。


「それにしても、遅いなぁ。」

とライリーはため息をついた。

「そういえば、まだ帰って来てないわね」


ライリーは立ち上がると、松明に火をつける。


「ちょっとその辺を見てくるよ。」


「あたしが見てこようか?」


「ううん。リリーさんはここにいて」


「あ、うん。」


そういうと、ライリーはケイレブが向かった方角へ歩いて行った。


リリーは、しばらく遠くに消えていく彼の背中と松明の明かりを見ていた。

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