第5話 ケイレブとライリー

ガツガツという音が聞こえてきそうな勢いで、リリーは肉を食らっていた。


器用にもフードを深く被ったまま、次々と肉を平らげていく。

若者2人は、その光景をエール片手にただ見つめていた。

いや、言い換えよう、で見ていた。


「そんなお腹減ってたの?」

「誰かさんたちのせいで、昨日は野宿だったもんで!」


リリーは、嫌味を言いつつもワインをがぶ飲みする。

ぷはぁ!と勢いの良くワインを飲み干すと、口元をきながら話をつづけた。


「不本意だけどさっきは助かったわ。礼は言っておく。」

「じゃあ魔獣まじゅうりに同行どうこうしてくれないかな?報酬は出すからさ。」


借りは返さねばならない。それはリリーの信条しんじょうの一つだった。仕方ないかと心の中でボヤキながらも承諾しょうだくすることにした。


「俺の名前はケイレブ、こっちのがライリー。どっちもフーカ村出身だ。」


ケイレブが握手を求めてきた。リリーは差し出された手を一瞥いちべつし、2人の外見に目をやった。


ケイレブは、赤毛の短髪で耳にはピアスをしている。

ライリーの方は茶髪で顔はそばかすだらけだった。


よろいは、少し汚れた程度で、腰にこれ見よがしに刀剣とうけんたずさえている。


改めて2人を見たが、どう見繕みつくろっても狩りや戦闘の経験があるとは思えない。こんな初心者丸出しの2人にビビっていた商人や宿屋の主人は肝っ玉が小さいとすら思っていた。


それどころか、そんな肝っ玉が小さい男に自分は舐められていたのかと怒りすら覚え始めていた。


「あたしは、リーセ=ヴァンレイ」


――リリーは、


「あ、フードのことは聞かないで」

けん制も忘れずに。


「いやでも、ちらっと見たけどすごい美人じゃん?フード被ったままなんてもったいないよ?」とケイレブが続ける。

横に座っているライリーも激しくうなづいていた。


リリーにとっては、美人うんぬんはどうでもよかった。

興味のない相手から安い褒められ方をされても気持ちのいいものではない。


「どうでもいい。さっさと依頼内容教えてくれない?」


若者2人は互いに見合わせ、肩をすくめる。

リリーは、その反応がいちいち腹立つんだと思いながらこぶしを握りしめた。


「クスコの領主からの依頼でね、この街の先にある洞窟を住処すみかにしているアルミラージを狩りに行くんだ。」


やっぱりうさぎに毛が生えた魔獣まじゅうであった。正確には角が一本生えた兎だが・・・


ライリーの話によれば、その近くにある牧場が獣害じゅうがいにあっているらしい。

フーカからここクスコまでは馬で1日かかる距離だ。なぜ領主はわざわざフーカの半人前剣士に依頼を出したのだろうと不思議に思っていた。

ライリーが、釈然しゃくぜんとしていないリリーに気付き、口を開く。


「この辺りは剣士とか狩人かりゅうどがあまりいなくて、こういった依頼はいつもフーカに回ってくるんだ。」

「そうそう、ほら魔獣なんてめったに出ない地域だしね」とケイレブも続ける。


そんな地域に魔獣が出たら、もっと騒ぎになるのではないだろうか?

それにアルミラージごときに剣士2人と斥候せっこうが必要だろうか?

疑問はたくさんあったが、リリーにとってこの依頼を素早くこなすことの方が重要であった。


「それで報酬なんだけど、金貨3枚を山分けでどうかな?」

「よし、今すぐ角兎つのうさぎをぶっ殺しに行こう」


報酬を聞いて、すべての疑問は吹き飛んだ。


兎退治に金貨1枚は破格はかくだ。これで余計な回り道をせずに済むとほくそ笑んだ。


リリーは金額の大きさに有頂天うちょうてんになっていた。


だからこそ、いつもは敏感びんかんに感じる視線や気配に気付けなかったのだろう。

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