第4話 朝、無駄に助けられ

「はい。ご苦労さん。」


朝一番で依頼人の商人に薬草を渡した。

しかし商人が出した金額は依頼書にあった銅貨10枚よりも低い、銅貨8枚だった。


「依頼書には銅貨10枚って書いてあったけど?」

とリリーは笑顔で商人にうったえた。


もっとも、笑顔だと思っているのは彼女だけであり、商人からはフードでよく顔は見えていない。

怒気どきびている声だということはかろうじてわかっていた。


「あのね、薬草は鮮度せんどが命なの。これ昨日採取したんじゃない?依頼書にもちゃんと書いてあるよ。」

と投げやりな答えが返ってきた。


リリーはその場で依頼書を見直す。

すみの方に小さく“採取から1時間以内に配送希望”と書いてあった。


薬草の鮮度せんどなど聞いたことはない。

おそらくこれはただのいちゃもんだ。


「でも・・・」と言いかけ、言葉を飲んだ。

騒いだところで良いことはないし、悪目立わるめだちだけはけたかった。

そう思い諦めかけたその時、背後から声がした。


「薬草の鮮度なんて聞いたことないですよ?」


昨日の若者2人組だった。

勘弁してくれと、ため息をつくリリーをよそに、若者たちは話を続ける。


「最近多いんだよねぇ、嘘ついて値切ろうとする人。」


「うちの商人には鮮度が大事なんですよ。言い掛かりは・・・」


商人は、明らかに動揺していた。

赤毛の若者はその様子をみて、リリーに目配めくばせする。


当のリリーはというと、こういう時のよろい威圧感いあつかん大事だいじだなと考えていた。


最初に商人をとがめた茶髪の男を差し置いて、赤毛が商人の前に立つ。


「じゃあ、その鮮度の話、あそこの駐屯兵ちゅうとんへいさんにも聞いてもらおうか?」


駐屯兵ちゅうとんへいという言葉を出した途端とたんに、商人は愛想笑いを浮かべ


「誤解させてしまったようで」と言い出した。


赤毛が「それだけ?」と威圧を掛けると

「迷惑かけたね」とか何とか言って銀貨1枚をリリーに手渡した。


当のリリーは、周りからのヒソヒソ声を聞きながら


“今日の夕飯は、肉を食べよう”と心にちかっていた。

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