第13話 怒りの矛先
受け身を取りながら地面に転がるヴァンに向かってリリーが走り寄る。
「でくの坊!やるじゃんアンタ!」
「名前教えたんだから素直に呼べ!」
――
短剣を引き抜き、地面に片膝をついた角兎が目に入った。
「あれ、めっちゃ怒ってるよね?」
「ああ、すげぇキレてる」
荒い鼻息を立て、紫のよだれを垂らし、赤い目を血走らせ、地面を殴る角兎。
かなりご乱心の様子だった。
「なにしてんだ」
「自分の不甲斐なさに怒ってるんじゃない?」
「そうじゃなくて、お前、弓はどうした」
「・・・さっきの場所に置いて来ちゃった」
ヴァンは、マジかよこの女と言いたげに口をピクピクさせている。
そんな中、角兎の背中の傷はどんどんと塞がっていく。
どうやら魔族の治癒能力は桁外れのようだ。
「くそ・・・おい女、お前は先に逃げろ」
「はぁ?あんたはどうすんのよ!」
角兎はまだ地面に膝をついている。怒りで身震いしてるようだ。。
「俺は、あいつをどうにかする」
ヴァンの装備を見た、腰回りに投げナイフのようなものはあるが、魔族と戦えるような武器には見えない。
「どうにかって!武器もないのにどうするつもり!?」
「どうにかっていったら、どうにかだよ!」
こんな奴でも見殺しにはできない。
魔族の攻撃から自分を守ってくれた借りもある。
正直、こんな
リリーは決心した。
自分の指から指輪を外し、それをヴァンの指につける。
「え?なにそれ怖っ!こんな時に指輪交換って怖っ!?」
何を勘違いしているこの男は・・・と怒りに震えながらもリリーはヴァンに呪文を伝えた。
「“我に力を デュストレイン”、この呪文を唱えて」
彼女は賭けに出たのだ。
その決心を前にヴァンは・・・
「嫌だ。そんな恥ずかしい事言ってたまるか」と言った。
今、この朝方の平原には角兎の荒い息遣いだけが響いている。
リリーは笑顔のままヴァンを見つめる。
――マジ、こいつ殺してやろうか
真剣にヴァンを葬る方法を考えたが、それはあの魔族をぶち殺した後だと・・・
最大級の怒りを胸にしまった。
「ブォォォォォォォ!!!!」
角兎の雄叫びが平原に響き渡る。
ビリビリと振動が体に響く。もう時間がないことは明白だった。
「あんたの小さいプライドなんてどうでもいいから!早く呪文を言いなさいよ!」
「言いにくいんだよ!デュスなんちゃらってなんだよ!」
死の脅威を目の当たりにしても、2人は罵りあう。
角兎は自分が今、完全に無視されていることに気が付いた。
「ブォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」
怒りは最高潮に達していた。
角兎の身体が倍の大きさになり、下半身が、
そして、力を貯めるようにその場に
生き物の飛べる高さではなかった。
遥か上空から、獲物を捕らえ急速に下降してくる。
「この指輪はね!」
「あぶない!!」
ヴァンが角兎の姿に気が付き、怒り狂うリリーを抱きしめ前の方へ飛び出した。
2人がいた場所に轟音が響くと、まるで投石でも受けたように地面が
燃えるような赤い目が光る。
もう彼に
2人まとめって踏みつぶす気マンマンである。
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