第10話 黒い粉

辺りは、明るくなりつつあった。


もう一歩で森に入るというところで、男が何かを見つける。


「おい、アレって」


そこには、よろいが転がっていた。まるでさっきまで人が着ていたかのように倒れた形を維持いじしている。

脱ぎ捨てたとしたらこうはならない、脱いだ後に並べたのだろう。


「ケイレブの鎧だわ」

「誰だ?それ?」

「あんたが街でケンカした赤毛の短髪」

「ああ、あいつか」


リリーは、鎧の周りを観察する。

明るくなってきたとはいえ、まだ薄暗いので目をらした。


鎧の周りには、の様なものが付いていた。

リリーはその粉を指でつまみ、こすってみた。

何の変哲へんてつもないただの粉である。


「何これ・・・」

「さぁ?」


リリーはハッとした。


今自分は、鎧の方にひざまずき、黒い粉をいじっている。あの男に背を向けているのだ。


自らのあやまちを消すかのように素早く振り向いたが、

男は腕を組みながら難しい顔をしている。


気にしすぎた自分がバカみたいに思えてきた。

ハァーっとため息をつくと、リリーは立ち上がった。


「あのバカ、どこ行ったのかしら」

「さぁ」


ふとリリーの脳裏のうりにライリーの言葉がよぎる。


“「アルミラージは薄暮性はくぼせいなんだ。朝と夕方が最も活動している時間だからそこは避けたほうがいい。」”


“「夜も活動していることが多いし」”


もしかすると、ケイレブは・・・。


「アルミラージの仕業?」

「いや、それはない」

リリーの心配は、間髪かんぱつれない男のツッコミで否定された。


「なんでわかるのよ」

少しムッとした。間髪入れず否定しなくてもいいだろうがよと思ったからだ。


「アルミラージは、自分より強そうなやつは襲わない。もし襲われたとしても角で小突こづかれる程度だ。」


「え?その程度?でも魔獣なんでしょ?」


「角の生えたうさぎに何、期待してんだ?」


男の言うことはもっともだった。


ライリーが警戒していた様子から、もしかしたら自分が知らないタイプの魔獣かもしれないと思っていたが、やはりそんな脅威になるようなものではない。


じゃあ、なぜライリーはあそこまで警戒していたのだろうか?

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