第2話 リリー=ラント

リリーこと、リリー=ラントは、今は珍しいエルフの娘だ。


エルフは、500年前の“三面鏡さんめんきょう戦争せんそう”の首謀者とされた種族だ。

全盛期に比べその数は減ってはいるが、辺境へんきょうの森に移り住み細々と生きながらえていた。歴史的戦犯ということもあり人類の大半は、彼らのことをよく思ってはいない。


人間の家庭では“早く寝ないとエルフがさらいに来る”とまで言われている始末だ。

そういった偏見へんけんは、王都おうとに近づくほど濃くなっている。

このクスコの街は、王都よりも辺境へんきょうの森の方が近いのだが、エルフを嫌う風潮は王都おうとの様に色濃かった。


草木がしげる林の中で、リリーは薬草を探しながら“ベヒン村は居心地が良かった”と故郷を思い出していた。


思い返せばベヒン村は、王都おうとから遠く、兵も駐留ちゅうりゅうしていないような田舎の村だった。

そのおかげか、村人たちは辺境へんきょうの森に住むエルフとも助け合っていた。


“これは薬草に似てるけど、葉に紫の筋が入ってから毒草だよ。気をつけてね”

とヤーヘルの言葉を思い出した。お節介せっかいなやつだと思っていたが、今はあのアホづらこいしく思えるほどだ。


薬草を取り終えたころ、辺りはすっかり暗くなっていた。

報酬は、明日朝一で受け取りに行けばいいと思い、今日は宿屋やどやに帰ることにした。


「泊められないってどういうことよ!」


ドンという音と共に宿屋のカウンターが揺れた。

その先に、しかめつらの宿屋の主人が立っていた。


厄介事やっかいごとには関わりたくないんでね」

「いつ、あたしが厄介事やっかいごとを持ち込んだのよ!」と抗議を続ける。

「今日アンタを探してるって男が3人来たんだ。若造2人と不愛想ぶあいそうな男が別の時間にな。」


どう考えてもあの男たちだった・・・。


「あんた追われてるんだろ?」

「いや、あれは酒場で声を掛けられただけで」

宿屋の主人が視線をらし、銀貨を1枚差し出してきた。


「前金から迷惑料を引いておいた。悪いがここから出ていってくれ。」


主人は、奥の部屋を気にしている。その部屋にはリリーをにらむ女性と幼い男の子がいた。おそらくこの男の家族だろう。

宿屋の主人は、ため息をつきつつ首を横に振る。

取り付く島もないとは、正にこのことだろう。

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