第28話 嫌な予感ほど当たるもの

「《水流刃ウォーターカッター》!」


杖の先から圧縮された水が噴出され、目の前のゴブリン達の命を刈り取っていく。さっきよりもゴブリンの数は減っているけれど、新たにホブゴブリンも襲ってくるようになった。


前列にいる会長と青海さんの奮闘のおかげで今のところ順調に進めているが、ホブゴブリンの襲撃によって少し遅れるのではないだろうか。それまで私も踏ん張らなければ。


それにしてもあの男達は本当に役に立たない。こちらが魔法使いだというのに射線を考えずに無闇に飛び出してばかり。それを周りの、主に天院先輩が褒めそやすからタチが悪い。あまり前線に出ないでと言っても大丈夫大丈夫とか言って全然退こうとしないし.....他の明神先輩とかはしっかりと戦っているというのに。


そのせいで《水弾》にも精密なコントロールが求められる。魔力消費を抑えるためにもそろそろ接近戦に移行するべきかも......。


ピロン!


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レベルが上がりました!


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!  これでレベルが10に上がった。ということは職業選択が可能なはず!私は安全な場所まで下がり、ステータス場面を開く。そしてもとから有ればとろうと思っていた職業を取得する。


身体中に魔力がみなぎるのを感じる。更に魔力に対する理解が深まったようだった。


「《水弾群》!」


数十発の水弾が周囲に展開され、私の周りを飛び回る。職業選択前よりも弾数が増え、勢いも増している水弾は全てホブゴブリンの心臓部に吸い込まれていく。魔力が増えたことによって、魔法のコントロールが容易になった。


これで意識していれば他の人に当たる心配はしなくても良くなったけれど、まだまだ敵の数は多い。天堂先輩や天院先輩もこれだけ戦っているのだからレベル10になっていてもおかしくないはず.......と戦いながらも思考を巡らせていると、天堂先輩が受け持っている方向の後ろにいた男子生徒がゴブリンに襲われかけているのが目に入った。


「ひいっ!」


丁度、水弾を展開していたことが功を奏し、その内の幾つかを最大速度で弾き出してホブゴブリンの頭を撃ち抜くことができた。


「グアァ.....」


ドサリとホブゴブリンの身体が倒れて消滅していく。


「大丈夫ですか!?お怪我は....」


「だ、大丈夫です。あ、ありがとうございました」


見たところ外傷は負っていないようだった。それに安心し、彼を安全な場所に移動させると私はゴブリンを倒している天堂先輩に歩み寄る。


「あれ?凍堂さん、どうしたんだい?」


あんなことをしでかしたのに気付いてないっていうの?


「どうしたのですって?貴方がキチンとここを守らないから生徒が死にそうになったんですよ!あれほど一人で突っ込むのはやめてくださいと言いましたよね!?」


こんな事を進んで言いたいわけではないが、人の命が掛かっているのだ。生半可な反省で済まされることではない。


「え!?そ、そんな馬鹿な......」


「本当のことです!次からはちゃんと全員で協力してあちらを守ってください!」


そう言うと、天堂先輩は拗ねたように「わかった」とだけ返事をして天院先輩の方へ歩いて行った。


なんですか!?あの態度は!自分は悪くないみたいな反応をするなんて信じられない。本当に先輩なんですか?あの人。


私も前方の守護が良かった....なんてどうにもならないことを考えていると、天堂先輩がこちらをチラチラと見ながら天院先輩と神崎先輩に何かを話しているのが見える。

どうせ禄でもないことでしょう。


この作戦が終わればあの人達ともおさらば。それまでの辛抱だ。


気持ちを切り替えて周囲の状況把握に努めると、どう見てもゴブリンやホブゴブリンの数が減っている。仲間が何体も倒されたのを見て尻込みしているのでしょう。


一旦少し休憩できそうだ。確実にモンスターの数は減っている。でも何か、何か嫌な予感が止まらない。私達がどうこうではなく、先輩が危ないような....いえ、私は私の仕事を全うしなければ。先輩ならきっと大丈夫、そう信じて私はただ待つだけだ。





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.........身体が動かない。

目も霞んでいて視界がぼやけている。普通に暮らしていれば経験しないであろう痛みが全身を襲ってくる。既に俺の身体は人間としての限界を超えていた。そこにあの一撃だ、行動不能にならないわけがない。


変わらずゴブリンキングはこちらを見て笑っている。違う所と言えば身体が赤に変色していることくらいだ。


.......もういいかな。伊織達は逃げ切れただろうか。俺の時間稼ぎは少しでも役に立つだろうか。それだけが気がかりだ。俺は役目を果たした。あとは伊織と凍堂達に任せてここで死んでも大丈夫なはず。逃げるような体力も、それを振り絞るような気力ももう残っていない。あるのは役に立たない無限の魔力のみだ。もう.....諦めてもいいんじゃないか?

そんな考えが頭の中を埋め尽くす。その時、一瞬明瞭になった視界にゴブリンキングの笑みが写り込んだ。


「....いいよなぁお前は。元から力を持って、捕食者として生まれて。何もせず、何も考えず力を奮えばそれで全てが解決する」


身体は以前として動かない。だが勝手に口が動いていた。それだけではない、先程まで諦観が埋め尽くしていた思考も今ではそれすら凌駕する圧倒的な怒りが渦巻いている。


生物としての格差に、理不尽なこの現状に、俺はどうしようもなく腹が立つ。


こんなところで死んでいいのか?


役目を果たした?俺には果たさなければならない目的があるんじゃないのか?


そのために俺はどうすればいい?こんなところで——


死んでいる場合か?



ピロン!


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条件を満たしました!スキル【****】が発動します!


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目の前の敵から全てを奪ってやりたい、そんな感情が俺の身体を支配していた。






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