第6話 馬鹿げたこと
「おい!無事か!?」
今にも狼に食われそうになっていた女子に呼びかける。
俺は悲鳴が聞こえた方にやって来ていた。生き残る上で間違った行動だとわかっている。誰かのために、なんてのは馬鹿げたことだってのもわかっている。それでも動かずにはいられなかった。助けられる人を助けないのは何か違う。俺の信念に反する、と言い換えてもいいかもしれない。
自然と身体が動いていた、なんてかっこつけるつもりもない。迷ったんだ、悩んだ末に俺は助けに行くことを決断した。
悲鳴が聞こえたのは三階の奥にある家庭科室。そこまで全力で走った。途中でシステム音が聞こえて新しく【疾駆】というスキルを獲得したと知らされた。どんな効果があるのかはまだ見ていないからわからないが、役に立つことを祈る。
家庭科室の中や外には一年生であっただろう肉塊が転がっている。俺が迷っていなければ助けられたのだろうか。その事実に胸が痛くなるも——
「う、後ろっ!」
背後から狼達が襲いかかってくる。身体を回転させて狼を斬る。普通の狼と変わらないようで、簡単に斬ることができた。どうやら感傷にも浸らせてくれないらしい。
俺に警告できたってことは気を失っているということもないみたいだな。ならさっさと逃げてしまいたいがモンスター達がそれを許さない。
ただでさえ大声でゴブリンが集まっているというのに血の匂いにつられて狼まで増えている。流石に厳しいぞ.....?
「君、走れるか?」
狼を捌きながら話しかける。にしても鬱陶しい!
「す、すみません!足を挫いてしまってっ」
「謝ることじゃない。なら下がってろ!」
脱出は無理、抱えて走るのも多分捕まる。ならコイツらを倒すしかないってわけだ。
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飛びかかってくる奴を姿勢を低くして回避し、前方にいる狼を斬る。振り向きざまに短剣を振るって残りの奴らも両断。途中からゴブリンも参戦してくる。棍棒は頭を狙って来るの以外は避ける必要がない。レベルアップした俺の身体なら耐えられる。
無我夢中に斬って避けてを繰り返す。後ろの子を狙わせないように立ち回るのが難しい!咄嗟に左手を伸ばして庇ったが、代わりに俺が噛まれてしまった。
「クソが.....!」
短剣だけではなく足で蹴るなどして対処しているが、キリがない。先にこちらの体力が尽きるだろう。所々切り傷ができてきた。もう身体が上手く動いていない証拠だ。
それでも剣を振るしか解決する方法はない。ここで諦めれば後ろにいる子共々食い殺されるだけだ。
短剣の特性も活用し、身体全体を使いながら対応する。足りないのは速度だ。もっと速ければ.....そうだ!新しく手に入れたスキル!
一旦家庭科室の外に出てモンスターを誘き寄せて、全員が外に出たところで中に飛び込んでドアに鍵をかけて閉めた。
「ステータス!」
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名前 戦場 蓮
性別 男
レベル:8
職業 未設定
体力:1630 筋力:86 速度:86
防御:88 知能:88 器用:86
スキル
【短剣術 lv.2】【察知 lv.2】【神童】
【疾駆 lv.1】【無限魔力】【魂操】【火種】
称号
【先立つ者】
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モンスターを倒している内にレベルが上がっている。スキルレベルも少し上がったよう。でも今はそれより新しいスキルについてだ。【疾駆】の文字をタップする。
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【疾駆】
魔力を使用することで、速度を20%増加させる。使用時間は込めた魔力量によって変化。
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ここで使うのか魔力を!速く動けるようになるなら使ってみるしかないよな。それに俺には【無限魔力】があるのでずっと使い続けられるはず!
「魔力を込める....魔力を込める....」
身体の中にあったもやを動かすようにして溜めていく。魔力で全身を覆い、ドアを開ける。
「【疾駆】」
次の瞬間、俺はモンスター達の後ろに立っていた。あまりにも速い速度にモンスター達は目で追うどころかついていくこともできていない。これで殲滅が可能になった——
わけではない。むしろまったくと言っていいほど状況は変わっていなかった。
「さっきより増えてんじゃねえか!」
一度教室に戻った判断が間違っていたとは思わないが、それでモンスターが増えたというのも事実だ。
俺だけなら逃げ出せるけど助けに来た時点でその選択肢はどこにも無い。だから考える。思考を止めれば死が待ち受けるのみだ。後ろの彼女が戦ってくれれはそれが一番だが無理だろうし...さてどうする?
俺が悩んでいる間にもゴブリンと狼は止まってくれない。斬って斬って斬って斬って斬りまくる。また一つレベルが上がったとシステムが知らせてくれる。既に俺の全身はモンスターのせいで血塗れだ。
足を噛まれたので短剣でその狼を滅多刺しにし、後ろに控えていた狼目掛けて蹴り飛ばす。
足が上手く上がらない。体がだるい。動きが速くなるということは短時間の運動量が増えるということでもある。
「ハア...ハア...ハア.......」
最初にゴブリンを倒した時はなかった命に手がかかる感覚が押し寄せる。命の危機に全身が粟立つ。
「どうせ死ぬなら全部試してからだよな」
そう決意し、俺は右手に魔力を集め始めた。
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