第29話 火種
凍堂は友人を、友情を奪われた。
ある生徒は愛する人を、命を、そして尊厳を奪われた。
伊織は自らの護るべきその生徒を奪われた。
人々は普通の日常を、平和な毎日を、少なくとも子供が笑って暮らせる日々を奪われた。
誰もがこの状況に、変わった世界に不満どころではない憤りを感じている。
俺もその中の一人だ。誰か大切な人を、物を失ったわけでもない。だがそれでも、俺はこの理不尽な現状に納得していない。理不尽なことではないのかもしれない。元から定められていたのが今の世界なのかもしれない。
でもそんなことは関係ないんだ。俺は今の世界が気に食わない。戦う動機はそれで充分だろう。戦うという意思が、怒りが俺に火をつける。
日常を、平穏を、未来を奪われたのなら——
俺も全てを奪ってやる。
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破壊された校舎の破片が飛び散る中庭に、大きな金属音が鳴り響く。無論、攻撃したのは俺だ。右手には「純黒」を、左手には新しい武器が握られている。
「グガァッ!?」
白い刃に、灰色のつか。形はどことなく「純黒」に似ている。この短剣の銘は「
エリアモンスターが出現したという知らせと同時に与えられた武器ガチャチケットを使って手に入れた。今は使っても意味がないと思い取っておいたのだが、ありがたいことに望んでいた武器が排出された。
ピロン!
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『黒の片割れ』と『白の片割れ』を手に入れました!二つの武器が再会を果たしたことにより、武器がアップグレードされます!
ランクS 『反逆の双剣』
攻撃力+500×2
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これを手に入れたおかげで今キングの防御壁に大きな傷をつけることができた。
先程まで死にかけたいたのに頭の中はすっきりとしている。前よりも身体が軽いし、今ならなんでもできるという全能感がある。これは——
ピロン!
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スキル【****】の完全取得には対象者のステータスが足りません。よって【****】の一部を解放します!
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どう考えてもこれが原因だろう。このシステムメッセージが聞こえてから身体が動くようになったしな。それによるとどうやらこのスキルを発動させるにはまだレベルが足りないらしい。
まあ動けるならそれで充分。
「これでお前を殺せる。その癪に触る笑い....二度と出来なくさせてやるよ」
どう見ても瀕死だった俺がピンピンしているのを見て混乱しているキングにそう告げる。それでも尚、キングは余裕とばかりに笑みを浮かべたままだ。いつまでその余裕が続くか見物だが、俺もこの状態は長く続かない。詳しくはわからないが、感覚で言うのなら5分が限界だ。それまでに決着をつけなければ俺の負け、ってことになる。
時間制限があるので手早く終わらせよう。
踵でリズムを刻む。そのほうが素早く動けるからだ。息を整え、紅い目でキングを見据える。
キングの視界から一瞬にして消え、その背後に回り込む。速度もさっきまでとは段違いに上がり、暗殺者としての戦い方が出来るようになった。
首の後ろを斬りつけ、即座に移動。キングが振り向く前に次は足元へと移動する。これを繰り返し、何度も二つの短剣で斬りつけるといくつかの傷から防御壁が溶けていくのがわかる。
一本では、最大限の効果が発揮できずキングの防御壁を「純黒」で腐食させることは出来なかった。しかし、二本になり性能が底上げされた今ならどうか。結果は見ての通り、キングにすら通用するほどの腐食効果になったようだ。
身体が赤色に変色してから防御壁も元に戻ったようだが、これなら直ぐに破壊できる。俺の動きが追えていないのだから、俺を止めることなんて出来やしない。
再びキングに肉薄し、双剣を振るう。キングの剛腕が俺の近くを掠め、地面を砕いた。そのパワーたるや、まるでダンプカーが衝突したかのように地面が陥没するほどだ。まあ問題はそこではなく、段々と俺の動きに着いてきているということだ。
元々俺の方がステータスが低かったので当たり前ではあるが.....それだけじゃないな。腐ってもエリアモンスターってことか。パワーもスピードも段々上がってきてる。なら俺もそうしよう。
更にスピードが上がる。キングを上回る速度で動き、時には背後を、時には頭上をとり着実に防御壁をすり減らしていく。【疾駆】を使えばまだまだキングに遅れはとらない。それに防御壁も強化されているみたいだ。感触的に前のならもう割れているはずだというのにそうなる気配が見えない。
ま、壊れるまで攻撃し続けるまでだが。
何度も、何度も、同じ事を繰り返す。キングも速くなっているが、それは俺も同じだ。ステータスが上がっているであろう身体にやっと感覚が追いついてきた。
それでも種族としての差は大きいようで、もう加速した俺に対応してきている。少しでも判断と行動が遅れれば、そこでゲームオーバー。戦闘不能を通り越して一気に死へ一直線だ。そんな状況だからこそ、キングが必死になっている姿をみて口角が上がる。
前のような強者としての威厳はもうそこには微塵も存在していない。あるのは同等の相手と戦うモンスターの姿のみ。これこそ、俺が望んでいたキングの姿だ。
更にスピードを上げる。スキルによって強化された身体でも引き締めていなければ即座に壊れるほどの速さへと。そうでもしなければ追いつかれる。蹴り、殴打、その全てを避けながら防御壁に損傷を与える。
クソッ!スキルの影響が思いの外少ない!気合で速度を上げるのにも限界がある。もっと、もっと速く——!
ピロン!
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スキルレベルが10になりました。
スキル【疾駆】が【疾走】に進化しました!
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瞬間、視界が横に流れていく。スキルレベルによるスキルそのものの進化、予想外だったがこれとなく好都合だ。丁度キングの眼前で加速した俺の短剣は、防御壁に突き刺さる。それが限界だったのか、空気が割れるようなエフェクトと共に何かが砕け散る感覚が手に伝わってきた。
振られた拳を避け、その首に刃を突き立てるため最速で正面から突っ込む。防御壁が無くなった今、キングは丸裸も同然。『反逆の双剣』を使えば一撃で殺せる!
が、易々とそれを許すほどキングは余裕甘い相手では無かった。それを誰よりも実感していたはずなのに、俺は最後の最後に過ちを犯した。
そのせいか、俺の真横からキングの巨腕が風切り音を上げて迫ってくる。直線に突っ込むのは悪手だった。これは避けられない。加速した状態では方向転換が効かず、直撃するしか選択肢は無い。
俺は、ここで死ぬのか?
そう覚悟したときだった。あの声が響いたのは。
「《
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ちょっと今回情報量多かったですね。詰め込みすぎました。
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