第19話 道すがら
「グギャァァァ!!」
いつもお馴染みの廊下に、断末魔が木霊する。そこにはゴブリンの死体と血が散乱していた。死体はしばらく経つと、青い粒子となって消えていくが血は残ったままだ。今日もスプラッタを見ることができた。別に嬉しくはない。
この惨劇を生み出したのは青海と凍堂だ。体育館に行く道すがら、青海に戦い方を教えつつ凍堂は新しいスキルを試すことになり今に至る。
少し身体の動かし方を教えただけなのにここまでやるとは、青海の戦闘センスはかなり高い。これなら仲間にした甲斐があるってもんだ。【羅刹】スキルも上手く作用しているのだろう。ちなみに俺は青海のステータスを知らない。俺も教える気は無いので見せる必要はないと言ったら納得してくれた。もしかしたら敵になるかもしれない相手にステータスを見せるなんて怖くてできない。
一方、凍堂は新しいスキル【中級水魔法】を習得したようだ。攻撃範囲や威力が上がり、初級の時よりも大幅に性能が上がっている。【杖術】のスキルレベルも上がってきているので、近接戦闘も中々こなせるようになってきた。
今の学校内なら一人で出歩けるほどの実力だ。青海はまだレベルが低いので一人でやらせるには早い。まあ過保護にする必要はないが、一応仲間なわけなので簡単に死なせるような真似をするつもりはない。教えるからには責任を持つ。
ま、この二人がいるおかげで俺の出番がない。このまま続けてくれれば楽でいいが、どうやらそうもいかないらしい。
「ブルゥゥゥ」
廊下の角から三体のホブゴブリンが姿を現す。凍堂達の良い練習台になりそうだ。
「凍堂、青海。一体はお前らでやってくれ。残りは俺が受け持つ。無理だと思ったら俺が終わるまで時間を稼げ」
そう言い残して俺はホブゴブリンに突っ込んでいく。後ろで凍堂の返事が聞こえる。その内の一体を思い切り横に蹴飛ばして分断し、凍堂と青海が対処できるようにした。
前回から何度かホブゴブリンには会っているので戦い方は理解している。コイツらの特筆すべきはパワーと複数体による連携のみ、俺のスピードには到底着いてくることができない。だからと言ってすぐに終わることもない。食堂では俺の筋力が足りず、浅い傷しか与えることができていなかった。逆に言えばそれさえ克服すればすぐに倒すことが可能だということ。
二体が振り回す剣の間をすり抜けて接近し、壁を使ってホブゴブリンの頭の位置まで跳躍する。
先程、俺の筋力ステータスが足りなかったと言ったが、レベルアップを果たした俺の筋力ではどうなるのか?
ホブゴブリンの首をいとも簡単に「純黒」が貫き、そこから血が吹き出す。答えはこの結果が如実に示しているだろう。レベルが上がった俺にとって既にホブゴブリンは苦戦する相手ではないのだ。だが油断は禁物。急所を狙えば簡単に倒せるも、それ以外—例えば腕や脚はそう楽に切断することが未だできない。警戒をやめられるほど俺はまだ強くないのだ。
もう一体は周囲を走り回って撹乱し、俺の姿を見失ったところで首を切り裂いて倒した。広い場所だから良いが狭い場所での戦闘でも対応できるようにしておかなければ。
それはさておき凍堂と青海は大丈夫だろうか?
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「凍堂、青海。一体はお前らでやってくれ。残りは俺が受け持つ。無理だと思ったら俺が終わるまで時間を稼げ」
先輩が角から現れた内の一体のホブゴブリンをこちらに蹴りとばす。そんなことをいきなり言われるなんて!でも先輩は無茶な指示は出さない人だ。短い間しかない関係だけど、それくらいはわかる。少しパニックになりながらも青海さんとコミュニケーションをとる。
「私が魔法で攻撃するから青海さんはその刀で!」
「了解よ!」
蹴飛ばされたホブゴブリンが起き上がるまでにそれぞれの役割を割り当て、戦いに備える。私は「ミスティルテイン」を構え、青海さんはガチャで手に入れた「藍爪」という名称の青龍刀を構えた。ランクはAでかなり切れ味がいい、と先輩が言っていた。
「《水弾》!」
前と同じように水弾を展開し、ホブゴブリンを攻撃する。案の定、相手は水弾に気を取られて、近づいてくる青海さんに気づいていない。
「グギッ!」
その隙に青海さんが存分に斬りつける。斬られてから初めて青海さんの存在に気づき、苦悶の声を漏らす。人間の形に似ているとはいえ、知能はそれほど高くないというのが私達の見解だった。
それでも中々決定打に至ることができない。青海さんもSランクのスキルを持っているとはいえ、まだレベルが低いので大きな効果がある攻撃はできそうにもなく膠着状態が続いている。ずっと攻撃していれば失血死するだろうと先輩が言っていたが、そうなるまで時間がかかりすぎる。
なので私は新しく手に入れたスキルを使うことにした。
「青海さん!一旦引いて!」
青海さんがホブゴブリンに一撃を加え、私の射線から離脱する。これで準備は整ったので新たな魔法を唱える。
「《
浮かべられていた水が集まり、一気にホブゴブリンに向かって飛んでいった。大きな圧力よって射出されたそれは、ホブゴブリンの右肩から腰までを斬りつける。そこに青海さんと一緒に畳み掛けて心臓部分を突き刺す。《水流刃》の時点で致命傷だけど、念のため追い討ちをかけることにした。
心臓部を突き刺し、ホブゴブリンが青い粒子となって消えていくのを確認してほっと息をつく。
「青海さんは大丈夫?怪我とかしてないですか?」
「ええ。問題ないわ」
この人は本当に何者なんだろうか。年齢も教えてくれないので少し対応に困る。
ホブゴブリンを倒したことを報告しようと先輩の方を振り向く。
「先輩!終わりまし......」
そこには二体のホブゴブリンの死体を切り裂いている先輩でした。
「流石ね。私達が一体を相手している間に一人で二体も倒すなんて」
青海さんが素直に賛辞を述べる。にしても先輩強すぎませんか?まだまだ届きそうにありませんね。
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「ていうか何してるんですか?」
見事ホブゴブリンを二人で倒した凍堂に問いかけられる。
「ん?コイツらの弱点を探ってた。まあやっぱりほぼ人間と変わらないよ」
一応凍堂と青海にも解剖結果を伝えておく。機能は人間とほとんど変わらない。違うところと言えば筋肉のつき方などだった。俺の拙い生物の知識でもこれくらいはできる。
弱点を共有し、梶木に捕まっていた生徒達を連れて体育館に再び向かう。
「ストップ」
人差し指を口に当てて静かに、のジェスチャーを送る。
入り口が見えてきたが、何か様子がおかしい。聞こえてくるのは破砕音と金属音。どうやら戦いの最中みたいだ。
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