第27話 弱点

俺はまたもやゴブリンキングに向かって突進する。攻撃が通らなくても腕を、足を何度も「純黒」で斬りつけ、その度に殴り飛ばされるのを繰り返した。


意味もなくこんならことをやっているわけではない。さっき俺が視界の端に捉えたのは、アイツの体表に浮かぶ切り傷だった。体表といっても皮膚にではない。そのまた外側に傷を発見したのだ。


壁を斬ったような感覚、皮膚の外に位置する傷。ここから俺が推測したのは、ゴブリンキングはなんらかの防御壁、バリアのようなものを纏っているのではないかということだ。魔力砲が効かなかったのも恐らくそれが関係している。


だが、短剣で斬ったところには薄らと傷がついていた。つまり、物理攻撃もしくは斬撃系の攻撃ならばいつかあの防御壁を破る事ができるはず。.......この推測が外れていたら潔く死ぬしかないな。


そうならないためにも、絶対にコイツを倒す。


ヒット&アウェイでは時間がかかりすぎる。キングの近くに張り付きながら、攻撃を避けて短剣で一箇所に攻撃を集中させる。それができれば最高だけどそう上手くいくとは思えないんだよな.....。まあ取り敢えずやってみるしかない。


キングに接近し、短剣を振る。変わらず金属音が響き、それと同時に巨大な腕が俺の眼前を通りすぎた。今のを避けるのでさえギリギリだ。それでも退くわけにはいかず、そこに留まったまま背後に回り背中を斬る。


速度値が高い俺なら一度の攻撃で五回は同じ場所を斬ることができた。これなら少しは楽になるが、キングの攻撃の威力が減るはずもなく、紙一重で攻撃を躱す。掠っただけでも頬に切り傷ができるほどのスピードと質量の拳が飛んでくる。


俺が関係なしに攻撃をし続けていることから防御壁のことがバレていることに気づいたのか、一層攻撃が激しくなる。腕と同じように太い足を思い切り俺に当てようとする。それをジャンプして避けるも、空中で身動きが取れない間にパンチが飛んできた。


さっきよりも速い—っ!?


「ガハッ!!」


何度もやったように短剣で受ければそこまでのダメージは負わない。その予想は根底から覆された。キングの拳が腹部に直撃し、俺は吹き飛ぶ。地面を何度かバウンドして止まり、その衝撃で短剣を手放してしまう。


「クッ、カハッ.....ゲホゲホ!」


クソッ!今ので肋骨が何本か逝ったぞ......そろそろやばい。人体としての限界が近いんだが.....まだ防御壁すら破れていないというのに!


「《回復ヒール》」


事前に習得していた【初級回復魔法】を使い損傷した箇所を修復する。まだ初級だからか回復速度は決して速いとは言えないが、無いよりはましだ。


これでもまだキングは追撃をして来ない。まだ俺のことを舐めてるのか......?クソが....絶対—


思い切り自分の頬を引っ叩く。落ち着け!俺の目的はコイツを倒す事じゃない!避難が完了するまでコイツを足止めすることだろ!それまでコイツの興味が俺から離れないようにするのが俺の任務だ。

自分のやるべき事を見失うな、もっと冷静になれ。


「ふぅー」


息を吐き、頭を冷やす。興味を無くさないようにするのなら致命傷を負わせる必要はない。防御壁も破るのではなく破るのではないかと思わせるんだ。幸いキングにはホブゴブリン以上の知性がある。それを逆手にとってここに釘付けにする!


俺が起き上がるとそろそろ痺れを切らしたらしく、初めてゴブリンキングから攻撃を仕掛けてきた。単調なパンチの連打だが、全て当たったときの破壊力は計り知れない。一つでも命中すれば、傷ついた俺の身体は動かなくなる。


【疾駆】【身体強化】そして【弱点看破】を更に集中して発動させ、拳と拳の間を縫うようにして回避行動をとる。【弱点看破】は相手の身体的な急所を見つけるだけのスキルではない。あらゆる事象、生物における俺にとっての弱点を視界に写すことのできるスキルなのだ。今の攻撃を避けられたのは、俺の視界に全ての攻撃の軌道、速度を加味した上での回避線が見えたから最適な行動を取ることができた。


俺がこの特性に気づいたのは食堂で梶木達と戦ったときだ。対複数で、様々な方向からナイフ、バットなどの武器が俺に向かって振られたところその軌道が見えた。それからというもの、戦闘中に発動させて攻撃の軌道を視認できるようにするものだと今回確証を得た。しかし、これは常時使えるようなものではない。あまりの情報量に俺の脳が持たないのか、長時間使用すると頭に痛みが走る。


だが奥の手を温存して相手どれるほど甘い敵ではない。さっき殴られて理解した、アイツはまだ全力じゃない。けれどそろそろ俺に飽きる頃だろう。そうなれば圧倒的な暴力に俺は屈するほかない。


だからこそ今、俺も全力でやってやる。足止めはもちろん、倒すつもりで戦わなければ足止めすらできない。


まずは撹乱からだ。持てるスキルを全て使い、常にトップスピードを維持しながら動く。身体中が悲鳴を上げているがそんなことはお構いなしにキングの周囲を走り回る。傷がまだ完全に治っていなくともここで止まれば元の木阿弥。


俺のスピードに追いつけず、段々と苛立ってきているゴブリンキング。このまま攻撃を繰り返して防御壁を割れれば.....!


「ウガアァァァァァァ!!!」


やはりそう上手くはいかないか。キングが両手を振り下ろすと地面が割れ、その破片が周囲に飛び散る。破片と呼べる大きさではなく、無闇に移動すればそれにぶつかってしまうが俺は止まらない。破片を避け、キングに肉薄する。


あと少し、あと少しで防御壁は割れる。そうなればあとは俺のターンだ。


そして短剣がゴブリンキングの防御壁を砕くことは無かった。近づいたとき見えたのは赤黒く変色したゴブリンキングの姿。次の瞬間には俺の視界は空を向いていた。


「ゴフッ!............ッ!」


背中に大きな衝撃が走る。元々折れていた肋骨にも衝撃が伝わり、あまりの激痛に声すら出すことができない。


すでに、俺の身体は限界を迎えていた。





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