第32話 世界の意志
意識が深く、深く沈んでいく。
気絶したはずなのに思考ができる。だが、どこか周囲がボヤけているようだ。まるで夢の中にいるように。
何故こんなことになっているのか、などと考えている内にも俺は更に深く沈んでいく。意識が、では無く俺自身がだ。
少しすると、視界がパッと明るくなる。あまりの眩しさに目を閉じ、数秒経ってからそろりと目を開けた。
そこは真っ白な空間だった。いや、よく見ると様々な文字や数字が羅列されている。日本語だけには留まらず、英語、ロシア語、韓国語やどこの言葉かも分からないものまで多種多様だ。しかも、それらは壁に刻まれているのではなく浮いているように見える。
白さにむらが無いので壁と床の判別がつかないからそう見えているのかもしれないが、よく考えると俺の足は現在地面についていない。つまり、空中に浮いているのだ。
だが不思議と焦りは無い。なんと言えばいいのか........俺にはこれが現実の出来事ではないと解っているから、というのが一番正しい。夢は夢だと分かるように、俺にはこれが現実ではないと分かっている。だから、こんなにも落ち着いていられるのだ。
『やあ、戦場 蓮くん。初めまして』
どこからともなく声が響く。高くも無く、低くも無い特徴のない声だ。
「あんたは誰だ?何のために俺をここに呼んだ?」
最初に聞くべきはこれだろう。まあ.....おおよその検討はついているが。
『僕は、いや僕達は君にメッセージを送り、ステータスを与えた人物だよ。所謂.....『世界の意志』さ』
ふん、やっぱりな。そんな所だろうと思ったぜ。
急に、光の粒子が俺の目の前に集まって人型が形成される。創り出されたのは、少年のような風貌をした『世界の意志』だった。まあ今更こんなことに驚きはしないが。
『おや?思ったよりも落ち着いているね。あの告知が流れた時既に君は意識を失っていたと思うけど.......聞こえていたのかい?』
「いいや?その告知とやらは聞いてない。こんな超常現象を起こせるのはお前くらいのものだろ?自ずと答えは出るさ」
こんなことが人間に出来てたまるか。そういうスキルも有るのかもしれないが、俺の名前を知っているのはおかしいだろ。
『流石、レベル50以下でエリアモンスターを単独撃破しただけはあるね』
「おい、ちょっと待てあのゴブリンキングはレベル50相当だったと?」
それは聞き捨てならない。強すぎるだろうが!
『うん。だから皆で協力して、って書いたでしょう?』
「全員でやった所で勝てるかよ!殆どがレベル10にもいって無いんだぞ!?」
『悪いとは思ってるけど.....僕にも選択肢が無かったんだよね』
声色が一段沈んだ。本気で反省しているような物言いに、少し気が狂うも気になっていたことを質問する。
「お前に聞いておきたい事がある」
『構わないよ、何でも聞いてくれ。答えられるかどうかは分からないけれど』
「.......お前なのか?この惨状を生み出したのは」
沈黙が場を支配する。『世界の意志』は一瞬目を見開くと、俯いて口を開いた。
『ある意味では僕ということになるけれど....本当の意味では僕ではない』
「要領を得ない回答だな。もっとハッキリ言えよ」
これだけはハッキリさせなければ俺の気が済まない。
『それをハッキリさせるためには、この現状が起きた理由について説明しなければいけないんだよ』
「ならさっさと話せ。俺は気が長い方じゃ無いんだよ」
『うん。——君は、異世界の存在を信じるかい?』
「ああ?それとこれ何の関係が—
『関係があるから聞いているんだよ。取り敢えず答えてくれ』
異世界が関係するってどういう話だよ.....答えないと話してはくれないよなぁ。
「正直に言うなら信じてない。けど、今は微妙だ。こんな状況じゃ非現実的だと笑うことも出来ない」
こんなモンスターやスキルやらが今、俺の目の前にあるというのに異世界が無いとは言い切れない。
『そうか。最初に言うと、異世界は存在している。今のところ確認出来ているのは一つだけだけどね』
「.....!マジかよ。で?それがどうこの話に繋がるんだ?」
驚きの真実だが、今はこちらの世界の話だ。
『今、この世界—私達の世界を現実世界とすると、現実世界は異世界と繋がり始めているんだ』
「........は?どういうことだ?」
素直に理解が追いつかない。異世界が存在していてしかも俺達の世界と繋がっているだと?
『まあ原理は説明しても意味が無いからね。そういうものだと思ってくれ。で、事の発端はあちら側の僕.....異世界で言うところの「神」だ』
「「神」?そんなもんが本当に存在するのか?」
異世界うんぬんについては納得した。.....いや納得はしてないが理解はした。にしても「神」か。
『いいや?そんなものは存在しないよ』
「ならどういう事なんだよ!」
話が違うじゃねえか!
『落ち着いてくれよ。ソイツは本当に神なわけじゃない。神を自称する存在だよ。でも厄介な事に神の如き力を持っている』
「はあ....荒唐無稽な話だが良しとしよう。その自称神がどうしたんだ?」
『彼は異世界を支配するだけでは飽き足りなかった。更に広大な土地を空を、資源を求めたんだ。しかし、もう異世界にそんなものは無い。そこで目をつけたのが、この現実世界ということさ。彼はこちらと異世界を繋げて世界を乗っ取ろうとしている。それを食い止めようとしたのだけれど....僕では対処し切れなかった』
「それで、せめてもの対策がステータスか?」
『その通りだ。自分の身は自分で守る、という言葉通り君達自身に力を託すしか無かった』
なるほど.....異世界の神、か。ふざけやがって。
「ならお前は悪くねえだろ。むしろ俺達がお前に感謝しなくちゃならねえ」
『あはは、そう言ってくれると救われるよ』
「お前が原因だったら一発くらい殴ろうと思ったんだけどな....」
『どれだけ殴って貰っても構わないけど、僕は物質体じゃないから意味ないよ?』
「それでも、だよ。気分の問題だ」
殴らなきゃいけないのは異世界の住人かよ。遠いな...。
「あ、そういえば俺の【火種】ってスキルなんなんだ?説明が見れないんだけど」
『ん?ああ、それは——いや、やめておこうか。あまり知りすぎても面白くないだろう?』
「ちょっ!途中まで言いかけて止めるとかズリぃぞ!」
逆に気になっちまうだろ!微妙に性格悪いよなコイツ。
『まあ一つ言うなら、決して君の損にはならないってことくらいかな』
「お前に教える気が無いってのは分かったよ。ていうかそもそもお前って何なんだ?」
実はこれ、最初から気になっていたことだ。もっと言うならモンスターが現れたときから。神でもなく支配者でもなく「世界の意志」だぞ?
『お、やっと聞いてくれたね。いつ質問されるかドキドキしてたんだ。僕は、意志だよ。名前通りね。この地球、果てには宇宙までにも存在する概念の集合体さ。だから物質世界には干渉できないし誰かとの意思疎通も簡単にはままならない。唯一出来るとすればあくまでサポートだけってわけ。君と話すのも結構大変なんだぞ?』
「ふーん。よく分からんけどなんとなく分かった。......もう聞きたいことは無いよ」
嘘だ。まだまだ聞きたいことはごまんとある。でも聞いたところで俺には解決できないし、コイツも答えてくれないだろう。無駄なことはしなくていい。
『そうかい?ならもう戻ったらどうかな。呼んだのは僕だけど、この空間を維持するのも難しくなってきた所なんだ』
「.......どうやって帰るんだ?」
『もうすぐ帰れるよ。ほら、身体が透け始めた』
下を見ると、俺の身体、正確には足が透けて消えていっているのが分かる。
『一旦お別れだね。また、何かを成せば君とコンタクトが取れる。頑張って——
生き残ってくれよ。蓮』
もう喉まで消えかかって、声が出せない。
俺の意識は、その言葉を最後に闇に呑まれていった。
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この一話に会話を全て詰め込もうとしたら長くなりました!......まあ、たまにはいいですよね!
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