第10話 凍堂のステータス

凍堂が初めてゴブリンを殺してステータスを取得してから二日が経った。ここまで助けが来ないのなら政府は役に立たないということになる。


既に凍堂のレベルは5まで上がり、俺のレベルも一つ上がっている。


「ステータス、確認させてもらえるか?」


「はい。『ステータス』」


備品倉庫で凍堂のステータスを見せてもらう。


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名前 凍堂 雪菜


性別 女


レベル:5


職業 未設定


体力:1400 筋力:56 速度:56

防御:60 知能:70 器用:65


スキル

【魔力自然回復 lv.3】【詠唱破棄】

【初級水魔法 lv.3】【察知 lv.2】

【杖術 lv.3】【成長促進】


称号

なし


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ステータスで一番高いのは知能、つまるところ魔力なので魔法使い系だ。最初のスキルガチャで【魔力自然回復】と【詠唱破棄】が出たのもそれを後押ししている。この二つのスキル効果は文字の通りだ。俺はゴリゴリの近接タイプなので、後衛ができたのは行幸だった。


スキル一覧から買ったのは【初級水魔法】と【察知】、【成長促進】の三つ。【成長促進】は俺も既に購入している。この効果は「取得経験値 1.2倍」だ。よって俺の経験値は1.44倍。端数切り捨てらしいので1.4倍。更にレベルアップが速くなった。


凍堂のスキル一覧に特殊スキルは無かったので、【神童】などの特殊スキルは人によって違うようだ。


そして、凍堂がガチャで手に入れた武器がこちら。


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Aランク武器 ミスティルテインの杖剣


神の宿木を使ってつくられた杖剣。魔法の消費魔力量を抑える働きがある。


魔法攻撃力+100

物理攻撃力+50


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お分かりの通り高性能武器だ。Aランクさながらの能力を備えており、魔法使いの弱点である近接を克服できる武器になっている。Aランクだからか俺の「純黒」よりも説明文が長いし。


「ステータス、見せてくれてありがとう。少ししたら食堂の方の様子を見に行こうと思うんだが.......」


凍堂に礼を言い、次に向かう場所を提案する。


「いいと思います。食料の確保が主な目的ですか?」


「ああ。そろそろ食料を新たに確保しておく必要があるしな。それに加えて探している奴がいる」


探索は言わずもがな。探したい奴とはもちろん海城のことだ。


「しかし食堂の食料は既に体育館の人達が取りに行っているのでは?」


「いや、食堂は体育館の真反対にあるだろ?だからまだ辿り着いてすらいないと思う」


食堂が体育館の真反対にある上、あちらには足手まといが多すぎる。戦闘部隊と補給部隊はわけていると思うが数が多ければその中でも戦えるやつと戦えないやつが出てくるからな。困っている人を見捨てられないのが我らが生徒会長だ。まあ天堂もだけど。


「なら行ってみましょう。今からで良いですよね?」


「うん。そのつもりだから準備しておいて」


「了解です!」


にしても凍堂のやつも強くなったな。肉体面でもそうだが、何より精神面で。......なんで俺こんなに上から目線なんだ?知らぬ間に驕っていたのか。ちょっとショックだ。


そんなことより食堂、大丈夫か?そもそもモンスターの根城になっているかもしれないし慎重にいかなきゃならない。


もしくは——





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同時刻


食堂の中は、一面血の海になっていた。ここを巣にしていたゴブリンを全員始末し、自分達の拠点にしたのだ。


その一行は食堂のテーブルに座り、仲間内でお喋りをしている。数人は椅子に座っているが、それは四つん這いになった人間だ。椅子代わりにされている生徒の顔は原型が分からないほどに腫れている。更にその後ろには何人かの生徒が立っており、中には女生徒の姿もある。


「にしても見たかよ!あのゴブリン共の間抜け面!仲間が殺されてんのにギャアギャア喚きながら突っ込んでくんだぜ!?」


「あれは笑えたな。少し考えれば敵わないと分かりそうなものだけどな!」


話の内容は先程駆逐したゴブリンについてだ。この会話だけで彼らがゴブリンを簡単に一掃できるほどの実力を持っていると分かる。蓮が聞いていれば眉を顰めたであろう内容だった。


この食堂内ではいわゆるカーストというものが存在していた。今喋っていた彼らは富豪。後ろに立っているのは貧民。そして椅子になっている生徒はさながら奴隷と言ったところか。


逆らえば待っているのは暴力の嵐。例えあちらが悪くても反論は許されないし、することもない。この数日で反論すればどうなるかはこの場にいる全員が理解していた。いや、させられていた、というのが正しい。


初日、彼らに逆らったある生徒がいた。普段から特に目立った素行もなく、友人も多い生徒だった。彼は柔道部に所属し、大会でも結果を残していた。だがそんなものはステータスを取得した者には通用しない。散々殴られた挙句、彼女を目の前でレイプされた彼は完全に心が折れた。目の前で首を切って自殺したのだ。


この記憶は彼ら、彼女らの脳裏に深く刻みつけられている。それほどまでに凄惨な状況だった。


未だ喋り続けている富豪格の生徒に声がかかる。


「おい。手前ら血を掃除しておけよ?俺は汚ねえのが嫌いなんだ。分かってるよな?」


食堂の奥から響く声。その男が発言した途端、食堂を圧迫感が支配する。貧民格の生徒は勿論、先程まで喋っていた生徒も黙りこくってしまった。


彼がこの食堂、このカーストにおける「王」にあたる。


蓮達が向かう食堂には、狂気的な悪意が待ち受けていた。

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