第36話 望んだ再会

角から飛び出ると、同時に相手の方が攻撃を繰り出した。


剣を前に出してそれを受け止めると、あたりに金属音が鳴り響く。


っ!力が強い!けど対応できないほどではない。伊達に俺のレベルが三十の大台に乗っているわけではないのだ。


これ以上の力比べは不毛だと判断し、お互い後ろに飛び退く。そこで初めて俺は相手の顔を見ることが出来た。恐らくは相手も。


「海城!?お前、海城か!?」


「おー!蓮じゃねえか!」


海城かいじょう 斗真とうま。俺の中学からの唯一の友人で、モンスターが現れてから俺が最初に探した人間でもある。


「せ、先輩!?お知り合いですか?」


そんな久しぶりの親友との再会に俺達は——


お互いの首筋に武器を突きつけることで応えた。


俺はもちろん短剣、斗真はガントレットを身につけている。赤を基調として、所々に黒いラインが入った無骨な手甲だ。コイツらしいと言えばコイツらしいが、ランクは恐らくA以上。上手く対応する必要がある。


「さて、お前に一つ質問するぞ?」


海城が俺に向かってそう言った。


「ああ、構わない。俺もお前に質問させて貰うけど」


「それで良い。じゃあ俺から、戦場 蓮 が命の次に大切にしている物は?あ、家族とかは含めないでな」


「愚問だな。答えは自分のスマートフォンだ。もっと詳しく言うならその中にある「写真」のフォルダ」


「正解っ!じゃ、次お前からいいぞ」


「もうやっても意味無い気がするけどな。海城 斗真 の好みの女性のタイプは?」


「はっはー!ロリに決まってるだろうが!」


一見引くような答えが返ってくる。状況が違えば通報ものだろう。


「正解だ。本物だったか」


「こっちのセリフだよ!にしてもひっさしぶりだなー!」


質問が終わった途端真剣な雰囲気が嘘のように消え去り、満面の笑みを浮かべ俺の肩を叩く斗真。


「え?え?今何してたんですか.....?」


豹変した斗真の様子を見て困惑したように凍堂が尋ねる。確かに側から見れば突然喧嘩し始めて突然仲良くなったようにしか見えないか。


「本当に本人かどうかの確認だよ。人間に化けるモンスター、またはスキルを持った奴がいる可能性があるからな」


学校内ならまだしも、外では一瞬の油断が命取りになりかねない。特に警戒しなければいけないのはモンスターによる被害ではなく、人間による襲撃だ。悪意を持って人を襲うモンスターよりも、悪意のある人間の方が多い。仲間でさえも信じられない、他人なんてもっての外だ。


今までそれを行って来なかったのはシンプルに確かめる術が無かったから。そこまで親しくもない奴を見分けるなんて出来ないし意味ないからな。


「ま、結果としてお前が本物だってことが分かったわけだが.....今何してるんだ?」


「それはこっちのセリフだよ!そんな可愛い子連れてなーにやってんだ?」


ニヤニヤしながら斗真が俺に質問を返す。殴りたい、その笑顔。


「うるさいな。公民館へ行こうと思ってたんだよ」


そう言うと、斗真は真顔になる。


「あーやめとけ。あそこはもう壊滅状態、魔物の巣窟だ。行っても殺されるだけだぞ」


「公民館が?なら他の住民はどこに避難しているんだ?」


この辺りに他に町民全員が避難できそうな場所は無かったはずだ。地図を完璧に暗記しているわけではないので何とも言えないが、それは確実。


「ああ、魔物に襲撃されてな。そこに集まってた奴らは結構散らばってるみてえだ」


思っていたよりも状況は悪いのかもしれない。最初から計画か頓挫するとは。


落ち込んでいても仕方ないので、凍堂と顔を見合わせ、話し合いをすることにした。


「どうする?俺としては無闇に動くべきじゃないと思うが......」


「........先輩の、家族はいいんですか?」


痛い所を突いてくるじゃないか。


「良くはない。だが、それよりも優先すべきことがある」


俺は今、凍堂の命に責任を負わなければならない。面倒を見ると決めた以上、俺が彼女を危険に晒すなんてことが有ってはならないのだ。

それに、無駄に探して俺が死ぬなんてことになったら本末転倒だしな。


「私なら大丈夫です。先輩は、先輩のやりたいようにやって下さい」


「.........いや、ダメだ。一旦学校に——


「蓮。悪い癖が出てるぞ」


背後から斗真に声をかけられる。悪い癖、か。斗真にいつも言われる過保護とかいうやつか?


「それに、探したいなら俺がいるとこに来りゃいいだろ。ちょうど戦力が必要なんだよ」


「いいですね!先輩、そうしましょう!」


そうして、なし崩し的に俺たちの次の行き先は決まった。反論する余地が無かったのが敗因だ。大勢がいる方が安心というのは間違っていないし、斗真がいるなら変な事になる可能性も低い。


凍堂の言うことも間違っていない。アイツもちゃんと状況を鑑みれるようになって来た。それは素直に喜ばしい。


まあ、それは良いとして、だ。


凍堂が移動の準備をしている間に、俺は斗真に詰め寄る。


「お前、最初からこのつもりだったろ」


「んー?何の事だ?」


素知らぬ顔をして惚ける斗真。


「戦力が必要?つまり、お前がここにいたのもそれの確保のため。違うか?」


こんな世界で戦力が必要な時期なんてのはいつもと言っても過言じゃない。それでも"時期"という言葉を使うということは、近々戦闘の予定があるということだ。


「やっぱお前は騙せねえよなぁ〜」


はぁ、と溜息を吐いて斗真はドカリとその場に座り込む。


さっきも言ったように、俺には命二つ分の責任がある。状況把握はもちろんの事、斗真でもなければ俺は他人を信用しない。たとえそれが凍堂の友人だとしても、俺に仇なすのであれば制裁を加える。


だとしても、俺は知っておく必要があるんだ。


「詳細を、出来るだけ詳しく」











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すいません!更新までめちゃくちゃ時間空きました!


お読みいただきありがとうございます!

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