第16話 side天堂②

モンスター達から逃げるために向かったのは体育館だった。道中でゴブリンに何度か出くわしたが、全て天堂が処理した。想像よりも数が少なかった上、血は飛んでいるが死体がないゴブリンも多かったので無事に辿り着くことができた。


「やっと着いた......でも結構人がいるね」


体育館には先にかなりの人数が集まっていた。怪我をしている生徒も多く、悲惨な状況を物語っている。


「勇樹は怪我してないよね?」


神崎が隣の天堂を心配する素振りを見せる。教室での戦いは上手くいったが、他でもそうかと言われればそうでもない。何度か危ない場面があったが、他の生徒に助けてもらいやっとここまで来ることができたのだ。


「うん。僕は大丈夫だって。それより他の皆が心配だよ」


「とりあえずここを指揮している人に会いにいきませんか?怪我の治療は保健委員の神崎さんに任せて私達は行きましょう」


「そうだね。ステージの方にいるのかな?」


明神の提案で指示を出している人に会いにいくことになる。負傷者や避難した生徒、教師を避けてステージに登る。


「あっ!会長!」


天堂が呼びかける。ステージ上にいたのは生徒会のメンバーだった。具体的な指揮をとっているのは生徒会長である 剣崎けんざき 伊織いおり だ。


「おお!天堂くん達じゃないか!無事だったのかい?」


艶やかな黒髪をポニーテールにまとめている。彼女は生徒会長であり、剣術の師範代である剣崎 弦一郎げんいちろう の孫娘でもある。そして天堂が密かに想いを寄せている相手だった。


「はい!うちのクラスは皆無事です!」


「ということは蓮もいるのかい?」


剣崎から蓮の名前が出る。


「蓮、ですか?」


今でこそ目立った行動をしているが、蓮は元々陰に属する者だ。天堂に認知されていないのも致し方ないだろう。


「ああ。戦場 蓮だ。クラスメイトだろう?」


「ええ。でも戦場さんならゴブリンが出てきたときには教室に居ませんでした。どこにいってしまったのか......」


剣崎の問いに明神が答える。彼女は天堂とは違いクラスメイトの顔、名前くらいなら全て覚えている。教室を出る際、いない人がいるかどうかを確認したのも彼女だ。


「ふむ....。まあ彼なら大丈夫だろう」


剣崎と蓮は一応幼馴染という関係にあたる。それには剣崎家の道場が関係しているのだがそれはまた別の話だ。


「そ、それより今は生徒会が指揮をとっているんですか?」


好きな人から別の男の名前が出てきて良い気はしないだろう。天堂は焦って話を変える。


「ああ。教師陣はあまり役に立たなかったからね。それに元々生徒会長という役職だし私がやった方がいいかと思ったんだ」


「そうですね!何かあったら僕も手伝いますよ!」


生徒会がここを指揮っていることに対する苦情はこない。理由としてこの寿高校の生徒会は教師にも劣らない権力を持っているからだ。生徒会は各学年の成績上位の生徒で構成されている。つまり、問題行動を起こさない生徒を選んでいるから権力を多く与えられているということだ。ゆえに成績だけではなく素行も判定に入っている。


由緒正しい家系に、成績もトップ。まさに文武両道を体現している剣崎が生徒会長に選ばれたのは自明の理だ。


「ところで天堂くん。あのモンスターを倒した人を集めてくれないか?大事な話があるんだ」


「モンスターを倒した人、ですか?それならうちのクラスでは俺だけですね」


胸を張るように天堂が言う。


「君だけなのか?なら丁度いい。実はモンスターを一度でも倒すと『ステータス』というものが手に入るんだ。口に出せば出現する」


「ステータス....ですか?」


急な知らせに明神が問いかける。


「そうなんですか!?『ステータス』!」


それを気にせず、天堂がそう唱えると前に半透明の板が出現した。


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名前 天堂 勇樹


性別 男


レベル:3


職業 未設定


体力:1500 筋力:55 速度:45

防御:45 知能:45 器用:45


スキル

【勇気】


称号

なし


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「本当だ!スキルがありますよ!」


「なに!?スキルをもう持っているのか?私達は空欄だったが.....なんというスキルだい?」


天堂のスキル欄には【勇気】というスキルがしっかりと記載されていた。蓮の【火種】と同じく先天的なものだ。


「【勇気】というスキルです。なにに使えるのかはわかりません。剣崎会長も持っていないんですか?」


「ああ。私はもちろん生徒会メンバーの誰も所持していなかった。にしても【勇気】か。我々が生き残るのに役立つといいのだが」


剣崎達、三年の生徒はこの体育館に来るまで生徒会のメンバーがゴブリンを倒していた。なのでステータスを全員が発現させている。文武両道の名に相応しく、彼らの身体能力ならばゴブリンは問題にならなかったのだ。体育館に着くまでに狼に出くわさなかったのは幸運といえる。


「はい!外に行くときは僕も一緒に行きますよ!」


「うむ。君が来てくれるなら心強いよ。とりあえず今日はもう外に偵察に出る予定はない。皆混乱しているからね。明日に備えて体を休めてくれ」


剣崎がそう言うと天堂は明神と共に神崎や天院がいる場所に戻っていった。


モンスターが出現しただけでもパニックの種である上、友人が死んだりした生徒にとってゴブリン達は恐怖の対象だ。彼らを安心させる意味合いでも生徒会の、剣崎の存在は欠かせない。しかし、彼女達も突然の出来事に心境の整理が着いていない。全員に休みが必要なのだ。


(まさかこんなことになるとはな。こんな時、蓮がいてくれればいいんだが....)


天堂が去ったあと、剣崎の心境を埋め尽くすのは今はいない幼馴染の姿だった。






————————————————————


次から視点が蓮の方に戻りまっす!

主人公視点より天堂視点の方が会話が多くてショックを受けました。







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